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第140話 人海戦術の結果

 2019年7月22日。荒川と綾瀬川に挟まれた位置に存在する東京都下水道局のセンター。3階の会議室で、これまでの状況整理を行っていた。

 事の発端は、井村(いむら) 八太郎(やたろう)が邪神の封印を解いたこと。ほぼ確実に言えることだ。なぜ、八太郎は電車を使わずに徒歩で帰宅したのか。

「井村君は18日も堀切駅から電車を使わずに帰っていました」

 悠夏(ゆうか)は捜査資料を見ながら話している。人海戦術で得られた情報により、事件の全貌が明らかになってきた。

「3年生の永冶(ながい) 帆菜(はんな)さんとその日、別れ話になり、精神的に落ち込んでいたらしく、電車を使わずに歩いて帰ったのではないかと」

「やっぱりあの話……井村のことだったのか……」

 (すばる) 千弦(ちづる)は、同じコンビニでバイトしている高校3年生の千住(せんじゅ)先輩から破局の話を聞いていた。帆菜が一方的に別れ話をしており、前日のことなど露知らず、千弦はことみに告白することを話した。事前に知っていたら、言わなかった。

 その後は、宮岸(みやぎし) 真岐(まき)教諭は被害生徒2名の家族から電話を受けて訪問し、その訪問が終わった後に家族も行方不明となった。捜索願が出ることなく月曜日を迎えて、家族と連絡が取れないことを知ったため、丸開(まるひら)教頭と猫平田(ねこひらた)校長に相談をして、警察へ通報した。葛飾区(かつしかく)堀切綾瀬(ほりきりあやせ)警察署より、関屋(せきや)巡査と青戸(あおと)警部補が訪問。怪事件として、特殊条件付きで大規模な人海戦術で邪神に関する情報や被害生徒について、聞き込み捜査を実施。

 綾瀬川(あやせがわ)神社の権禰宜(ごんねぎ)樋渡(ひわたり) 直太(なおた)斑鳩川(いかるがわ) (ひょう)については説明しなかった。

「現在、宮岸さんの同胞が、現場付近を囲うように結界を張っています。警察としては、早期の事件鎮圧のため、特殊部隊を投入しています。あとは猫平田校長の了承をもって、活動を始めます」

 ここまで説明したのは、校舎を攻撃する上で校長の了承を得るためだった。いつの間にか、会議室にはSATの高城(たかしろ)中隊長が立っていた。

「これより邪神の体力を削ぐことを目的とした攻撃を開始します。邪神は校舎を覆っており、第一段階として校舎から引き剥がす必要があります。了承頂けますか?」

「生徒たちはどうなるんだ!?」

 猫平田校長は、攻撃について人命に関する話が一切されないことに違和感を抱いている。高城中隊長は黙っており、悠夏や鐃警、榊原警部も黙っている。

 喰われた人はどうなるのか。それは誰も分かっていないのだ。樋渡の話だと、昔同じようなことが発生した際、帰ってこなかった人もいたと言っていた。全員が無事に帰ってくる保証はない。

 丸開(まるひら)教頭は黙り込んだ警察に怒り

「なんで黙るんですか!? それはつまり、攻撃にはリスクがあるってことじゃないんですか!? ちゃんと説明する責任があるはずですよね」

 重い空気が漂うなか、悠夏の携帯が鳴り始めた。電話のようだ。静かな会議室に着信音が鳴り響く。

「どうぞ出てください」

 宮岸教諭に言われ、悠夏は「すみません」と謝り少し離れて電話に出る。相手は……

「もしもし、やっと繋がった……。倉知(くらち)さんから直接電話するように言われまして。ようやく分かりましたよ」

「何が……ですか?」

「邪神について、ですよ」

 埼玉県警高速道路交通警察隊所属の与野(よの)巡査長からだった。元埼玉県警捜査一課所属であり、自分の管轄外の捜査を行う人だ。2月の事件では、高速道路交通警察隊所属ながら捜査一課の仕事をしていた。おそらく今回も……

「綾瀬川神社の元権禰宜で、5年前に癌でお亡くなりになった笠鷺(かささぎ) 義徳(よしのり)さん。そのお孫さん、笠鷺 (しず)さん。女子中学生で、ご両親が亡くなってからは、秩父の施設で生活しており、実家は施設で管理していたそうです。笠鷺 義徳さんの名前だけで捜索するの大変でしたからね」

 悠夏は、樋渡から聞いた元権禰宜の名前を倉知副総監に報告し、孫について捜査を依頼したところ、全国の各警察署に依頼して捜査していたようだ。警視庁副総監直々の指示だった。

 孫が祖父の話を何処まで聞いていて、どこまで覚えているか分からない。今中学生ということは、5年以上前は小学生だ。

「笠鷺 静さんから話も聞けますが、義徳さんの部屋からそれっぽい書物も出ているので、そちらは写真をメールでお送りします。取り敢えず表紙を並べて撮った写真と、1冊目の写真を送りましたので」

「すみません、それを今から言うメールアドレスにも送っていただけないですか?」

 悠夏は藍川巡査のメールアドレスを口頭で伝えた。警視庁のメールアドレスなら、名前とドメインの組み合わせなので確認しなくても分かる。

「今、送りました」

「ありがとうございます」

 藍川巡査に送れば、一緒に行動している樋渡と斑鳩川も確認ができる。悠夏も写真を確認するために、タブレットを取り出してメールを開く。

 冊子が7つ。いずれも手書きであり、達筆である。早い話が読めない。

「それぞれ何が書かれてるんですか?」

「それが分かれば全部写真で送らない」

 与野巡査長も読めないようだ。おそらく、その場には与野巡査長1人ではなく、複数人いると思われるが。

「静さんにも確認してもらっているので、分かれば連絡します。見れば思い出すかもと言ってますし……」

「見れば思い出す?」

「義徳さんから直接話を聞いたことがあるそうです。ページを見ながら読み聞かせのような感じですかね」

 悠夏が与野巡査長と電話中で、藍川巡査からの電話が榊原警部にかかってきた。

「藍川です。佐倉巡査の指示で、与野さんからのメールが届いたのですが、多分深紅(しんく)の表紙だと思いますと伝えてください。メールを返信しましたが、念のため」

 表紙の文字を推測で読んだのは、樋渡ではなく飃だった。樋渡は癖が強くて読むのに時間がかかりますと答えたが、飃はそれっぽい一部の文字から全体を推測で読んだらしい。樋渡は、1文字目から全て読もうとしていたため、飃の方が早かった。

「伝えておく」

 榊原警部は電話を切り、スマホのメモアプリに文字を起こして、悠夏にその画面を見せた。”藍川から連絡があった。真紅の表紙と思われる”。悠夏は「ありがとうございます」とマイク部分を抑えて言い、すぐに与野巡査長に伝える。

真紅(しんく)の表紙を確認してください」

「赤いやつか? "シンク"ってどっちだ。赤いの2つあるぞ」

 濃い紅色と暗い赤色がある。真紅(=深紅)と茜色だ。

「濃い方でいいよな?」

 与野巡査長は冊子を手に取り、静に確認をお願いしているようだ。電話越しで聞こえる。

 静がページをパラパラと捲り、「これ! 間違いない」という声が聞こえた。

「あったぞ」


To be continued…


ここまで来て今更高校名を決めても遅いよなと思い、決めてないです。

権禰宜から邪神という表現で封印方法を共有した結果、それを境に、怪物や妖怪と言った表現が邪神に統一されました。人によっては、まだ怪物や妖怪と言っている人もいるようですが。そもそも邪神という表現もかなり曖昧です。

千弦がようやく八太郎と帆菜の破局を知ったことで、さらに八太郎が一連の原因であると言われ、気まずそうです。

与野巡査長は2月の事件(17~21話)以来の登場ですね。91話ではちらっと名前だけ出ましたけど。そんなに前の話数なんだ……


2021/11/20 追記。

「それを知らず翌日、千弦から告白に成功した話をした」を「前日のことなど露知らず、千弦はことみに告白することを話した」に訂正しました。告白に成功したのはその後でしたね。

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