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第141話 崩落と攻撃

 東京消防庁綾瀬(あやせ)消防署の消防士が消防司令長からの指示により、延焼防止で一部の建物に放水活動をしていた。火の手は上がっていない。消防士の中には、立て籠もり事件なのになぜ延焼防止を行っているのか分からぬ者もいた。

「立て籠もり事件はフェイクっすかね?」

「どうせ下っ端には知らされないんだろ。小耳に挟んだが、機動隊が出動したとか」

 消防救助機動部隊、通称ハイパーレスキューである。1995年の阪神淡路大震災以降、対応が困難な災害を対処すべく1996年に発足。2002年にはNBCテロの発生に備えてNBC災害対策部隊が、2007年には大規模水害対応部隊が発隊(はったい)したそうだ。

 その大規模水害対応を担当し、震災対応も行う第六消防方面本部消防救助機動部隊がすでに到着しており、指示を仰いでいた。さらに、NBC災害や震災対応を行う第三消防方面本部消防救助機動部隊も現場へと急行している。第六消防方面本部は足立区にあり、第三消防方面本部は渋谷区にある。

 消防救助機動部隊の特殊車両が走行する光景がSNSを中心に投稿され、その目的地が立て籠もり事件の方面だったため、さらなる臆測を招いていた。ただの立て籠もり事件ではない。しかし、それから先は人々が勝手に考えて、勝手に呟いているだけだ。それを恰も本当のことのように拡散する人物もおり、最新の話題を示すトレンドの言葉は混沌としていた。


    *


 最も前線にいるであろう坂部(さかべ)警部は、状況が変わらなくても無線機で報告と指示を出していた。

「依然として変わらず。規制線は現状のまま維持。逃げ遅れを発見した場合は、規制線の外へ避難誘導を。特課が重要参考人に対して聴取を行っており、その結果を待つ。ただし、状況が少しでも変化した場合、待たずに判断する場合あり。各班は、今一度指示内容を確認するように」

 このまま何も起こらなければ良いが……。そう願っていると、小さな音が聞こえ、同時に嫌な予感がした。音は邪神が覆う校舎から聞こえた。何の音だろうか。4人が脱出して以降、ガラスの割れる音は聞いていない。

 ミシミシと軋むような音。捜査資料に記載されていた情報から、校舎は木造ではない。鉄筋コンクリート製だ。数年前に耐震補強工事を行っており、崩れることはない。

 ドーンという音とともに、床か天井が抜け落ちるような音がした。校舎が耐えられないのか、それとも邪神が壊そうとしているのだろうか。

「こちら坂部。校舎の外観に変化はないが、内部で天井が崩落するような音がした。校舎が耐えられないのか、邪神による破壊かは不明。校舎倒壊の危険性が一層高まっている」

 崩れたことによる煙は外から確認出来ない。暗くて見えないか、もしくは邪神が覆い被さっているため、校舎の外に煙が漏れないか。

 その後も、同じような音が聞こえたが煙は確認できなかった。坂部警部は音が聞こえる度に無線で報告を続けた。いつまで待つ指示を継続すればいいのだろうか。特課からの報告をいつまで待てるだろうか。校舎が崩落を始めると、状況は必ず変化する。悠長に待ってはいられない。タイムリミットが刻々と迫っている。


    *


 埼玉県秩父市、笠鷺(かささぎ) 義徳(よしのり)が残した冊子には達筆で書かれた文章と、その文章と同じ筆で描かれた妖怪や怪物の絵が載っていた。深紅の表紙の冊子を開き、ついに邪神について書かれたページを発見するに至った。そのページには、邪神の絵は描かれておらず、封印されていた祠の絵が描かれていた。

 義徳の孫娘である(しず)は、文章を読むのではなく、7年前ぐらいの読み聞かせを思い出していた。同じ話を何度も聞いたから、なんとなく覚えている。ふとしたキッカケで、その当時のことを鮮明に思い出せる。先程までなぜ思い出せなかったのか、不思議なぐらい。

 静は、義徳が当時喋っていたことをそのまま喋ってみる。当時の記憶を頼りに。

「昔、(よこしま)なことを行う神がいた。何者かに封印を解かれ、世に放たれた。邪神は自分の存在を知った者を次々と襲った。封印を解いた者や家族、友達、次々と神隠しに遭った。襲う理由や目的は無く、唯単に認知した者を襲った。あるとき、襲うことが出来なくなった。昼夜問わずに鎮座し、誰しもがその存在に気付いた。蓄え過ぎたためか、もしくは満足したのか。いるのが当たり前のようになった。しかし、神隠しの現場を見た者がいた。その人物が事のあらましを伝えると、人々は武器を持って邪神へ攻撃を行った。抵抗せぬかと思えば、その攻撃は思わぬところに当たっていた。それを知ったのは、台風による暴風雨のあとだった。邪神は台風の暴風雨により、動けぬまま川に転げて、流れ落ちた。邪神は小さくなり、偶然男が持っていた瓶に入る大きさとなり、封印された。川から行方知れずだった人々が帰ってきたが、助かったのは僅かであった。亡くなった者は、邪神を攻撃した武器によって命を落としたのだった。邪神には攻撃するべからず。助けるためと思い攻撃したが、それは助けるはずの人へと届いていた。邪神は自然の水で洗い流すのみ。攻撃してはならぬ」

 小学生にどんな読み聞かせをしたのかと疑いたくなるが、それは後回しだ。

 与野(よの)巡査長との電話越しで聞いた悠夏は、マイクを抑えることも忘れ、一心不乱で高城(たかしろ)中隊長を探し、その場で叫ぶ。

「全ての攻撃は中止してください! 攻撃は、被害者に当たる可能性があります! すぐに中止してください!」

「なんだと!? 校舎崩落ですでに攻撃許可が出ている」

 高城中隊長は、すぐに隊員へ攻撃中止の指示を出す。

「全隊員に次ぐ。攻撃は中止! 直ちに中止せよ。被害者に被弾のおそれあり、発射が中止できない場合、対象物以外へ避けろ!」

 命令の直後、無線から多数の発砲音がした。さらに、それらの発砲音は無線を介さずとも会議室にいた全員の耳に届いた。

「発砲した班は、速やかに報告せよ」

「荒川の土手SATより、まとめて報告。ターゲットへの命中は確認されず、銃口を下げたことにより、銃弾は法面及び土手下の畑へ着弾。攻撃中止により、二発目はなし。なお、人的被害はないが、畑のスイカが破裂する被害あり」

「首都高側、SITはアスファルトの道路に着弾した他、防風壁を貫通して綾瀬川へ着弾。さらに、避難済みの民家の窓ガラスを1枚破損。咄嗟の判断とは言え、民家を撃った隊員については、厳重注意。校舎への着弾はありません」

 発砲を中止できなかった者は、咄嗟に銃口を下げたため、近い位置に着弾した。あと一秒遅ければ、銃弾は邪神を貫通していただろう。

 無線から坂部警部の声が聞こえ

「校舎が崩落した」

 校舎が崩れて、土煙が出る。

「邪神に動きはなく、校舎の瓦礫の上にいる」


To be continued…


警察だけではなく、消防も登場です。ハイパーレスキューの特殊車両を作中に出せるなら出したいな。NBCについては、以前説明を書いたので本編では省略してますが、核(Nuclear)、生物(Biological)、化学(Chemical)物質の頭文字です。

邪神の正体が少しずつ解明されており、本編では直接的な表現を避けましたが、"邪神を攻撃した武器によって命を落とした"ってことは、死因がどういう状況だったのか、遺体からはっきりと分かったという訳ですよね……。川が赤く染まったとまでは書かなかったのですが、それ相当な気はします。

さて、そう言えば、ここまでで邪神に攻撃をしていたシーンがあったような……。それについては、後ほど。

次回は12/1(水)更新予定です。

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