第157話 東京の夜空を彩る花火が打ち上がるとき、捌
柴山 玲二を名乗る男と中武 芯地の打ち合わせが終わり、19時40分に現金で500万円を用意することになった。すでに300万円を支払っているため、合計で800万円になる。段々と金額を吊り上げようとしているようだ。
300万円は中武がすでに支払っているが、今回の500万円は一番上と一番下のみ本物で、あとは紙切れで準備をする。つまり本物は2万円だけ。
柴山については、捜査二課の捜査員が尾行。特課の悠夏は撤収を手伝い、捜査二課の新野警部と受付へ。すると、折りたたまれた紙を渡された。”会議室Dへ”と書かれている。新野警部が開封すると、さっと目を通して表情が変わった。
「これは誰から受けとったんですか?」
「若そうな男性がこれを。もしかしたら、学生さんかもしれないです」
人物を聞く必要がある内容だったのかと、悠夏は首を傾げつつ、新野警部に「気になることでも?」と聞くと
「どうやら、会議室に我々がいたことを知る人物がいたようだ」
「どういうことですか?」
悠夏は新野警部から紙を受けとると、そこには”花火が打ち上がる時間に少女が会場に現れる。保護を頼む”という一文だった。警察とは書かれていないし、情報があまりにもざっくりしている。
「会議室Dに人がいることを知っていて、なおかつ少女の保護が出来ることが分かっている」
「助けを求めているってことですか?」
「どうだろうな。少女に関しては、生活安全部か捜査一課の捜査員に協力を要請するとして……」
「捜査一課には、私から伝えましょうか?」
「そうしてもらえるとありがたい。こっちの詐欺事件に注力したいからな」
新野警部は詐欺事件の捜査を優先し、悠夏はここに残って、捜査一課の榊原警部に電話をかける。
「特課の佐倉です。急ぎの捜査がありまして」
と前置きをして、事のあらましを説明した。榊原警部は「分かった。そっちに向かう」と言うと、後ろの方で「事件捜査ですか? お供します!」と藍川巡査の声が聞こえた。
30分ほどして、榊原警部と藍川巡査が到着した。
「捜査状況は?」
悠夏は、待っている間にカメラの映像を確認していた。受付の映像を2人に見せて
「この青年が紙を渡したようです」
映像を見ると、青年は外から真っ直ぐに受付へやって来て、紙を渡すとすぐに出て行った。
「1度だけ受付に寄ったのみで、それよりも前の時間を見ても、この青年が映っていないようです」
「他の誰かから頼まれて、渡しただけか? しかし、直接渡せばいいものをわざわざ誰かを経由しているのは不自然だな」
「手書きでは無く、印刷されたものでしたが、この辺りの店で印刷できそうなところが無いようでして……」
「受付では借りられないのか?」
榊原警部はレンタル品を使用した可能性について言及するが
「今日貸し出したものは無いようです。盗難被害も無く」
コンビニは印刷機のみで、基本的にはコピーかUSBに入ったデータを印刷できるぐらいだ。パソコンを使えそうな家電製品を販売する店や漫画喫茶のようなお店はこの近くに無い。地図アプリで調べると、ここから2キロぐらいは離れているだろう。往復すると4キロで30~40分以上はかかるだろう。
2人が会話している中、藍川巡査はビルの階層案内を見て
「レンタル会議室以外に、新聞社があるみたいですよ。ここで印刷できますかね?」
*
稲蔵 実信の電話に連絡が入る。電話に出られそうな場所が無いか周囲を見渡し、歩道橋の階段の裏へ。フェンスに寄りかかって電話に出る。
「報告はどうした?」
「まだ人通りが多い」
「早く報告しろ」
「そう急かすな。金銭の受け取りがあるって聞いたが、受けとっていたようには見えなかったぞ」
「ちゃんと見ていたようだな」
「はぁ? そもそも会議室の中なんて見えないぞ。出入りのときに荷物を確認したが……。次はもっと分かりやすい場所に」
稲蔵が文句を言うが、相手は完全に無視をして
「次は花火大会の最中に金銭を受けとる。それを監視しろ」
「警備の中で?」
「花火大会は人出が多い。それだけで十分だ」
木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中ということだろうか。シンプルで分かりやすいが……
「時間と場所はこれから伝える」
そう言って、取引場所と時間を告げられた。
*
「当たりだったな」
新聞社から出てきた榊原警部は、同じ書類を2つ持っていた。1つは受付で入手した書面。もう一つは、新聞社のデスクに置かれていたプリンタで印刷した書面。パソコンの初期設定のフォントと同じ文字装飾であり、簡単に作ることが出来た。
安価なプリンタのため、過去の印刷データが残っていることは考えにくく、パソコンの文書データで一時的に保存されるバックアップ機能に文書が残っていないか確認したが、見当たらなかった。よほど証拠を残したくなかったのか、それともそこまで考えておらず結果的に履歴を残さない状態になったのだろか。
「手書きよりも印刷の方が特定しにくいと考え、近辺を探して見つかったのが新聞社。偶然にも出払って誰もいないタイミングだったため気付かれずに印刷が行えた。パソコンで文章を書き、印刷した後に保存しなかったため、履歴が残らなかった。ということですかね?」
悠夏は現実的で計画性の無い行動だと考えた。新聞社に不法侵入しており、無断でプリンタとパソコンを使用しており、窃盗罪に当たるだろう。パソコンにバックアップ機能があっても、デフォルトだと10分ぐらいで自動保存するため、それよりも短時間で作って削除したのなら、設定によっては記録が残らない。しかし、詳しく調べれば履歴は出てくるだろう。任意で警察に提出できないかと聞いたら、断られてしまった。強制は出来ないため、引き下がるしか無かった。
「問題がひとつ」
榊原警部は人差し指を立てて、自身の考えを語る。
「犯行グループの一員に警察が動いていることがバレている。由々しき事態だ。もしそいつが他のメンバーに情報を漏らした場合、二課で泳がせていることが筒抜けになり、苦労が水の泡だ。しかし、回りくどい方法で我々に接触しようとしているのならば、言わないだろうが……。念のため警戒した方がいいだろうな」
To be continued…
5週間お休みしましたが、なんとか再開です。
ゴールデンウィークに『黒雲の剱』だけ進んでいたので、ストックが全くなく止まっていました。
話はサクサクと進めたいので、新聞社でのやり取りは描写せずに結果報告で進行します。
自動バックアップがあっても、新規作成して書いた後、すぐに破棄するとバックアップされていないことが多いですね。だいたいは10分間隔かな? ソフトによりますが。ユーザーが破棄してるので、パソコン上は残ってなくても不思議では無く、プリンタも安価なものなら過去の印刷物を記憶してないので、簡単には分からないかも。
ちなみに、21:59に予約してるのでギリギリでしたね。今回の更新。
次話は9月中には更新させたい所存。
2022/12/17修正。19時30分→19時40分。まさかのとても大事なところが間違えていたので修正しました。30分は第二会場の打ち上げ時間で、取り引きは40分ですね。




