第174話 姉へのプレゼント
2019年7月27日土曜、昼下がり。徳島県西阿波市の駅前百貨店。高校1年生の双子の弟妹が、姉への誕生日プレゼントに悩んでいた。
「悠夏姉に何プレゼントしたらいいか、結局決まらず終いだけど……」
弟の遙真は、スマホで候補をリストアップしていた。
「遙真のリスト、高価なものばかりじゃない?」
妹の遙華が共有されたリストを見て、ずっとそう言っていた。確かに、安く見積もっても8千円以上の高価なものばかり。高校生の2人が出せなくは無いけれど、まだバイトをしていないので限りがある。
「そういう遙華は候補、決まったのか? 化粧品系はさっぱりだし」
「今シーズン、人気の香水や化粧水もあるけど。あと、気になってるのは、悠夏姉が仕事柄よく動くから、スポーツブラとかどうかなって」
「弟の俺が気まずいわ……」
「そう?」
「あのなぁ……」
百貨店の紳士服コーナーを通り過ぎると、婦人服コーナーとなり、話題が出たばかりで遙真は目のやり場に困り、早足で通り過ぎる。
「ハンカチや財布は前にプレゼントしたし……」
遙華は周囲の商品を見渡しながら歩いている。
「でもそれ、何年前の話だ?」
ハンカチをプレゼントしたのは、小学6年生だろうか。財布は、中学1年のとき。
「……じゃあ、タオルとか?」
遙真が適当に思いついたものを言うと、
「高校生になって、タオルはどうなの?」
「いや、遙華が言い始めたんだろ?」
口論になると、遙華は視線の先に革靴が見えた。遙真は遙真の視線を追うように振り向いて、
「いや、靴はリスクが高いだろ……」
「……うん」
ここは意見が一致した。
「……折り畳み傘は?」
革靴の近くに置いてあり、遙真の視界に入った。ゲリラ豪雨対策にと書かれている。
「悠夏姉、梅雨時期に新しいの買ったって言ってなかったっけ?」
「うーん、言ってたような、言ってなかったような」
「吸水性のあるカバー付きで、差した後でも鞄に戻せるとか言ってたと思うけど」
遙華の記憶を頼りに、折り畳み傘はやめておくことにした。
店内を進むと、季節商品を置いているイベントコーナーに辿り着いた。今の時期はキャンプ用品が並んでいる。
「悠夏姉って、キャンプとかするかな?」
「このあいだ、キャンプアニメは見たって言ってたけど、しなさそう」
女子高校生たちがキャンプするアニメが春頃に放映されていた。その影響で、キャンプの需要が少しずつ増えているとかどうとか。
遙真は興味本位で、キャンプ用品を見ていると
「遙華、これはどう?」
飾られていた見本品のコップを手に取って、遙華の意見を聞いた。
「タンブラー?」
「そう。保温性があって、冷たい飲み物とか温かい飲み物を保温してくれるコップ」
「値段次第ではアリかも」
遙真は近くの値札を見てみると、
「3千円だってさ。いい値段する分、誕生日プレゼントにどうかな? 他を見てからでもいいけど」
「そうね。他と見比べて。じゃあ、候補その1で」
ちなみに、最初コップと表現したが、タンブラーとの違いについて少し補足すると、コップは飲み物を入れる円筒型の器全般を指す。タンブラーは、コップの一種で、筒状のコップを指す。コップの種類には、ご存じの通り、グラスやカップもある。取っ手の有無や形状、ガラス製かどうかによって呼び名が異なる。特徴が混ざると、どう呼ぶか区別が難しいところもあるが。
2人は、1つ上のフロアへエスカレーターで移動して、家具とインテリアの販売店へ。カーテンや枕、食器などを見るが、一人暮らしの生活であまり増やしても困るだろうと、結局決まらずに別のフロアへと移動する。
本屋の横を通り過ぎると、遙真が
「ちょっと待って。新刊が出てないかだけ、確認させて」
「あれ? 最近は電子書籍で読んでなかった?」
「そうだけど。新しい本との出会いは本屋で探した方が見つかりやすい。ネットだと、検索やおすすめで絞られたものしか出ないけど、本屋は本棚にずらりと並んでるから、こっちのほうが出会いやすいって個人的には思ってる」
「ふーん」
遙華は、遙真の考え方にあまり興味を持っていないようだった。
「それと、新刊を電子書籍化しない作者もいるし……。聞いてないな」
遙華の方を見ると、本屋の隣、雑貨屋を見ている。
「あっち見てくるね」
と、それぞれ別行動。15分程して、どちらも目的のものが無く、合流した。エスカレーターでさらに上の階に上がると、家電量販店。
「遙真のリストアップしたネックスピーカーっていくらぐらい?」
「数千円のものもあれば、数万円のものもあるっぽい」
首にかけるスピーカーは、耳を塞がずに無線接続で利用できるため、徐々に需要があるそうだ。自分達の誕生日で、ワイヤレスイヤホンをプレゼントしてもらったこともあり、似たものを探していると、ウェアラブルネックスピーカーを見つけた。
スピーカーやイヤホンのコーナーを探して歩いていると、健康器具のコーナーを通る。遙華がスマホのアプリと連動する体重計を見て
「体重計もありかな? 健康に気遣って欲しいから」
「だから……俺が気まずいわ」
姉とはいえども、女性に体重計をプレゼントするのは、如何なものか。
「あと、体組成計だから高いぞ」
遙真に言われて値札を確認すると
「4万……」
大手計測器メーカーの製品であり、高価な物だ。他にも1万円以下のものもあったが、遙真が難色を示して、移動する。目的のウェアラブルネックスピーカーを見つけると、遙真が1つ手に取り
「仕事でずっとイヤホンしてるだろうし、こういうのがあってもいいと思うんだよね」
「でも、最近だと骨伝導のなんとかってのが」
「骨伝導イヤホンも、耳に付けるのは変わりないし、これなら首にかけるだけで楽かなって」
「肩こるとか?」
「それはデスクワークしてても、変わらないだろ?」
値札を見ると、広告の品と書かれて、少し値下がりしていて1万2千円だった。棚の下を見ると、残り4箱ぐらい。
「タンブラーとどっちがいいと思う?」
と、判断は遙華に任せた。ここで決まらなければ、化粧品売り場に行くのだろうが、遙真としてはここで決めたかった。
「イヤホンを貰ったし、今年はそっちにしようか」
と、ネックスピーカーを指差した。
「色は?」
と聞かれて、遙真が棚の下に残っているカラーを見ると
「黒と白とピンク……かな」
「ピンクは可愛いけど、悠夏姉はピンクより黒の方が似合うかな」
「あっ、黒じゃ無いわ。ネイビーだってさ」
黒っぽく見えたが、商品説明のカラーにはネイビーと書かれていた。確かに、よく見れば紺色だ。
「ネイビーでもいい?」
「黒とか濃い色ならいいと思う」
「じゃあ、これにするぞ」
2人は、紺色のウェアラブルネックスピーカーを購入し、包装を依頼した。お金は自分達が貯めていたお年玉から、割り勘で支払った。
「高校生にもなったし、バイト始めようかな……」
「遙真は、どこにするの?」
「まだ検討中」
「そんなんだと、夏休み終わっちゃうよ」
2人が買った誕生日プレゼントが悠夏のもとに届くのはもう少し先のことである。
To be continued…
2023年明けましておめでとうございます。よろしくお願いします。
さて、新年の最初は悠夏の弟妹がプレゼントを選ぶというお話。方言はなるべく使わずに書いているつもりです。お年玉というワードが出たのぐらいかなお正月要素。作中は2019年7月なので、あまり新年っぽいことはないですし、単発なので平和な回ですね。
子どもの頃、買ったものを「包装してください」ってお願いするのを聞いて、なんで店内放送するの?「買いましたよー」って放送するの?とか漢字の勘違いしてたなとか思い出しつつ。
タンブラーは昨年買って使っていて、ネックスピーカーは最近欲しいなって思っていたので。それだけです。
さて、次回からは2~3話ぐらいの事件を予定しています。場合によっては、5話くらい?
今年も無理しない程度に、1週間に1回更新できればなと思っていますので、よろしくお願いします。




