第135話 交わる捜査(後編)
斑鳩川 飃は、綾瀬川神社の権禰宜である樋渡 直太とともに、荒らされたという分社を訪れていた。分社といっても、道端の小さな祠である。すぐ近くには公園があり、滑り台や砂場で遊ぶ子ども達もいれば、ボール遊びをしている子どももいる。
「公園から近いからとは言い切れないですが、この立地はそもそもリスクが極めて高いですよ?」
飃はスマホを取り出して、周囲の写真を撮る。
「おっしゃる通りです。計画を先延ばしにしただけで、今回の件は荒らした犯人が故意であろうと偶発であったにせよ、綾瀬川神社の境内で移動させなかった身内の責任でもあります。……起きてしまったからには、今はどれだけ迅速に被害を最小限にして抑えるかどうか……」
「樋渡さん、相手の行動範囲はどこまでか分かりますか?」
「どれほど蓄えるかで、エネルギーが変わると考えられます。封印を解いてどれほど時間が経ったか分かりませんが、葛飾区と足立区の範囲はあるかと……」
「出現場所の傾向は……、やはり封印を解いた本人に関する場所ですか?」
「おそらく、としか言えないのですが……」
2人が話していると、警察と思われる人から声をかけられた。職質かと思ったが、飃の知っている人物だった。
「すみません。警視庁特課の佐倉です。斑鳩川君だよね?」
「お久しぶりです。弟が何度かお世話になっているようで。いや、警察にお世話になるという表現は、別の意味で捉えられそうですね……」
「柊哉くんは捜査協力として、頼もしい限りですよ」
「ひとつ確認したいことがあるのですが、お時間良いですか?」
飃は、今回の被害に関連する情報を警察が握っていないか確認するため
「実は、今ある事件を調べていまして。ここ最近で葛飾区や足立区で行方不明者が増えているようなことはありませんか?」
すると、悠夏は「えっ」と驚いた。飃の求めている情報を持っていそうだ。
「あるんですね。情報交換もしくは、共有しませんか?」
飃の提案に、悠夏は口を噤む。あまり捜査に関する情報漏洩をしたくないが、今は一刻を争っている。もしかすると双方が同じ事件を追っているかもしれない。
「ところで、そちらの方は?」
「私でしょうか? 綾瀬川神社の権禰宜、樋渡 直太と申します。斑鳩川探偵へ捜査依頼を」
樋渡が手短に自己紹介をし、飃は指差さずに視線で祠を示して
「そこにある祠が何者かに荒らされ、このままだと行方不明者が増えるおそれがあります。被害を抑えるためには、荒らした本人を探す必要があり、本人の周囲、関係する人物が次々と失踪するかもしれない。フィクションのように聞こえるかもしれないが、過去にも起こっている事象であり、もし失踪者がこの近辺で増えているのなら、その情報を確認したく」
「……その怪物を封じる方法をご存じって事でしょうか?」
樋渡は頷いて「はい」と答えた。悠夏は「少し待ってください」と、言って同僚の警察官の方へと走る。
悠夏が榊原警部のもとへ戻ってきたため
「挨拶は済んだのか? 時間が無い、もう少しこの辺りを」
「榊原警部。彼らが事件の情報を持っている可能性があります」
「あの青年と神職の人が、か?」
「はい。あの祠に封じられていたモノが、最近解放され、失踪者が多発するおそれがあり、封印を解いた人物と関係者を探しているそうです」
「話を聞くには十分だな」
「ただ、こちらの捜査情報も開示しないと……」
「一刻を争うんだ。責任ならあとで考えて、今はいかに情報をかき集められるかが大事だろう。何かあれば、特課と一緒に責任を取る」
榊原警部は、悠夏と共に情報を持つという2人に接触する。さらに、それに気付いた鐃警も駆け寄る。
「警視庁捜査一課、榊原警部です」
「特課の鐃警です」
割り込むように鐃警も名乗り、神職ももう一度名乗る。
「綾瀬川神社の権禰宜、樋渡 直太と申します」
「私立探偵の斑鳩川 飃です。以前、お目にかかったかもしれませんが」
「残念ながら、こちらは覚えてないな。早速、本題に入りたい。その祠について詳しく話を聞きたいのだが?」
榊原警部が祠について聞くと、飃が祠の方へ歩きつつ説明し始めた。
「数日前、詳しい日時は不明ですが、誰かがこの祠の中にある、御神体を封印した瓶を割るという荒らし被害がありました。故意による犯行か、偶然跳ねた石ころやボールが祠の中に入り、瓶に直撃して割ったのか、どちらかは分かりません。分かっているのは、御神体の瓶が割れて、封印していたお札も外れ、邪神が外に出たということです」
事前情報なしでは、作り話だと思うだろう。いや、知っていても信じにくい話だ。
「神様では無く、邪神なのか?」
榊原警部は災いをもたらす神という意味で邪神と呼んだのか確認する意味で聞くと、樋渡が答える。
「その表現は間違いないかと。詳しく知っていた権禰宜から聞いた内容になりますが、祠には悪さをする悪霊、妖怪や怪物の類いが封じられていたそうです。その昔、悪霊により神隠しが多発し、帰ってこなかった人もいるそうです」
「神様なのか幽霊なのか、妖怪なのか、怪物なのか……。表記揺れで指摘されそうな……」
鐃警がそう呟くと、樋渡は
「名前も無ければ、その容姿は見る人によって変わるとも言われており、人によって呼ばれ方が変わるが故に、一般的な呼び名が存在しなません。よって、いずれも正しいかと」
「その悪霊についてですが、もう一度封印する方法や神隠しに遭った人を連れ戻す方法はあるんですか?」
悠夏の問いに答えたのは、飃だった。
「前回の事件が、50年以上前。戻ってきた人はいても、すでに他界しており、話を聞けたとしても孫の口からその話が出るかどうか……」
孫が祖父の話を何処まで聞いていて、どこまで覚えているだろうか。知らないと言われるのがオチだろう。
「樋渡さんが話を聞いたという権禰宜の方は?」
「権禰宜は5年ほど前に癌で……」
「そうでしたか……。お辛いことを思い出させてしまい、すみません」
そうなると、情報を持っている人物は限られてくる。葛飾区と足立区の警察署が合同で、人海戦術で探しても、なかなか情報を得られないはずだ。
さて、ここまでは話を聞いてばかりだったが、榊原警部からも現在の情報を出す。
「今、ある学校でクラスメイトや家族が失踪しており、すでに16人以上の被害が出ている。今も尚被害は拡大しており、20人近いかもしれない」
「もうすでにそんなにも被害が!?」
樋渡は驚愕しつつも、ある程度は見込んでいた人数かもしれない。榊原警部は時計を確認した後、
「このままだと、被害を食い止めることができず、警察としては、その邪神を止める術を探している。猶予はあまり残されていない。ヤツを止める方法があれば、教えて欲しい」
果たして、樋渡は情報を持っているのだろうか……
To be continued…
9月になり、今年も残り3分の1かと思うと早いものですね。
さて、隔週更新にしたため少し余裕は出来たのですが、まだストックは溜まりそうにありません。
しばらくは隔週更新のままで進めていこうと思います。
飃に関してですが、探偵業を営むという表現はありつつも本人から私立探偵と名乗ったのは初めてです。探偵業のみなのか副業なのかはまだ分かりませんが。
邪神にどう立ち向かうのか、出来ることがあまりないのでここからどう展開するのか、作者も分かりません。いつも通り、キャラクターにお任せ状態です。『路地裏の圏外』や『黒雲の剱』と違って、警察チームがバトルすることは出来ないだろうし、かと言って自衛隊やSITとかを出すには市街地だからなぁ。
着地地点は一体どうなるんでしょうでしょうね。
次で、この話は9話目ですかね。あと何話かかるかな




