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第160話 東京の夜空を彩る花火が打ち上がるとき、拾壱

 午後6時20分。稲蔵(いなくら) 実信(みのぶ)は都内のインターネットカフェで、1枚の紙を印字していた。防犯カメラの位置に気をつけながらも、利用履歴が残るので、最悪ここまでは足が着くだろう。それを分かっていながら、実行するほど焦っていた。警察にはまだ保護を頼むという文言しか伝えられていない。

 立和名(たちわな) 言葉(ことは)を外に逃がすのも苦労するだろうが、警察に場所を伝えることも苦労する。逃がす目的地になるし、自分が逃がしたということを隠さないといけない。どうせバレるだろうが……

 印刷した紙を手袋のまま折って、B5のサイズのクリアファイルに入れる。稲蔵は店を出て路地裏に入り、口の堅そうな人物を探す。前回と同じく、金銭を渡して第三者経由で警察の手へ。


    *


 御徒町(おかちまち)駅から徒歩5分ほどの御徒町駅南交差点前交番。熊川(くまがわ)巡査が道案内を終えて戻ってくると、出払っていて誰もいなかった。今日は隅田川(すみだがわ)花火大会を目的に来ている人が多く、いつもよりも(せわ)しない。デスクの上にパトロールに出ていますという案内パネルが置いてある。最後に交番を出た巡査が置くルールとなっている。熊川巡査が戻ってきたので、パネルを片付ける。すると、パネルの下からB5サイズのクリアファイルが出てきた。熊川巡査は不審に思って、手にする。クリアファイルは献血のコラボイラストのようで、見たことのあるキャラが描かれている。クリアファイルの中には、A4の紙が折りたたまれていた。広げると

「これは?!」

 熊川巡査は、急いで警視庁へと電話をかける。


    *


 隅田川に架かる橋は、第一会場近くの桜橋(さくらばし)から南へ順番に次の通り。国道6号および都道319号環状三号線の言問橋(ことといばし)。東武伊勢崎線(スカイツリーライン)の鉄橋と併設された歩道橋、すみだリバーウォーク。すみだリバーウォークはまもなく開通する予定であり、現在は工事中である。浅草駅の最寄りであり、都道463号線の吾妻橋(あずまばし)。浅草駅の南に位置し、都道463号線の駒形橋(こまがたばし)。そして第二会場近くの厩橋(うまやばし)。なお厩橋のさらに南には、蔵前橋(くらまえばし)がある。

 榊原(さかきばら)警部と藍川(あいかわ)巡査、悠夏(ゆうか)は川岸は経由せず、大通りと住宅街をジグザグに歩いて桜橋を目指していた。首都高速6号線の高架下、都道461号線に出ると着物を身に纏い、カップルや家族連れ、友人同士と思われる人々が歩道いっぱいに歩いている。すれ違いが大変そうだ。

「桜橋はこの先だが」

 と言いかけると、携帯電話が着信を知らせるバイブレーションで震える。榊原警部は右手を前に出し、少し待ってくれというジェスチャーをし、電話に出る。

 藍川巡査と悠夏は桜橋の方を見て

「待機するならどこがいいですか?」

「イカ焼きとか焼きそば、たこ焼きあたりを持って、食べるフリをしながら待てばそのうち」

「それって、藍川巡査が食べたいだけですよね?」

「食べるふり……ですよ?」

「本当ですか?」

 悠夏が藍川巡査に疑いの目を向ける。すると、早々に藍川巡査が目線を逸らし

「リンゴ飴か。食べたいなと思いつつ、まだ食べたこと無いな」

 女子高生ぐらいの4人グループが、全員リンゴ飴を片手に歩いていた。その後ろには、家族連れで6歳くらいの娘さんがリンゴ飴を持っており、さらにその後ろに小学生男子グループもリンゴ飴を持っている。

 その光景を見た悠夏は思わず呟くように

「”何が”とは言わないですが、多いですね」

「その後ろのグループも……。今日はリンゴ飴の日?」

 おそらく偶然だろうが、リンゴ飴の行列がしばらく絶えず、人気店があるのか儲かっているんだなとか考えていた。もしくは、どこかで流行(はや)っているのだろうか。

 電話を終えた榊原警部は、すぐに別の電話をかけている。まだかかりそうだ。いつまでもリンゴ飴の話をしても仕方が無いので、悠夏はスマホでSNSを見る。すると、トレンドにリンゴ飴が入っていた。どうやらテレビ日本放送の番組企画で、おいしいリンゴ飴を販売しているらしい。販売が第二会場近くであり、桜橋周辺にリンゴ飴を持った人が多いみたいだ。

「榊原警部の電話、長いですね」

「何かあったかも……」

 あまり冗談も言えなさそうな雰囲気に、2人は会場のマップを見直す。打ち上げの時刻まで残り少ない。今日は雲一つ無い空らしいが、東京では星が見えない。風も弱く、絶好の花火日和だろう。

 榊原警部が長い電話を続けるなか、待機している2人に気付き電話を繋いだまま

「桜橋は嘘だ。厩橋に行くぞ」

「え? でも密告者からは桜橋って……」

 藍川巡査が確認すると、榊原警部は「詳しくはあとだ」と第二会場の厩橋の方へと駆け出す。悠夏と藍川巡査は、状況が分からないままついて行く。

 榊原警部の電話の相手は、榊原警部からの情報を聞いて

「つまり筒抜けになっていると? マズいな……」

 心配しているのは、対岸の隅田川公園で潜伏する捜査二課の新野(あらたの)警部である。

天河(あまかわ)警部には俺から連絡する。あとはインカムで指示が飛ぶはずだが……、間に合うか……?」

「警察がいると分かって、取引を行うとは思えない。強奪の可能性も考えた方が」

「防弾チョッキは着ているが、周囲の人に被害が及ぶことは可能な限り回避する。情報、感謝する」

 新野警部との電話を切り、榊原警部はすぐに藍川巡査と悠夏に説明する。

「御徒町駅南交差点前交番で密告者と思われる人物からの情報提供があった。全員が出払っている瞬間に交番のデスクに、クリアファイルに挟まれた紙があったそうだ」

「受付のときみたいに紙ですか?」

「そうだ。それに、共通のワードを使用していた。”会議室Dへ”」

 ”会議室D”は”花火が打ち上がる時間に少女が会場に現れる。保護を頼む”という紙を残していたときと同じであり、同じ密告者でなければ知り得ない情報だ。

「それなら、機械音声の通報やスカイツリーでの伝言は?」

 藍川巡査の言うとおり、桜橋での保護を訴えた情報はガセということなのだろうか。

「2つ考えられる。1つは全く別の密告。本件とは違う事件の告発。この場合は、桜橋周辺にいる警察官に任せる。2つ目だが、密告者の行動が組織内の人物にバレて、掻き乱されている可能性。この場合、非常に厄介なのが……」

「受け渡しが警察による罠だとバレていたら……」

 悠夏の想定する最悪の事態は、被疑者が現れないことではなく、囮役となっている中武(なかたけ) 芯地(しんじ)と周囲の人々の安全が脅かされないかどうか。例えば警察の失態を目的として、受け子が刃物を持って暴れることも考えられる。さらに、密告者や立和名(たちわな) 言葉(ことは)の身に何かあれば……。

 榊原警部は先ほどの続きとして

「紙に書かれていた内容は、”会議室Dへ。少女、タチワナ コトハを第二会場最寄りの橋で保護してほしい。1940。直前まで監視下の元にあり”とのことだ」

「19時40分。丁度受け渡しの時間ですね……」


To be continued…


先週、稲蔵が不器用だから回りくどい伝え方をしてますねと後書きに書きましたが、あれから1週間経って、別人が行った展開にしてみました。そろそろ花火打ち上げの時間になるかと思われつつも、もう一悶着ありそうな……。序章で触れた3つの事件の内、ここまで動きの無い1つに次回動きがありそうです。

予約投稿し忘れて、今回金曜更新となりました。特に木曜に拘っているわけでは無いんですが、なるべく木曜22時に固定してました。今後も一括更新とかが無い限りは木曜22時ぐらいに更新予約かな。

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