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第18話 姿見えぬ犯人

 2019年2月8日。北武蔵埼玉町。特課が初めて関わる殺人事件である。現場の鑑識作業のため、悠夏たちは家の外に出て、近所の人から聞き込みを行う。

 すでに日没しており、情報を集めると、簡易テントの下に集まる。折りたたみのテーブルがあるぐらいで、イスはない。

 集まったのはいいが、誰が仕切るのかで譲り合いが始まった。階級的に、誰が一番上なのか。おそらく、榊原警部だろうか。埼玉県警の人は、巡査部長が1名と巡査長1名、巡査が4名である。ちなみに、巡査長は、正式な階級ではなく、まだ巡査部長ではないベテランの巡査のことである。

 悠夏の印象では、榊原警部の方が若いと思われる。榊原警部って、キャリア組なのだろうか? そういえば、意外と身近な人のことを知らないな。

 結局、第一発見者である榊原警部が主体で話すことに。

「では、順を追って。目撃者によると、今日の15時過ぎに、濱千代(はまちよ) とし()さんが、家から飛び出し、慌てた様子で車に乗って、どこかに出かけた。しかし、買い物や子ども達の送迎ではなく、首都高を速度違反してまでも、逃げるように走行。結局、志村本線料金所にて、確保。最初の聴取では、狙われていると発言。その後、濱千代さんの家に、自分と特課が向かい、息子と孫の死亡を確認」

 与野巡査長が右手を挙げ、榊原警部から「どうぞ」と言われ、手を下げ、濱千代さんについて話す。

「運転手の濱千代さんは、息子と孫の死亡を見ており、それで狙われているという発言に至ったと考えられる。まだ正確な時間は分かっていないが、死亡推定時刻は、今日のお昼ごろらしい。なにも考慮せずに言わば、濱千代さんが犯人であると思うだろうな。ただ、鑑識で調べている凶器の指紋は、全く別の人物だ。外部犯の可能性がある」

 次に、悠夏が右手を挙げ、聞き込み結果を話す。

「被害者の一人、息子の濱千代 葉陽(ようよう)君は、次男で、中学1年生。かなりネットで有名な動画配信者だったそうです。顔出しはしていないのですが、クラスメイトがSNSで本名や写真を書き込んでいたことを確認しました。孫の濱千代 (とら)君は、小学2年生です」

 事情を知らない人は、今の話を聞いて、首を傾げた。そこの話は、蒲生(がもう)警部補から

「葉陽君は、としゑさんの次男だ。長男の息子が、虎君。なお、長男とその奥さんは、数年前に事故死しており、としゑさんの夫は、癌で亡くなっている。3人暮らしで、としゑさんの貯金や、生命保険などで、お金には困っていなかったらしい。3人とも、近所付き合いも良く、学校でも一般的な子だった」

 つまり、長男と次男は、15歳くらい離れているのだろうか。

 全員が、喋らなくなったので、入曽(いりそ)巡査が「すみません」と断ってから

「確認したところ、この近辺に監視カメラはなく、最寄りのコンビニにあるぐらいです。その最寄りのコンビニは、ここから1キロ以上離れており、映像の確認を行いますが、厳しいかと」

 さらに、他の巡査たちは

「葉陽君が使用していたパソコンの解析は、時間がかかると思われます。セキュリティ対策がバッチリで、ハードディスクを抜き出すだけだと、暗号化されていて、パスコードを一定回数間違えると初期化されるようです。スマホも同じです」

「虎君は、キッズ携帯を持っており、電話やメールの履歴を調べましたが、事件に関わるようなものは何も……」

「葉陽君のSNSのアカウントで呟かれた内容に、今晩の生放送について発言があり、明日や来週の予定なども発言していました。ここ最近のつぶやきだと、特に事件に関わるようなものは、何も見つかりませんでした。学校で聞き込みした結果、とくにおかしなことは無かったと。あと、クラスメイトには、まだ話を聞けていません……」

 この状態では、犯人の姿が見えてこない。おそらく、捜査員のうちのほとんどが、としゑさんを怪しんでいるのではないだろうか。ただ、凶器についた指紋は、一体、誰の指紋なのだろうか。解決の道が見えない。


 結局、事件は暗礁に乗り上げ、その後1週間動きが無かった……。

 2月15日。特課に連絡が来た。悠夏が取った電話の相手は、与野巡査長である。電話を終えると、充電中の鐃警が

「何の電話ですか?」

「先週の殺人事件について、動きがあったみたい」

「犯人が分かったってことですか?」

「凶器の指紋が誰のものか、分かったんだけど……」

「だけど?」

「それが、すでに死亡している長男の指紋と一致したって」

「え? というか、なんで長男の指紋が分かったんですか? もう焼却されていて、指紋を採れないはずですよね?」

「家の中に、長男が生前に使っていた携帯電話が見つかって、その携帯電話に指紋認証の機能があったから、そこからデータを引き抜いて、照合したらしいけど……」

 悠夏は自分で言いながら、怖くなった。なんで、もうこの世にいない人の指紋が凶器から出てくるのか。

「転写の可能性は?」

 鐃警が自分で言って、すぐに自分で

「って、オリジナルがないから無理か……」

「オリジナルという表現は、いかがなものかと思いますが、転写は難しいと思いますね。指紋が残っていたという考え方も、亡くなったのが、3年ほど前になりますので、そんな長い期間、残っているとは考えにくいですね」

 悠夏の言うとおり、指紋は素材により残る期間が変わるが、短ければ3週間や、3ヶ月、長くて2年ほどである。ただし、保管の条件によるが、紙だと何十年でも指紋が消えずに残っていることがあるらしい。

「ドラマの見過ぎかもしれませんが、考えられるパターンとしては、長男は実は生きていたっていう路線でしょうか?」

 悠夏がそう言うと、鐃警は

「でも、その可能性なら、埼玉県警の人が調べてそうですけど……」

「……そうなんですよね。一応、与野巡査長に確認しますけど……。指紋なので、生き別れの双子説も、無謀ですし」

 双子でも、指紋は違う。鐃警は、充電を終えて立ち上がり、

「そうなると、としゑさんの発言である、狙われているとは、一体誰からなのか。そこが重要になりそうですが、としゑさんは、誰からって言わないんですか?」

「与野巡査長からの話だと、としゑさんは怯えて、守って欲しいと言うだけで、誰から狙われているか言わないんですよね……」

 悠夏は、先ほどの電話の内容をメモした自分の警察手帳をペラペラと捲る。すると、鐃警は

()()()()んじゃなくて、()()()()って可能性は、ありませんか?」

「警部。それは、どういうことですか……?」

「例えば、言えば自分で嘘を証明してしまうという可能性とか」

「それって、……まさか、としゑさんが、長男が死亡したと嘘の申告をしているってことですか?」

「佐倉巡査。先走らないでください。自分が説明したいです」

「確かに、長男の死亡が嘘で、保険金を不正に受け取っていると考えた場合、長男が共謀者である場合と、長男が監禁されている場合が考えられますね。ただ、自分の子どもと弟を殺害する動機がわかりませんよ」

「みなまで言わないで……」

 と、悠夏がどんどん喋るので、鐃警はしょんぼり。

「一先ず、与野巡査長に、警部の名前で報告しますね」

 そう言って、悠夏は与野巡査長へ電話をかける。鐃警は、独り言のように

「結局、与野巡査長って、先月に捜査一課から高速道路交通警察隊に異動したみたいですけど、やってること捜査一課と変わらないですよね……」

 さて、本当に死んだはずの長男が犯人なのだろうか……?


To be continued…



葉陽君は、セキュリティ対策がバッチリだけど、それを警察に解読されるのは、なんとも言いがたいな。

さて、物語は2月中盤。これ書いた後に、そういえば2月ならバレンタインとかあったなと思いつつも、まぁいいかなと、イベントをパス。たまには季節物も書きたいけれど、次が杉林だからいっか。花粉症には辛い。

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