表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/295

第184話 偽証罪と沈黙

 尽大路(つくおおじ) 泰貴(たいき)に対しては、虚偽の証言をしたとして偽証罪が成立する。捜査一課は、兄の(いたる)に弟が自首した旨を伝えた。及の出方を(うかが)ったところ、しばらく黙っていた。その場で立ち会った捜査員からの話によると、警察に言う言葉を考え込んだのではないかと。そう感じるような印象だった。表情は、及が視線を外したため見えなかったそうだ。

 複雑そうに見えるこの事件だが、国岡(くにおか) (たまき)に死体遺棄の容疑がかかっているだけ。及が被害者を殺害した証拠は何も無い。被害者は、他殺か自殺、事故のどれかも分からない。被害者と思われる白装束の女性、彼女証言は本当かどうか分からない。泰貴は、及を庇っているのか分からない。

 分からないことだらけだ。遺体発見から約19時間が経過。半月が経過した事件のため、初動捜査によって得られた情報はあまりにも少ない。むしろ、余計な情報が捜査を攪乱(かくらん)した。

 特課は、捜査一課の加生野(かようの)巡査部長から捜査状況について聞いていた。

「事件が発生したと思われるホテルの特定を行っているが、尽大路や国岡、松場(まつば)の名前で宿泊したホテルは見つかっていない。個人情報は教えられないと断られたホテルもあれば、偽名で宿泊していれば特定は困難だろう」

「半月前に、客室で血や争った痕跡などは?」

「それも聞いたが、委託している清掃会社が担当しており、回答には至らなかった。ホテルで事件が起きたという証言は、あの幽霊が言ったことだ。そもそも事件現場がホテルではないとなれば、捜査は振り出しだ。この前の事件捜査が終わったと思ったら、また面倒な事件だ……。これじゃあ、休めもしない……」

 加生野巡査部長は一睡もしていないようで、目の下に(くま)ができつつある。数日間、働きっぱなしだろうか。

 加生野巡査部長にはゆっくりしてほしいが、その前に聞きたいことを聞いておく。

「国岡さんの容体はどうですか?」

「体調に問題は無い。事件や事故に関しては沈黙を通している。担当から聞いたところ、喋ろうとしても声が出ないのか、精神的に苦しんでいるように感じたそうだ」

「喋りたいけど喋れない?」

 鐃警が念押しで確認すると、

「報告によるとそうらしい。演技には思えないとも。国岡の証言だが、しばらく時間はかかるだろうが、捜査に非協力的なわけではないということが分かっただけでも、まだマシな方だ」

 国岡が証言するのは時間の問題だろうか。その後も、捜査状況を確認したが、いずれもやや前進したかどうかのレベルだった。

「それで、今夜の張り込みはどうする?」

 加生野巡査部長に問われて、悠夏が答える。

「特課は尽大路 及の自宅周辺を張り込むことにしました」

「事故現場ではなく?」

 特課として判断した考えについては、鐃警が

「事故現場は、すでに被害者の遺体が発見されており、自分の遺体を発見してほしいからという理由は成立しません。ならば、どこに現れるか。国岡さんは入院中で、立ち会いは難しいでしょうね。尽大路さんの弟は、今晩、警察宿舎に宿泊。警察官の監視下に置かれる。兄は、寮に戻っており、狙われるなら兄かと」

「狙われる……?」

「白装束の女性は一度、尽大路さんの寮に姿を見せています。あり得ないとは思いますが……、もはや私達の前提といいますか、常識が崩落しており、事が起きてからでは遅いので」

 悠夏は言葉を選びながら説明したが、詰まるところ

「白装束の女性が、尽大路の兄を殺害するとでも?」

「可能性として考えられる以上、僕らは張り込みますが、こんなファンタジーな話で捜査一課に協力要請できるほど……」

 鐃警は、特課から協力要請を行わない旨を伝えたが、そんな話を聞いた加生野巡査部長が「分かった」となど言えるはずもなく、「ちょっと待て……」と、頭を抱える。独り言のように

「事故現場は……交通課に張り込みを協力要請すれば……なんとか……。尽大路の張り込みは……証拠隠滅? いや、確証がないため、理由にならない……。尽大路の安全を確保? 誰から守ると説明すれば良い……?」

「重要参考人として、張り込むのではダメですか?」

 鐃警が助け船を出すと、

「重要参考人か……。あとは、捜査員が独断で張り込んだことにするか……。いや……」

 連日の過労で、頭が回らない。鈍くなっているのは感じている。

「刑事の勘では?」

 悠夏が半分冗談で言うと、

「……そうするか」

「え?」

 まさかの採用に、提案した悠夏が驚いた。

「よし。刑事の勘で、張り込む指示を出す」

「大丈夫なんですか……? 一番捜査員が混乱しそうな指示ですけど……」

「たまには昭和っぽい捜査指示でもなんとかなる」

 ダメだ。誰か、この巡査部長を寝かせてあげてください。

「今は平成ですけどね」

「警部、令和ですよ」

 悠夏が警部のツッコミを即座に訂正する。2019年4月30日までは平成31年で、5月1日からは令和元年。


    *


 2019年7月30日20時過ぎ。尽大路 及の住む寮付近を警視庁特課の悠夏と鐃警、常陸筑波(ひたちつくば)警察署の捜査一課メンバーとして湯袋(ゆぶくろ)巡査をはじめとする5名が周辺で待機している。インカムの無線で、状況の報告が入る。

「南方、異常ありません」

「西方、大通りから通り抜けで車が数台通過していますが、特に異常はありません」

「東方も異常ありません」

「北方、問題ありません」

 特課は北方を担当し、寮の入口、正面が見える場所に陣取る。路肩に停車させた車の中から張り込みを行っている。

「いつ現れてもいい時間ですが……」

 と、言ったそばから無線で情報が入る。

「西方、タクシーが1台。後方に女性が乗っていました。服装までは確認できず……」

 タクシーは寮の玄関手前で停車した。悠夏と鐃警がタクシーの様子を確認するが、下りたのはタクシーの奥だ。こちらからはタクシーで見えない。

「タクシーの乗客が、寮の前で下車」

 鐃警がすぐにインカムで報告した。タクシーが移動すると、白装束の女性の姿が見えた。悠夏は

「白装束の女性を確認。気付かれないように寮の近くまで移動します」

 鐃警が車の助手席からドアをゆっくり開けて降りると、悠夏は運転席側のドアを開けずに、助手席へ移動して助手席の扉から降りる。運転席側から降りなかったのは、なるべく音を出さないようにするためだ。助手席の扉を静かに閉める。同じく音を出さないようにするため、車の鍵はかけずに静かに移動する。白装束の女性は、寮の敷地内に入っており、外壁で見えないはずだ。寮の門まで近づくと、湯袋巡査たちも合流した。

 逃亡を考えて、門前で待機する捜査員を残して、特課と湯袋巡査たちは敷地内へ。寮は外階段かつ廊下も外。尽大路の住む部屋、2階の扉の前に白装束の女性がいる。インターホンに手を伸ばして鳴らす。悠夏たちは、姿勢を低くして音を立てず、階段を上る。コンクリートのため、気をつければ音は出ない。

 ガチャ、と尽大路の部屋の扉が開く。

「こんな時間に誰だ?」

 確認せずに扉を開けたようだ。すると、目の前に白い服を纏った女性がおり

「あぁ? 松場?!」

 尽大路は驚き、女性は躊躇することなく小さなポーチからナイフを取り出す。尽大路はそれを見て尻餅をつく。女性は扉が閉まらないように足で止め、ナイフを大きく掲げる!

 勢いよく振り下ろすつもりだ。廊下の先で、事態に気付いた鐃警が走り出して

「警察だ!!」

 悠夏と湯袋巡査たちも駆け出す。門で待機していた捜査一課のメンバーは、すぐに応援を要請する。

 鐃警が勢いよく白装束の女性に体当たりをすると、鈍い音とともに女性が倒れ、ナイフが転げる落ちる。尽大路がすぐにそのナイフを拾おうしたため、湯袋巡査が先に奪って、悠夏は尽大路の前を塞ぐ。

 事件は防げたが、なぜ鐃警の体当たりが当たったのだろうか……


To be continued…


鐃警は白装束の女性を目視できなかった。しかし、なぜか今夜の女性は見えたようです。

次回、事件の真相へと大きく動きそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ