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第183話 証言の信憑性が失墜する

 尽大路(つくおおじ) 泰貴(たいき)。高校3年生で、(いたる)の弟である。その彼が自首をした。すでに、国岡(くにおか) (たまき)には死体遺棄の容疑がかかっており、及の容疑はまだない。被害者が死後に証言したという、及と環による殺人。しかし、及は被害者の松場(まつば) (けい)がストーカーであり、自分達が被害者であると証言していた。松場の証言との食い違いが発生しており、(ただ)でさえ混乱気味の捜査方針がここに来て、別の問題にぶち当たった。

 泰貴は自分が手を下したと自首したため、捜査一課の加生野(かようの)巡査部長と湯袋(ゆぶくろ)巡査が、取調室で彼の聴取を取ることになった。証言では、自分が1人で松場の首を絞めて殺害し、山に埋めた。だが、泰貴は運転免許を所有しておらず、運搬方法を聞いたところ、無免許で運転したと証言していた。誰の車かと問うと、口をもごもごさせて、はっきりと言わなかった。

 加生野巡査部長と湯袋巡査は、泰貴が虚偽の証言で自首してきた可能性を考える。すでに国岡の車で運搬したことは確実である。ならば、なぜ泰貴は自分がやっていないのに、自分が殺したと自首してきたのだろうか。

(かば)っている……誰かを?」

 先ほど終わったばかりの聴取を読む、悠夏。終わったと言っても、泰貴は取調室に残されたままだ。捜査一課が情報を共有しており、特課も聴取のコピーを受けとった。

「山の中に埋めたという情報どころか、事故についても未公表ですよね?」

 鐃警に確認を取ると、頷いて

「未公表のままです。特に、日浦さんの一件があったので、余計に公表を止めているというのもありますね」

「泰貴さんがどこで知ったかを考えないといけないですが……。いつもと違って、後手に回ってますよね」

「弟が兄を庇って虚偽の証言をしていると考えるか否か……」

「警部の考えですと、兄から話を聞いたのではないかと言うことですか?」

「佐倉巡査はどう思います?」

「……正直、嘘の証言が多くて、全体像がぼやけて」

 特課の2人が会話していると、加生野(かようの)巡査部長が割り込むように

「被害者に関して、分かったことがある」

「どのようなことが?」

「被害者が自殺した可能性は、十分あり得るということだ」

「それは、自分で睡眠薬を摂取して、首を絞めたと?」

「吉川線が見当たらず、犯人をでっち上げるとすれば、自殺して罪を擦り付ける行為だろう。特課の見解が聞きたい」

 加生野巡査部長は悠夏と鐃警に問いかける。悠夏は鐃警にどちらが言うかアイコンタクトを取ると、鐃警が「僕からでいいですか?」と断りを入れてから

「他殺、自殺、事故のいずれもあり得ると考えています」

「自殺だけではなく、事故も?」

「はい。事件現場のホテルの捜査はまだですよね?」

「どのホテルか証言が出ていないため、特定に時間がかかっている。証言が出ればすぐに分かるんだが……。そもそも事件当夜の日付も分かっていない」

 分かっているのは半月前であること。7月中の出来事だろうが、日付が分かっていない。

「それと、気になることとして、松場さんの事件と交通事故に共通点があるかどうか」

「警部。あれは松場さんが自分の遺体を発見してもらうために……」

 悠夏は、白装束の姿で通りすがりの車の前に出現していたことに触れるが、鐃警の考えは違い

「あの山道、夜間に1台は交通量として少ないと思いますけどね。もしも、意図的に選んでいたとしたら? それこそ、殺すつもりで」

「……それだと、話が変わってきますね」

「松場さんとの関係を1課で調べられませんか?」

 鐃警から捜査一課へお願いすると、加生野巡査部長は

「調べるように指示します」

「それと、松場さんと思われる白装束の女性ですが」

「まだ何か?」

 加生野巡査部長は不思議に思い、悠夏は、先ほどまで白装束の女性については一切考えないとしていた鐃警が、実はかなり気にしていたのだと感じた。あのときは証言を取り扱わないことで整理しようとしたので、また別の話だが。

「ガードレールやナイフ、佐倉巡査との握手も透けたんですよね?」

「はい。そうです」

 と、回答は悠夏がした。

「ならば、なぜ車の後部座席に乗ったまま移動ができたのか。透けるなら、車に乗る行為なんてできないと思うんですが……」

「そこに触れるんですね。それを言うと、幽霊って地面に埋まりますよね? 立つこともできないかと」

「もしもですよ。あの女性が透けずに実体化といいますか、物に触ることができるとしたら、最強ですよ。それこそ、報復とかできそうなくらい危険ですよ」

「確かに、そうだが……」

 加生野巡査部長は見るからに困っている。防ぎようがないし、幽霊が殺人事件を起こした場合、どうすればいい? 立証できるのか? 捜査は迷宮入りだろう。もしそんなことが可能ならば、幽霊の犯罪を考慮する必要が出てくる。そんなことがあっていいのか?

「証言が得られない以上、事件のあったホテルを見つけるのが先か。それとも別の関係者を見つけて新しい証言を得るのが先か……」

 捜査が停滞しているように見受けられるが、新しい情報が少しでもあれば、大きく前進しそうだ。一番有力な情報を持っているであろう人物達は、肝心の証言をしない。


 18時過ぎ。日没まであと40分ほどだろうか。夕暮れ時である。少し仮眠を取って、起きると背中が痛い。会議室のパイプ椅子を3つ並べて横になったので、硬い。起き上がると、鐃警が捜査資料を見ていた。

「警部。どうですか?」

「佐倉巡査、起きましたか。捜査一課からの捜査資料が届きましたよ。といっても、メモに近い調書ですが」

 悠夏は置かれていたもうひとつの調書を開く。鐃警の見ている調書と同じ資料のようだ。

家崎(いえざき)さんは松場さんと面識がありました。松場さんの写真を見るなり、知ってますと答えたそうです。所謂(いわゆる)、出会い系アプリで知り合い、複数人の集まりで1回だけ直接会ったことがあるそうです」

「1回だけなのに、よく憶えてますね」

「記憶に残らないのが不思議なぐらい、かなり印象が強い子だったそうですよ」

 調書を見ると、家崎さんの証言で感情の浮き沈みが激しく、情調不安定だった。周囲を振り回しやすかったと書かれていた。早い話が、メンヘラ気質ということだろう。メンヘラ気質だからどうこう言えるわけではないが、家崎さんの証言を読んでいると、それとは別の特徴も見えてきた。

「どちらかというと、行きすぎた性格のほうが問題だったみたいですよ。それも相席していた異性どころか同性からもドン引きされるような……」

 独占欲が強く、形振(なりふ)り構わない性格だったそうだ。ずけずけと思ったことを言い、あることないことを偏見で喋っていて、誰も幸せにならないような人だったそうだ。

「幽霊と喋っていたときと、全然違いますね」

「同一人物ではないとか……」

「そうなると……、前提が覆るとかいう次元ではないんですけど……どうなんでしょう……?」


To be continued…


証言の信憑性が揺らいでいるようです。何を信じれば良いのか。これまでにはない証言の曖昧さで振り回されているようです……。次回、捜査一課と特課が得た情報とは……

当初、5話前後を予定していた話でしたが、思わぬ方向へと進み、しばらく続きそうです。

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