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第145話 邪神の封印を

 普通ポンプ車や水槽付ポンプ車、塔体付(とうたいつき)ポンプ車などから空高くへと放水を行い、井戸水や雨水、荒川の水といった自然の水で人工的な豪雨を降らせている。

 斑鳩川(いかるがわ) (ひょう)は空き瓶をひとつ持って、警察の包囲網の外側へ歩く。樋渡(ひわたり) 直太(なおた)は「どちらへ?」と聞くと

「万が一に備えて、準備だけしておく」

 樋渡は何を準備するのか詳しく聞こうとしたが、警察官から声をかけられ、気付けば飃の姿は見当たらなかった。


 SITとSATによる包囲網。邪神が徐々に小さくなり、多くの生徒や学校関係者、生徒の家族が校舎の瓦礫の中または周囲から救出された。現在のところ、低体温症や気を失っている者はいるものの奇跡的に死者は出ていない。会話できる者も病院へ行き、念のため検査を行う。

 消防隊が人工的に降らす雨により、邪神はさらに小さくなり人々を解放する。笠鷺(かささぎ) 義徳(よしのり)が残した情報が無ければ、どうなっていたかは分からない。

 鐃警(どらけい)はロボットながら雨合羽(あまがっぱ)を着ており、最前線にいた。定期的な防水コーティングを行っており、以前よりは耐水に強くなったらしい。邪神を捕獲すべく、悠夏とSITから3名、SATから2名が目を光らしている。

 倉知(くらち) 音弥(おとや)副総監はインカムで指示を飛ばす。悠夏はさほど違和感を抱いていないが、他の捜査官は、現場には出ないであろう副総監が現地で指示を飛ばす光景が異様に見えていたかもしれない。

 邪神が想定していた5センチほどまで縮むと、鐃警と悠夏は目配せして確保へと動く。確保とは言っても、邪神を瓶の中に詰める。鐃警が邪神に近づこうとすると、それまで動かなかったはずの邪神が動き始めた。

 ほんの一瞬。1秒にも満たない僅かな時間。それに驚いて、体が止まってしまった。動いたにせよ、捕まえるために急ぐ。ビンを逆さまにして、邪神に覆い被さるように素早く振り下ろす。しかし、鐃警が振り下ろすよりも邪神の動きが速く、隙を突かれた。

「逃げるっ!」

 鐃警がすぐに瓶を振り直すが、瓦礫の隙間に邪神が逃げる。冷静に考えれば、邪神は移動したのでは無く、水の力で斜面を転げ落ちたのだ。絶対に捕まえねばならないというプレッシャーから、強張(こわば)っていつも通りの動きが出来なかった。

 転がるように瓦礫の隙間へと落ちたのを見た悠夏は、SATの隊員とともに瓦礫を持ち上げるが、さらに奥の方を流れている。悠夏は急いで、土嚢を積んだ排水の方を見る。水の力で流れているのなら、姿を現すだろう。倉知副総監が包囲網から逃がすなとインカムで全体へ叫ぶ。

 そこから出るのが分かっているならと、悠夏は待機していた位置から瓦礫の上を移動して、排水の方へ急ぐ。鐃警とSATの隊員は、どこかで引っ掛かる可能性を考え、瓦礫の下を探す。

「すみませんっ! 逃しました」

 指示と報告が混線するなか、鐃警の声もインカムに乗った。雨を止めるわけにはいかない。自然の水が唯一相手に効果あり。それをやめると、また被害者が出る。

 この校舎の瓦礫からたった5センチの邪神を見つけるのは至難の業。しかしながら、絶対に成し遂げねばならない。

 悠夏とSATの隊員が瓦礫から出てくる水に注視していると、黒い影が何度も現れる。しかし、植物の葉っぱやゴミのようなものばかりで、本命はなかなか現れない。

 SATの隊員が虫網と魚網を持ってきた。網で捕まえてからビンに入れるつもりだ。5センチならば捕まえられるだろうが、さらに小さくなると編み目の大きさから逃すことが懸念される。

 インカムでは指示が飛び交っている。「瓦礫下はどうだ!?」という問いに「まだ見つかりません」という返答。「包囲網は崩すな」と水に流されずに邪神が別の所から這い出てくる可能性を考慮する。そんな会話の中、「排水部分、待機完了」という声があった。悠夏と一緒にいるSATの隊員が報告したのだろうか。

「いました!」

 SATの隊員が流れてくる邪神を発見。虫網で(すく)おうとしたが邪神は3センチ程度にまで小さくなり、網をすり抜けた。

 悠夏とSATの隊員が急いで追いかける。このまま行くと、数台のポンプで吸い取られ、綾瀬川(あやせがわ)へ放水されてしまう。

「こちら藍川(あいかわ)。綾瀬川への放水ポンプ停止」

 藍川巡査の声で報告が入る。さらに続けて

「漁網の設置完了」

 悠夏は邪神の位置に注意しながら、土嚢で造られた排水ルートの先を見ると、漁網が複数箇所に設置されている。そのそばには、報告した藍川巡査と飃の姿があった。飃は藍川巡査に頼んできめ細やかな漁網を準備してもらい、不測の事態に備えていたようだ。藍川巡査の他にも、数名の警察官がいる。倉知副総監の指示で、待機していたのだろう。

 数センチの邪神が水に流され網の方へと向かっていく。設置した網にはゴミが少しずつ滞留する。ポンプを停止しており、水嵩(みずかさ)が増す。

 悠夏は空き瓶を片手に走り、網に遮られて身動きが取れなくなりぷかぷか浮かぶ邪神を狙ってビンで掬い上げる。少し水が入ったままだが、急いでビンの蓋を閉める。ズボンは濡れたが、そんなことはどうでもいい。ビンに入った邪神を藍川巡査と飃の方に向けると、頷いて報告を悠夏に任せる。

 悠夏はインカムのミュートを解除し、時間を確認しながら

「19時23分。犯人確保」

「よくやった」

 倉知副総監が報告を受けて、すぐに返答した。喜ぶのも束の間、樋渡が用意した木箱に邪神をビンのまま入れる。

「こちらは綾瀬川神社で引き取ります。今後は、境内にて厳重に管理いたします」

 真新しい木箱を閉じて、お札をグルグルと巻き、風呂敷のようなものでさらに包む。樋渡はそれを両手で抱え持ち、藍川巡査とともにパトカーで綾瀬川神社へと向かう。倉知副総監の指示で、先導車を用意し、パトカー4台が綾瀬川神社へと向かった。

「終わった……」

 悠夏の呟きがインカムに乗ったらしく、倉知副総監は

「まだ終わってないぞ。SITとSATは撤収準備。消防隊員は東京消防庁からの指示で待機し捜査活動を継続。警視庁の記者会見がこのあと20時から行われる。21時まで捜査員は現場にて作業を継続。20時には一般道の規制解除。20時半には首都高封鎖を解除。校舎の瓦礫に人が取り残されていないか、捜索は継続。本件はこれより、校舎での籠城(ろうじょう)自爆テロ事件にシフト。被疑者は単独犯かつ死亡。身元不明、年齢性別不詳。犯行目的及び動機も不明。生徒及び教職員、生徒の家族を人質とし、立て籠もりを行っていたが、SAT及びSITの突入により人質を解放。しかしながら、犯人確保を行った後に全身に爆弾を身につけていたことが発覚。さらに校舎内に設置された複数の爆弾で、校舎を爆破し全壊。倒壊に巻き込まれ、瓦礫に埋もれた被害者を東京消防庁の主導で救出。犯人以外で、負傷者はいるが死者は出ていない。捜査本部からの報告は以上だ。状況に応じて、さらなる情報が出てくる可能性がある」

 さらなる情報が出てくるとは、調べて出てくるのではなく辻褄が合うようにさらに情報を足すと言うことだろう。特に、被害者の中から怪物に喰われたという証言が出てくるのは時間の問題だ。幻覚剤や悪夢と説明するのだろうか。

 いずれにせよ、本件は被疑者の封印により一度幕を閉じる。校舎が全壊となったが故に、この規模で使用されたと考えられる量の爆薬入手ルートを捜査中と記者会見で発表するだろう。身元不明の被疑者死亡で、事件がこのまま風化するのを待つのだろうか……

 放水による人工的な雨は止み、空は曇ったままだった。


To be continued…


明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、当日に出来上がり新年早々またまたギリギリな進行です。

やっと区切りが付いた。ここまで長かったな。ただ、ここで終わりでは無くもう少し続きます。

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