表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/295

第161話 東京の夜空を彩る花火が打ち上がるとき、拾弍

 南浜部(みなみはまべ)警察署の捜査二課、千鳥(ちどり)警部補は共同捜査本部が設置されている会議室で頭を抱えていた。

「まだ分からないのか!?」

「科捜研での照合結果からも、空振りで……」

 鈴木(すずき)巡査は結果が出ずに、最後まで言わずに「もう一度……洗い直します」と、その場をあとにする。

 そこへ広珠蒲(こうたまがま)警察署の捜査一課、大乗(おおのり)警部が戻ると

「千鳥警部補。そちらは?」

「全く情報が出てこない。そっちと警視庁は、佳境だというのに……」

 ”平成三十一年広珠蒲少女失踪事件”の被害者である立和名(たちわな) 言葉(ことは)が間もなく保護される見込みだ。さらに”宇佐鷺(うささぎ)組関与の櫓賓(やぐらまろうど)詐欺事件”も囮捜査が進んでいる。それに比べて、”令和元年台田市場(だいたしじょう)五号玉盗難事件”は進展が無い。

 事件内容を振り返ると、東京都台田市場区(だいたいちばく)臨海中州(りんかいなかす)1丁目21番地にある金附(かねふ)工務店において、隅田川花火大会にて使用予定だった五号玉が盗難被害に遭った。五号玉は直径約15センチ、重さが約1.3キロ。金附工務店の代表取締役社長、白木(しらき)からの証言や付近のカメラを調べても何の情報も掴めていない。宇佐鷺組のメンバーを捕まえることが出来れば、もしかすると情報を持っているかもしれない。

「五号玉がそのまま残っている可能性よりも、転用されている可能性が高い。仮に爆弾などに使用されている場合、考えたくも無いが……」

 千鳥警部補と大乗警部が会話していると、先ほど会議室を出たばかりの鈴木巡査が戻ってきて

「千鳥警部補、大変です。会場でも花火が1つ行方不明になったそうで」

「詳細を言え」

「はい。現場で打ち上げ前の確認をした際には数が合っていたのですが、打ち上げ直前になって1つ数が合わないと」

「すぐに周辺のカメラを探れ!」

 千鳥警部補に命令され、鈴木巡査は慌てて「はい」と叫び、すぐに情報を捜査員に伝達する。

「まさかの事態にならなければいいが……」

 千鳥警部補が危惧すると、大乗警部は冗談では無く真面目なトーンで

「そういう嫌な勘って、当たること多いですよ」

「もしものことが起きる前に……。断られるだろうが、隅田川花火大会を中止できないか、打診する」

 千鳥警部補はそう言って、まずは警察内部の上層部に電話をかける。


    *


 警視庁生活安全部サイバーセキュリティ課所属の伊與田(いよだ)は、隅田川花火大会の第二会場打ち上げ場所近辺のカメラにおいて、時間を遡って人物検知を行う。共同捜査本部からの指示だ。

「花火玉を大胆に盗む瞬間ぐらい撮れているとは思うが……」

 すると、結果がパソコンに表示される。映像には花火職人と思われる一人が、周囲を見ながらダンボールに花火を入れた。そのダンボールを黒のパーカーを着た小柄な人物に渡している。

「身長150から160センチの黒いパーカーを着た人物が、ダンボールを受け取り、鞄の中に隠しました。映像追跡します」

 すぐに共同捜査本部へ報告し、黒いパーカーの人物を検知対象にして現時刻までのカメラ映像を対象に解析をかける。

 すると、結果がいくつか出てきて

「ここって、工事中の……」


    *


 薄暗いが外は騒がしい。鉄骨が()き出しで、フェンスや防音シートで囲まれている。工事用の機材が置かれており、工事内容を記した黒板が転がっている。名称は”新設歩道橋(仮称)”。名称が「すみだリバーウォーク」に決まるのは、まだ先の話。

 黒いパーカーを被った、身長155センチくらいの若い女性は、鞄から素手で花火玉を取り出し、その場に転がす。

「これが何のためになんのさ?」

 声色から推測するに20代前半だろうか。女性の視線の先、奥にいるサングラスの大男は、資材を椅子の代わりにして座っている。

「捜査を混乱させるため、警察に無駄な情報を与える。意味が無いことに意味がある」

「はあ? リスク負ってまですることか? もしものときは、アタシらは切り落とされるってことか?」

 花火玉の盗難容疑で捕まったとしたら、組織は2人を簡単に見捨てるだろう。口の悪い若い女性は、(あおい) 彩女(あやめ)。屈強な男は、廣本(ひろもと) 柚吾(ゆうご)。ともに宇佐鷺組のメンバーである。

「結局、五号玉はお釈迦になり、派手な爆破はなし。ホントにそうなのか? 五号玉の火薬が水分を吸って使い物にならなくなったって、フェイクじゃないのか?」

「組織内で嘘を伝える必要がどこにある?」

 廣本は葵の考えを否定するが、葵は考えを変えること無く

「敵を(あざむ)くにはまずは味方からって言うだろ?」

「なぜそんな必要がある?」

 廣本の問いかけに対して、答えになっていないため、再度問う。

「そうだな。例えば、嘘を伝えてアタシらを消すためとか?」

「ん……」

 廣本は言葉に詰まりつつ、冗談半分で言った葵も苦笑したが

「まさかね」

 と、咄嗟(とっさ)に言った冗談が段々と怖くなってきた。

「今日のタスクはこれを運ぶだけ……だよな?」

 指令では花火職人に紛れた仲間から花火玉を受け取り、工事現場まで運搬する。しかし、運んだ後の指定は無い。受取人や置き場所の指定が……。

 指示があるまでは待機せざるを得ない。そのままの服装で外に出ると警察に見つかり、即座に捕まるだろう。かと言って、ここに居続けても、警察に居場所を突き止められるまで時間の問題だ。

 葵は隅っこにまで転がった花火玉を持ち、

「そういや、交渉の件は?」

 同時進行している他の事柄を気にするが、廣本は生憎その情報を持ち合わせていない。首を横に振り、少しズレたサングラスを右手で直す。

「……素手で持ってて良いのか?」

「多分、ダメ。アタシは指紋が無いとはいえ、何かしらは残るだろうな。タオルあるか? ハンカチでも」

 葵が拭けるものを要求するが、廣本はたとえ持っていても自分の皮膚片などが付着する可能性を考え、何も言わない。非協力的である。

 葵は適当に周辺を漁り、汚れたタオルを見つけた。工事現場の人が使用したタオルだろう。油や汚れで黒い。

 葵は”先天性指紋欠如疾患”という病気で生まれつき指紋がないという。非常に珍しい遺伝子疾患らしい。

 第一会場で花火が打ち上がるまでもう間もなく……


To be continued…


次回より隅田川花火大会の花火が打ち上がり始めるかどうか。

結局、五号玉の行方は分からず。消失かもしくはすでに……

「すみだリバーウォーク」の名称は2019年11月に決まったそうです。開通は2020年6月18日。エトメデでの開通日は架空の日になるかもしれないですが。隅田川花火大会の話が進んではいるけれど、全体の話がなかなか進まず、まだかかりそうですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ