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第16話 アフターストーリー ~平成30年12月24日~

「警部、朝ですか……?」

 悠夏は、瞼を閉じたまま、寝言みたいに言う。

「警部、今……何時ですか……?」

 ただ、鐃警の反応はない。

「警部、外は雪ですか……?」

 と、続けて悠夏が言うと

「……スマートスピーカーに喋るみたいに言わないでもらえますか? 『Hey! 警部』って言っても無駄ですよ」

「オッケー、警部……」

「あの……、そっちでもないです」

 珍しく、鐃警がツッコミだ。眠いので、悠夏は適当なことを言っている。起きたあとに、憶えているだろうか。


 さて、悠夏は大きく背伸びして布団から出る。テレビを付けると、都心で雪が降っているらしく、中継で八王子駅前や新橋駅前のSL広場、渋谷のスクランブル交差点が映る。朝6時前でかなり積もっているらしい。

 自宅ではないため、悠夏は睡眠の質が低く、大きく欠伸する。鐃警はブラインドを、往年のドラマみたいに、指でずらしてその隙間から外を見る。

「霞ヶ関もかなり積もっているようで……、結構、車が危なっかしいですね……」

「雪が降ると、交通課や交番が忙しくなりそうだなぁ」

 悠夏は、給茶機から温かいお茶を入れて飲む。昨日は、庁内のアナウンスで、大雪の注意喚起が何度も放送された。流石に、早朝の移動は危険だと思い、いろんな人に相談して、布団を借りて警視庁で一泊したのだ。

「どこかの部署へ応援で行った方が良いのかな……?」

「佐倉巡査、それは自分の仕事が終わってからでは?」

「ごもっともです……」

 鐃警に言われ、悠夏はデスクの上に置かれた資料を見る。

「例の……ボウリングのボールを振り回した男についての事件ですが、事件が絡みすぎて……。資料を読んでも、関連が把握しきれないです……」

 悠夏の見ている資料は、昨年12月に発生した窃盗事件である(のちに、強盗致傷事件に変わった)。被害者の女性は、ポーチを盗まれた際に、突き飛ばされて、意識不明になり、一時心肺停止になったものの、被害者の彼氏がAEDを使用し、多数の協力のもと、救急車で搬送される時には、意識を回復。結局、被疑者の立住(たちすみ) 知一(ともかず)は、現行犯で逮捕。被害者の女性は無事に退院した。しかし、担当の藤花(とうか) 真凪(まな)の作成した資料によると、被疑者は他の事件も起こしているという。

「そういうときに、ホワイトボードを使ったらどうですか?」

 と、鐃警が廊下に出て、どこからかホワイトボードを持ってきた。さらに、自分でホワイトボードに書こうとしたが

「この黒、書けないんですけど」

「そこの青は?」

「薄い……」

 ホワイトボードマーカーのインクが無いようだ。鐃警は、再び廊下に出て、少しすると新品のホワイトボードマーカーを大量に持ってきて、ホワイトボードに書き始める。

「資料ください。全部は憶えていないので……」

「そこは、人と変わらないんですね」

 と、冗談で悠夏は言ったが、鐃警は反応せずに黙々と書く。

 しばらくして、出来上がった関係図を見て

「まず、被疑者は、2018年12月24日に、窃盗と暴行事件を起こしています。これについては、ケーキ屋の前で見てますので、省略しますね。12月22日に……、これ、本当ですか?」

 鐃警が思わず、資料を二度見する。

「調書通りなら」

「では、改めて。立住(たちすみ)被疑者は、12月22日に渚区のボウリング店にて、ボウリングのボールとピンを窃盗。ボウリングのピンは40本で、重さが約60kg。ボウリングのボールは、5つで約30kg。24日に持っていたボウリングのボールは、盗難品であった。営業後の犯行で、いずれもクリーニングから返却されたものであった。……ボウリングのピンって、クリーニングしてるんですね」

「昔、ワイドショーか、何かのバラエティー番組で見たから、そこは気にならなかったけれど。レーンのワックスがつくから、ある程度の期間で、クリーニングしてるみたいですよ。今回のボウリングの店は、クリーニング後の物が届いた後、店の中に順番に運んでいたら、いつの間にか盗まれたみたいですね」

「日付が変わり、23日の未明に、被疑者は鈍器(かっこ)その後の捜査で、ボウリングのピンだと発覚(かっこ閉じる)で、傷害罪(かっこ)後に暴行罪に(かっこ閉じる)の事件を起こした。23日の傷害罪で、被害者は襲われた後に、被疑者が用意していたもう一本のピンを持って反撃しようとするが、肩を脱臼。ただ、被疑者は反撃されると思い、逃亡。同日、お昼にボウリングのボールをビルの4階から落とす。けが人は出なかったが、人通りがあり大変危険な行為であった」

「この被疑者は、何がしたかったんでしょうか……?」

 と、ホワイトボードを見ながら悠夏は首を傾げた。鐃警は、資料を捲りながら、

「供述に書いて……、あった。これかな? 被疑者の供述として、いずれの事件も認めており、”驚くと思った”と言っている」

「信じられないですよね……」

「でも、こういう人、事件にいますよ。刑事ドラマみたいに、トリック頑張って、動機がしっかりしている人の方が少ないですよ。現実は、ドラマと違いますからね」

 悠夏は、珍しくしっかりとしたことを言う鐃警の顔を見る。すると、それに気付いた鐃警は

「なんです? その顔は」

「いえ、特に意味はありませんよ」

「で、この事件について、特課は何を求められているんですか?」

「藤花さんからのお願い事は、この資料を見て、事件当時に犯人に違和感や怪しい点などはなかったか、そういった情報をまとめてくださいって」

「違和感ですか。被疑者が、躊躇しなかったとかですか?」

 確かに、鐃警の言うとおり、被疑者は鐃警をレジ袋に入ったボウリングのボールで車道に吹っ飛ばしたり、悠夏に対しても攻撃的だった気がする。

「藤花さんからの情報としては、被疑者が、何故ボウリングのボールをレジ袋にいれていたのか。何故、女性のポーチを強奪したのか、そこが分からないらしいです」

「それこそ、被疑者に直接聞けば解決することでしょ」

「それが、供述書にも書いてありますが、ボウリングのボールを持っていたことに関して、”持っていたから、持っていたんでしょう”や、女性のポーチを奪ったことについて、”奪っていたから、奪ったんでしょう”と」

「……はぁ、結果ありきで、供述してるってことですか」

「被疑者本人が、奪ったという事実があるから、被疑者本人は、過去のそのときに被害者から奪ったんだと」

 悠夏も鐃警も、自分で言っておきながら、被疑者の供述を読めば読むほど分からなくなる。警部は、ホワイトボードマーカーを置き、

「……もう、送検しましょ。そこの判断は、検察庁に任せましょうよ」

 と、検察庁任せにし始める鐃警。

「ひとまず、特課としては、”躊躇するような言動は見受けられなかったこと”と、回答しておきましょうか」

 すると、タイミングを見計らったかのように、電話が鳴る。悠夏は、電話を取り、しばらく話をした後、電話を切り

「警部。犯人の目的が分かったみたいですよ」

「立住被疑者のですか?」

「”ボウリングがしたかった”とのことです」

「はぁ……」

「お金がないので、ボウリングのボールとピンを奪い、川岸でボウリングをしていたら、男性が注意しに来たため、ピンで殴打。結局、ボウリングが思うように出来ず、イライラしてビルの4階からボウリングのボールを捨てる。その後、やっぱりお店に行った方が良いと考え、ボウリングのボールを1つ持って、お金を女性のポーチから盗もうと、窃盗。なぜ供述しなかったかと言うと、本当のことを言うと、恥ずかしかったからとのことで、近々、送検するそうです」

「……えぇ」

 警部はどう反応すべきか困り、結局、

「つまり、被疑者はボウリングでストライクを取るどころか、人生というレールから外れ、ガーターになったわけですね」

「警部、ガーターじゃなくて、ガターです」

「やめて、恥ずかしい」

「大丈夫です。一度ガターになっても、もう一度トライできます。スペア狙えばいいんですよ」

 と、悠夏は、もはや後半笑いながら言い、鐃警は両手で顔を隠し、

「やめて、それ以上言わないで……」


To be continued…


タイトルを西暦にするか事件名にするか悩んだ結果、和暦表記にしてみました。

今回は、3~4話のその後の物語でしたが、こんな感じで今後もたまにアフターストーリーを挟むかと思います。総集篇ではないので、タイミングは不規則かと。

今回、終始特課の部屋(元会議室)で会話するだけで終わったけれど、たまにはこんな回もいいね。


【11/21 追記】

名前の間違いに、今になって気付きました。3話、4話、16話を修正。


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