第134話 交わる捜査(前編)
2019年7月22日。警視庁刑事部捜査一課のデスクに特課の2人が訪れると、藍川 桑栄巡査が気付き
「こちらに来るのは珍しいですね。ついに、捜査一課の自分に協力依頼ですか?」
「榊原警部はどちらに?」
佐倉 悠夏は藍川巡査には触れず、榊原警部の居所を聞いた。
「自分は?」
藍川巡査が自分を指さしながら聞くも、またスルーして長谷 貞須惠警部補が答える。
「今、外に出ている。電話をすればすぐに協力できると思うが……」
「ちなみに、どちらに?」
「日暮里の方だな」
「それなら現地で落ち合った方が良さそうですね」
「本人にはこちらで連絡するが、待ち合わせはどこがいい?」
「では、葛飾区の綾瀬水門で」
*
午後2時20分。東京都葛飾区、綾瀬川と荒川を結ぶ綾瀬水門。近くには上りと下りで二層構造の首都高中央環状線C2があり、多数の車が走っている。丁度、首都高速6号三郷線と分岐する小菅JCTと、向島線と分岐する堀切JCTの間で、行き先によって車線変更が大変なところでもある。2車線同士で合流するところを、1車線は小菅出口となり、3車線で捌いていたため、渋滞が発生しやすかった。しかし、昨年2月に同区間の4車線化工事を終え、渋滞発生の頻度は下がったらしい。しかし、初見だと迷いそうだ。いや、そもそも首都高に限らず、高速道路のJCTは迷うことが多いかもしれない。
綾瀬水門付近の土手は、サイクリングやランニングをしている人が多い。
「そろそろお集まりですかね?」
堀切綾瀬警察署の青戸警部補は、時間を確認する。集まったのは、警視庁刑事部捜査一課の榊原警部と藍川巡査、同じく警視庁特課の悠夏と鐃警。
「本件は、人海戦術である程度情報をかき集めていますが、学校側で被害が急速に拡大しており、こちらで把握しているだけでも少なくとも被害者は16人を超えており、事態は一刻を争います」
「16人もですか!?」
今朝の情報では8人だった。このまま被害が拡大すれば、世間にも知れ渡り、手が付けられなくなる。
「すでに文科省へ報告していており、警察で対処できるうちになんとかしないといけない状況です……」
青砥警部補によると、堀切綾瀬警察署は警視庁へ応援要請を依頼すると同時に、文部科学省へも報告したそうだ。状況によっては、国が対処せねばならない相手になる。もしかすれば、石川県五月雨村の五月雨島であった事件のように、特殊部隊のSATやSIT、自衛隊を派遣し対処することもあり得る。さらにマスコミへは報道規制を実施し、事件情報の流出を抑えている。
ただし、今回は離島ではなく東京という日本の首都のど真ん中だ。大事になれば、報道規制も意味をなさず、葛飾区だけでも人口は約44万人。日中は、仕事で近隣の県から通勤する人も多く、葛飾区の昼間人口は80万人を超える。騒動になれば、今の時代SNSで爆発的に拡散され、本当の情報だけでなく、デマにも踊らされ大混乱に陥るだろう。
「我々、堀切綾瀬警察署としては日没が限界と踏んでいます」
悠夏はスマホで日没時間を調べ、
「日没って、あと4時間ぐらいですよ」
日没は18時53分頃。およそ4時間半だろうか。
「相手は教室に居座っていますが、いつまで捜査ができるか……。相手は、自分に関わろうとする者を狙っており、封じる方法を探す必要があります」
「封印の方法を探れば良いんですよね。言うのは簡単ですけど」
鐃警は目的をハッキリとさせるが、難しいことだろう。しかし、それをなさねばならず、短時間でできることとして人海戦術で情報収集を行っている。
「それで、我々としては、どの捜査を重点的に?」
「お願いしたいのは、最初の被害者である2人が帰宅するルートを重点的に捜査していただきたく」
「直近の帰宅ルートの詳細は?」
榊原警部が情報を確認すると、悠夏がタブレットを出し
「資料でいただいてます。男子高校生は、ここから堀切橋を渡って、堀切駅から乗車して普段は帰るとのことですが、7月18日と19日、改札を抜けずに徒歩で帰宅しています」
「徒歩で?」
藍川巡査が驚くように反応すると、青砥警部補は手帳を開いて情報を確認し
「被害男子は、同じ高校の先輩女子と破局し、精神的に落ち込んでいたらしく、電車を使わずに歩いて帰ったことが考えられます。さらに、友人が被害女子に告白するということを聞いて、さらに傷心したのではないかと」
「自分は振られて、友人の告白を応援したいけれど……。確かに、難しいですね」
被害に遭った男子生徒の井村 八太郎と、女子生徒の北澤 ことみ。特課と捜査一課の4名は、2人の足取りをもとに聞き込み捜査を行うことに。
堀切橋を渡り、足立区へ。堀切駅で駅員に確認するが、1日に何千人と乗降する駅で、生徒1人を覚えているはずも無く、空振りだった。
二手に分かれることにして、藍川巡査と鐃警は、ことみの足取りをもとに捜査へ。悠夏と榊原警部は八太郎の足取りをもとに捜査へ。
堀切駅から狭い路地を選んで南方向へ歩く。路地裏は人通りが少ないどころか、誰とも出会わない。周囲を見渡しながら歩くと、公園に出た。
「あれ? 公園にいる人って……」
悠夏は見覚えのある人物を見つけた。榊原警部は誰か分からず
「知り合いか?」
「京都で会ったことがあるんですが、柊哉君の兄、斑鳩川 飃さんです」
To be continued…
[2021/08/19追記]
ストックが尽きて、毎週更新が間に合わない状況のため、週間更新をやめて、隔週ないしは何週間かおきの更新で進めようと思います。8/19分の更新では、135話は更新せずに先週中途半端な形だった134話を更新し、135話は1週あけて9/2の更新目標で考えています。
更新頻度はしばらく落ちますが、ストックに余裕が出てくれば、週間更新に戻すつもりです。




