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第132話 クラスメイトの消失

 2019年7月22日、月曜日。葛飾区(かつしかく)堀切綾瀬(ほりきりあやせ)警察署の第三会議室。北浜風(きたはまかぜ)警視監は、高砂(たかさご)鑑識からの報告を受けていた。

「7月18日と19日、被害生徒は堀切駅を利用せずに徒歩で帰宅していました。堀切駅の改札前を映したカメラの写真ですが、被害生徒は改札の手前で引き返して、電車を利用していなかったようです」

「もう1人の被害生徒は?」

「はい。女性生徒は20日の土曜、同じクラスの男子生徒と八景島(はっけいじま)テーマパークで遊んでおり、八景島のスタッフから目撃証言もあり、一課で確認済みです」

 被害に遭った男子生徒の井村(いむら) 八太郎(やたろう)と、女子生徒の北澤(きたざわ) ことみの足取りについて、定期ICカードから少しずつ明らかになっていた。

宮岸(みやぎし)教諭からの情報では、昨日、被害生徒の両親からそれぞれ相談を受け、井村家と北澤家を訪れており、そのときはまだ家族もいましたが、宮岸教諭の訪問後に行方不明となっています」

「被疑者が行動を起こしたのは、土曜日以降の可能性が高いということか」

「被害生徒のクラスメイトである(すばる) 千弦(ちづる)が、土日に連絡をしており、日曜日のバイト前後において、どちらの生徒からも返事があったとのことです」

 千弦はバイト前に、ことみと昨日の写真を送り合い、バイトの休憩中に八太郎へ告白が成功したことを連絡していた。

「男子生徒は、木曜日に2つ学年が上の女子と破局していたそうです。青砥(あおと)警部補の考えでは、電車を使わずに歩いて帰ったのは、それがショックだったのではないかと。どこかに寄ったようなこともなく、コンビニのカメラでは俯いて歩いていた姿が見受けられました。また、被害女子生徒は土曜日に恋人になったばかりで、捜査一課の考えでは恋路の邪魔をしているのではないかという臆測も出ていますが……」

「恋路なら、クラスメイトの千弦という子も狙われている可能性もあるが……」

 捜査は順調に進んでいたが、被疑者に関する情報はなかなか掴めずにいた。そんな中、昼過ぎに学校から連絡が入る。生徒が次々と消えていく、と。


    *


 同日、午後1時。警視庁特課(とくか)倉知(くらち)副総監が扉を開けると、ロボットで警部の鐃警(どらけい)が険しい顔をしていた。険しい顔と言っても、ロボットなので人間のような豊かな表情ではなく、そんな雰囲気を感じ取った。

「取り込み中のところ、申し訳ないが」

 女性巡査の佐倉(さくら) 悠夏(ゆうか)は、報告書作成の作業を止め、

「倉知副総監、お疲れさまです。警部は今朝から、あんな感じなので……」

「何かあったのか?」

「何かあったと言えばありましたが、なかったと言えばなかったですね……」

 悠夏の表現では何も伝わらず、倉知副総監は時間をかけず、改めて聞く。

「何かあった……ってことでいいんだな?」

「今朝の占いが悪かっただけです」

 鐃警は機嫌悪るそうに答えた。どうやら今朝のワイドショーの占いが良くなかったようだ。

「占い? 選んだ何かが最下位だったか?」

 そこまで深掘りするつもりはないが、雑談程度に触れつつ、倉知副総監は資料ファイルを開く。悠夏は鐃警の占い結果について簡潔に

「双子座が最下位で、水難らしく、夕方が雨予報の今日は外に出られないとか」

 占いの善し悪しでその日の仕事を放り出されては困る。一応、デスクワークでやることはあるが、捜査に行かないつもりだろうか。叱るまではいかずとも、勤務態度について注意するだろうと思っていたが、倉知副総監の反応は予想外だった。

「もしかして、誕生日……分かったのか?」

「誕生日? 忘れるわけ無いですよ。自分は6月7日ですよ」

 鐃警がさらりと答えると、倉知副総監は黙って考え込むように。鐃警は自分の不運をアピールして、倉知副総監が黙り込んだことに触れなかったが、悠夏は気になった。

 鐃警は自分が元人間であり、人間の時については記憶喪失である。倉知副総監が鐃警の誕生日を知ったのは初めてのようだ。そう言えば、平日は朝ドラを見つつ、今日と同じワイドショーの占いもなんとなく見ていたが、鐃警がリアクションしたのは今日が初めてだ。直近で、双子座が1位の日もあったが無反応だった。

 もし誕生日が、前世(前世という表現が合っているかは分からないが)人間のときの誕生日と同一ならば、失踪や行方不明の人物からかなり絞り出せるかもしれない。もしくは、誕生日が鐃警として目覚めた日ならば、その日より前に失踪や行方不明になった人物だろうか。前者ならば、生年月日で絞り込んで総当たりすれば何か分かるかもしれない。ただ、後者だと何年か分からず日付が漠然としており、絞り込むのは困難だ。

 一先ず、誕生日が同一の場合で捜査するのが良さそうだが……。

 悠夏と倉知副総監がそれぞれ考え込んでいるが、まさか自分のことについて考えているとは露知らず、鐃警は倉知副総監が持っている資料ファイルを見て

「それで、倉知副総監の用件は?」

「あぁ、そうだ。現在進行中の事件なんだが……、どうやら怪事件の一種らしく、警視庁に応援要請が届いた」

 資料ファイルには、葛飾区堀切綾瀬警察署と書かれており、極秘の判子が捺されており、表題は”怪奇現象による連続失踪事件”となっていた。

 資料ファイルを悠夏が受け取ると、倉知副総監が簡単に事件について説明する。

綾瀬川(あやせがわ)高等学校の生徒を中心とし、現在少なくとも8人以上が行方不明。被疑者と思しき怪物が教室に居座っており、生徒が次々、忽然(こつぜん)と消えている。担当の捜査本部は、怪物に関する情報を被害者中心に、虱潰(しらみつぶ)しの人海戦術を使っているが、とにかく時間が無いそうだ」

 資料ファイルには、被害生徒2名について、先週からの行動記録が抜けがありつつも記されていた。

「生徒が被害に遭ったのは、日曜日。担任教諭が目撃していた、と」

 悠夏は資料ファイルを(めく)る。倉知副総監は、特課の両名に今回の事件の注意点として

「今回の事件だが、被疑者は人間では無いし、何度も被害に遭いつつも、警察に通報すべく戦った担任教諭も人間ではないそうだ」

「人間じゃない相手に、どう戦うんですか?」

 鐃警が当然の疑問を聞くと

「警察に任されているのは、怪物の出現原因を探り、相手を弱体化や無効化、もしくは封印など、対策方法の捜査だ」

「そこだけ聞くとデバフのようで、まるでゲームの世界ですね……」

 悠夏は資料ファイルを見ながら、そう例えた。デバフとは、ロールプレイングゲームなどにおいて、キャラクターの能力を下げる効果を意味する。なお、能力を上げる場合は、バフと表現される。それぞれ役割分担されたキャラクターは、バッファーとかデバッファーとも。デバフは造語であり、諸説あるがバフはその昔ユーザー間で使用されていた言葉らしい。

 未知の怪物に対して、特課も捜査に加わるのであった……


To be continued…


前回の第131話は、2021年7月28日に加筆しました。

そして、こちらも間に合わないですね……

後半については後日、追記改訂します。やっと特課が登場ですかね。


[2021/08/05追記]

特課登場から追記しました。

鐃警について、少し情報が明らかになりました。さて、ここから事件へどのように関わっていくのでしょうか……。次の話は今から書くので、まだ分かりません。

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