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第171話 東京の夜空を彩る花火が打ち上がるとき、弍拾弍

 鐃警(どらけい)が爆発物探知機を鞄に向けると、ランプが光った。音はオフになっているため、静かに緊張が走る。

 もしかしてと、(あおい) 彩女(あやめ)には心当たりがあった。鞄からゆっくりと小さな花火玉を取り出す。すると、その花火玉に反応して光っている。

 倉知(くらち)副総監はフェンスの外を指差す。鐃警は葵から花火玉を受け取り、花火の見えるフェンスの方へ向かう。フェンスから下を覗き込むと、菊佳和(きくかわ)警部の姿が見えた。花火玉をロープで巻き、手際よく船へと下ろす。観光客のほとんどは花火に夢中だろう。こちらを見ている人物はおそらくいない、と思われた。


    *


 取り引きが行われる直前、19時37分頃。アパートの4階空き室で監視をしていた稲蔵(いなくら) 実信(みのぶ)は、双眼鏡で何かを船に下ろしているを目撃していた。

(あれはなんだ?)

 巡視船と書かれた、赤い旗の船を見ると、防弾チョッキを着た人々が乗っている。まるでドラマで見たことのあるSATや爆発物処理班のようだ。すぐに、それは確信に変わった。電話で”別の騒動を起こす”と言っていたが、おそらくその仕掛けが撤去されたのではないだろうか。例えば爆弾とか。それなら、辻褄(つじつま)が合う。

 通常ならば、報告すべき内容だが、稲蔵は見逃すことにした。

(この光景が見られる場所は限られるはず。観光客も花火ではなく、こんな工事の様子と勘違いするような映像をわざわざ撮って、それをSNSに上げるようなことはしないだろう)

 両岸の観光客を確認すると、どこも花火を見ている。工事中の橋など、少なくともこの瞬間に限ってだが、誰も見ていない。

 もうすぐ取り引きの時間だ。


    *


 19時41分。巡視船が静かに移動する。花火玉は冷却を行い、爆弾解除を行う目的地へと進む。この東京で爆弾を解除できる場所は限られる。第一会場を通り過ぎと桜橋(さくらばし)白鬚橋(しらひげばし)水神大橋(すいじんおおはし)をくぐり抜けると、隅田川から離れるように首都高速道路6号向島線の下、綾瀬橋(あやせばし)をくぐる。すると、隅田水門が見えてきた。水門を通り過ぎると荒川(あらかわ)に出る。

 解体場所は、自爆テロ事件により全壊した高校の敷地である。すでに、元校庭には解体可能な準備が進んでおり、周囲は工事用フェンスで囲まれており、外からの視界を遮っている。


 19時50分。南浜部(みなみはまべ)警察署の捜査二課、千鳥(ちどり)警部補は共同捜査本部が設置されている会議室で報告を受けていた。

「五号玉から火薬を取り出し、三号玉を爆弾として利用した。サイズは?」

 鈴木(すずき)巡査は警察手帳を捲り、

「五号玉は直径15センチ。対して、三号玉は直径9センチです」

「もう一個ぐらい作れそうだな……」

「第一会場にも同じような三号玉がありましたが、爆弾では無く花火玉でした。他の花火玉に爆弾があるかどうかは?」

「爆発物探知機で調べましたが、該当するものはゼロです」

「そうなると、残りの火薬は見つからないだろうな……。前もって試作して使っていたとなると、余計に足取りが掴めない。それこそ、宇佐鷺組を捕まえない限り」

 千鳥警部補が、広珠蒲(こうたまがま)警察署捜査一課の大乗(おおのり)警部の方を見ると、立和名(たちわな) 言葉(ことは)を発見したという報告が入っていた。ならばと、反対側の空席を見て

「二課と組対に任せるか」

 宇佐鷺組の件は、そちらに一任して南浜辺警察署はこの事件から手を引くのがいいだろう。この先どれくらいかかるか分からないのに、五号玉の残りの火薬を探すためだけに人を充てられない。

「あとは宇佐鷺組の取り引きだけか」

 千鳥警部補が背もたれに深く凭れると、大乗警部が叫ぶように

「刺されただと!?」

 と、誰かが負傷したのだろうか。

「軽傷……。そうか。しかし、厩橋の近辺に待機させている捜査員を向かわせるか?」

 大乗警部が話している相手は、

「佐倉巡査が左腕を負傷しており、言葉ちゃんは無事です。今は硬直状態となり、被疑者は70歳のおばあさんですが、変装している可能性があります。佐倉巡査は取り引きが進むまで時間を稼ぐつもりです」

 と、榊原警部が詳細を報告していた。

「ならば、捜査員を送るのはまだ早いか? しかし……」

「周囲を巻き込むなら、もっと騒ぐはずです。向こうはそれをせず、逃げられないように脅迫しています。ただ、もしものときを考えて」

「こちらでもしもの時に備えて、厩橋を封鎖できないか確認する。それと、私服捜査員に厩橋へ応援を要請する」

 取り引きは始まってすぐであり、進展の報告はない。


 立和名は少し痛がった表情をした悠夏を不思議に思い、心配する。立和名からは傷が見えない。悠夏が見せないように左腕を背中の後ろへ回している。

「少し待ってね」

 と、悠夏は立和名に理由を言わず、振り向かずに

「おばあさん。もう大丈夫ですよ?」

「いいや。全然、大丈夫じゃないよ」

 時間をどれくらい稼げるだろうか……。


    *


 警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課所属の高円寺(こうえんじ)警部と小橋(こばし)巡査は、会議室で隅田川花火大会周辺の地図を広げ、磁石を移動させていた。

「建設中の工事現場に公安課の2名が撤収」

 そう言って、磁石を2個地図上から取り除く。磁石は構成員の位置を示しているのだ。地図上に残りの磁石は6個。ただ、これがすべてではない。

「警視庁特課の捜査員が厩橋で構成員と接触」

 と、先ほど連絡のあった内容を喋りながら厩橋に磁石を1つ置く。他の構成員の動向は?

「移動して……といいますか、撤収しているようです」

「爆弾を撤去して勝ち目がないと悟ったのか? それとも……」

「構成員を確保しますか?」

「……いや、彼らを捕まえたところで末端に過ぎない。確保して、会場内で残りの構成員が暴れると被害は計り知れない。確保するのは、公園周辺に潜伏する構成員と厩橋の構成員だ。今回、公安の人間は組織から切られたと言っても過言ではない。ならば、警視庁に任せるしかない」

 高円寺警部はそう言って、上層部に電話を入れる。小橋巡査は、高円寺警部が悔しそうな表情をしたように感じた。警察庁の人数が多少回復してはいるが、人手不足だ。まだ警視庁の協力がなければ、難しいことが多い。

 電話を終えると、地図から磁石を回収してホワイトボードに戻す。アパートの磁石を回収するとき、

「先ほど聞いたが、この人物を協力者として引き込むそうだ」

「アパートの4階に潜伏していた人物を、ですか?」

「そうらしい。警視庁の元捜査一課の人間が接触したそうだ」

 アパートの4階の人物といえば……


To be continued…


2022年は途中で更新が止まり、何週間か空いた期間がありました。3月から始まった隅田川花火大会の話が12月でも続いているのも、それが響いた結果です。毎週更新はできれば続けたいけれど、無理しない程度で、2023年以降も続けていきますので、来年もよろしくお願いします。


(と、今年の締めくくりを書いてますが、第172話と第173話が出来上がったので、第171話を30日に更新を前倒しして、大晦日に2話更新します。ラストスパートです)

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