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第19話 杉林の捜索隊

 2019年2月22日。奥秩父村の杉林にて、男性の遺体が発見された。発見したのは、スギ花粉の調査にきた大学生達である。通報時に、大学生の一人が遺体の近くに落ちていた、期限の切れた免許証を発見して、その人の名前も伝えた。その結果、現場へ駆けつける際に、警視庁特課と捜査一課の榊原警部へも連絡がきた。

「現場に急行ですね。あれ? 佐倉巡査?」

 鐃警はすでに支度しているが、悠夏はデスクの周りを探しているようで

「現場、杉林なんですよね……」

「そうですね。聞いた話だと」

「マスクと目薬だけだと、厳しいかなぁ……」

 と、悠夏はいつになく不安な表情である。それもそのはず

「花粉症ですか?」

「警部。見ての通りです。今日も朝から鼻水が止まらなくて……。毎晩、お薬を飲んでいるんですけど、花粉の飛散量が毎年更新されていて、辛くて……」

 花粉シーズン前に、毎年といっていいほど、今年は去年の何倍という言葉をよく耳にする。じゃあ、今年は一昨年の何倍になるんだ、って思う。

「確か、緊急時のガスマスクがロッカーにあったはずですよ」

 と、鐃警がアドバイスのつもりで言っているのか、虚仮(こけ)にしているのか分からないが、悠夏は頭が回らず、冗談と本気が変に混ざって、ガスマスクを付けてみる。

「そうですね。警部の言うとおり、これだと、スギ花粉を完全にシャットアウトできますね……。って、警察官がこんなの付けてたらおかしいでしょ」

 と、ノリツッコミで鐃警の方を振り向くと、ドアの前に榊原警部が。

 場が凍る。笑ってくれればいいのに、榊原警部は真顔で

「何してんだ? 行くぞ」

「そうですよ、佐倉巡査、ふざけてないで行きますよ」

 と、先に行く鐃警。悠夏はガスマスクを外し、

「ちょっと、警部。そりゃないでしょ」

 と、ガスマスクを元の位置に置き、急いで後を追う。私って、こんなキャラだった? 悠夏は、鐃警から良くない影響も受けてそうだ。いや、花粉症のせいってことにしておこう。


 埼玉県奥秩父村。現地に着いたときには、鑑識作業が粗方終了していた。捜査官は、ほとんどの人がマスクをしており、中には3重のマスクをしている人もいた。

 与野巡査長が、こちらに気付き、

「お疲れ様です。鑑識作業は終わっているのですが、花粉が積もっていて、もう一回採取することがありますので、できる限り触れないようにお願いいたします」

「承知しました。与野巡査長、それでご遺体は?」

 と、榊原警部が問うと、「あちらです」と案内される。もはや、与野巡査長って、捜査一課の人だな。

 車が通れる山道から、少し奥へと入る。山道からは、遺体は見えない。遺体は腐食しておらず、死後そんなに経っていないとのことだ。

「遺体のそばに、期限の切れた免許証が落ちており、名前は、濱千代(はまちよ) 久成(ひさなり)さん。とし()さんの長男です。やはり、長男は生きていたみたいですね」

「死因は?」

 と、榊原警部が聞くと、与野巡査長は

「おそらく、毒物かと。自殺なのか、他殺なのかは、まだ分かりません。しかし、これで保険金の不正受給が判明しました。通常ならば、二課の方で捜査を行うことになるのですが、人手の関係で、おそらくこのまま一課が捜査することになるかと。ただ、最終的には、二課に受け継ぐかと……」

 いや、与野巡査長は高速道路交通警察隊ですよね。なんて言えるわけもなく、「そうなんですね」としか言えなかった。もしかして、巡査長なのは、そういうことなのか……? 捜査一課のときも、他の課の捜査に踏み込んでいたとか……? 考えすぎだ。今は、目の前の事件に集中せねば。

 悠夏と鐃警はブルーシートに包まれた遺体の周囲を見て、あるものを探すが見つからず、悠夏は与野巡査長に

「毒物の容器って、見つかったんですか? 周囲には見当たらないですが」

「まだ発見できていません。だから、他殺の線もあります」

 次に、鐃警が質問として

「他の場所から、遺体を移動したような形跡はありますか?」

「鑑識からの報告待ちですね……」

 と、現場でできることはあまりないようだ。ならば、長居は無用。花粉飛び交うここから、早く移動したい。


 車に乗る前に、服についた花粉を落とすと、目に見えるぐらいの量が舞う。手のひらにも花粉が付着し、車に乗った後、ウェットティッシュで手を拭く。鞄にも花粉がついていると考えると、車の中でも辛い。

 午後4時。会議室は、15人ほどの捜査官がおり、特課は最前列だった。捜査会議は、与野巡査長が進行する。……与野巡査長って、何者なんだろう。

「では、本件に関して、鑑識課から報告をお願いします」

 岩槻(いわつき)鑑識が立ち上がり、鑑識結果を報告する。

「死亡推定日時は、本日22日の午前3時から6時頃。青酸系の毒を、致死量を遙かに超えるほど摂取しており、睡眠中などの意識の無いときに飲まされた可能性が高いと思われます。また、被害者が死亡後、杉林に運ばれた形跡があり、被害者に付着していた髪の毛のうち、長さから推測するに、被害者以外と思われるものがあり、その髪の毛を分析中です。ただ、花粉がかなり付着しており、被害者の衣服を含め、鑑識作業に時間がかかっています。細かい物品については、手元の資料をご確認ください。鑑識課からは、以上」

 そう言って、岩槻鑑識はすぐに椅子に座った。与野巡査長は、

「現時点で、その髪の毛から、性別は分かりますか?」

「まだ分からん。髪の毛なんて、男性でも長い髪の奴や、女性用のシャンプーを使う奴もいるし、その逆も然りだ」

「では、結果はいつ頃出ますか?」

「分かるか。花粉が付きすぎて、どのぐらいかかるかまだ想定が出来ない」

「今晩には判明しますか?」

 与野巡査長の言い方に、岩槻鑑識は体を揺さぶったあと、

「だから、分からんと言って……。もういい。次の報告だ」

 だが、与野巡査長が進めないので、捜査一課の蒲生(がもう)警部補が頭を掻きながら立ち上がる。

「捜査一課からは、としゑさんを引き続き保護しており、としゑさんによる犯行は出来ないと結論づけ、病院が死亡を証明しているとしゑさんの夫についても、捜査線上から除外。次に、先週ですが、被害者の妻の生存を確認したところ、やはり事故死は揺るがないかと。当時の交通事故、炎上した車にで発見された焼死体についてですが……。助手席にいた男性については、身元を確認できず、車の所有者が久成さんだったことと、としゑさんが証言したことから、久成さんであると。一方、運転手の女性は、なんとか身元確認が行え、妻の有理(ゆうり)さんであることが証明されていました」

「結局、その男性は久成さんではないということは、一体誰だったんだ?」

 与野巡査長が質問というか、(なか)ば独り言のように言った。蒲生警部補は、

「先週からの捜査結果、浮気相手である可能性が」

 その発言で会議室が(どよ)めく。蒲生警部補は、さらに続けて

「これは、まだ確定ではないのですが……。浮気相手と会っていた妻を、久成さんは知っており、何らかの事情で、その事故で自分が死んだことにして、生命保険を不正に受け取ったのではないかと。で、その何らかの事情ですが、久成さんには、かなりの額の借金があり、連帯保証人は妻。同時に2人がいなくなれば、借金の返済は有耶無耶に」

 背景が段々と見えてきた。でも、殺害の動機は……?


To be continued…


花粉症には辛い、杉林。スギ花粉の次はヒノキ科とかイネ科とかヨモギ科とか……。春から秋まで、花粉症はありますね。毎年辛い。

さて、この事件も中盤。今回は、捜査会議中心で進行中です。

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