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第130話 教室の異変

 2019年7月22日、月曜日。夏休みまで残り僅かの授業。教室で朝礼の時間を待っていると、空席が2つ。

 高校1年2組担任の女性教諭、宮岸(みやぎし)先生が教室に入り、教室が静かになる。空席の2つを見るが、特に説明せずに連絡事項を伝える。

「今週末から夏休みになりますが、勉強や遊びは両立して、事故なく過ごすこと。もうあなた方は高校生です。これから、補習授業の日程表を配ります。先日の告知から、一部の授業が入れ替わってますので、再度目を通してください」

 夏休みといいながら、最初と最後の1~2週間は補習授業があり、結局休みではない。

 それよりも(すばる) 千弦(ちづる)は、2人が欠席していることの方が気になった。1人は、親友の井村(いむら) 八太郎(やたろう)。もう1人は、土曜日に告白して恋人関係になったばかりの北澤(きたざわ) ことみである。朝礼前に、スマホのコミュニケーションアプリの”トーカー・メッセージ”で、「今日は休み?」と聞くメッセージをそれぞれに送ったが、既読は付かない。

「今日の1時限目ですが、先生の都合で申し訳ないけれど、自習になります。プリントを配るので、1時限目は、プリントの問題を解いて、早く出来た人は他の授業の課題や自主学習を行ってください」


    *


 午前の4限が終わり、昼休みになった。八太郎とことみからメッセージは来ないし、既読も付かない。1人寂しく、お弁当を食べていると、ことみの親友、仲保(なかぼ) 陽葵(ひまり)が声をかけてきた。

「昴くん、ことみちゃんって今日は風邪?」

「俺に聞くの?」

「昴くんなら知ってそうだと思ったから。メッセージを送っても既読すら付かなくて」

「仲保さんも?」

「えっ、昴くんからも返事が無いの?」

「うん。寝込んでいて返事ができないのかもしれないけど……」

「わかった。ありがと」

 それで陽葵が立ち去るかと思ったが、

「それで、ことみちゃんに告白したって本当?」

 唐突に聞かれ、千弦は咳き込み、噎せる。水筒のお茶をすぐに飲んで

「え? ……なんで知ってるの?」

「マジ?」

 気付いたときには、もう遅い。どうやら、陽葵の罠に引っ掛かったようだ。確証もなく、聞いてきたみたいだ。

「詳しく聞かせて」

「嫌ですよ。そんなの……」

「照れてる。可愛い」

 陽葵が笑うと、他の女子が集まりだして「陽葵、どうしたの?」と聞かれて、

「昴くん、ついにことみちゃんに告白したらしいよ」

 と言って、本人そっちのけで女子同士が盛り上がる。何人からも詳しい話を聞かれるが、ノーコメントを貫いた。隙を見て、席を立ち教室から逃亡すると、最初は追いかけてこようとした素振りはあったが、玄関まで行くと誰もついてこなかった。

 今から教室には戻りづらく、玄関から屋上へと移動して、昼休みが終わる頃まで時間を潰した。教室に戻ると、チャイムが鳴ったが、先程声をかけてきた陽葵の姿がない。さらに、陽葵の声を聞いて集団で絡んできた1人、堀辺(ほりべ) (とばり)の姿もない。

 教室に空席が4つ。宮岸先生が教室に入り、空席を見ても、何も言わなかった。不審に思った岩室(いわむろ) 真琴弍(まことに)が、

「先生、なんで何も言わないの?」

 宮岸先生は、黙ったまま真琴弍の方を見る。

「体調不良ならまだしも、数分前まで駄弁っていた女子2人がいないのは、おかしいだろ」

 流石にここまで言われると、先生という立場から説明が必要となるだろう。宮岸先生は

「早退しました。では、授業を始めます」

 宮岸先生は教科書を開くが、真琴弍は遮るように

「宮岸先生、その説明で俺たちが納得すると思うんですか?」

 宮岸先生は手を止めて、真琴弍の方を見る。真琴弍は

「目撃者がいるのに、か?」

 核心を突くような発言をしても、宮岸先生は黙ったままだ。真琴弍は納得がいかず、

「目の前で消えたって、言って」

 そこで急に声が途切れ、教室に沈黙が訪れた。クラスの全員が真琴弍の席を見る。そこにいたはずの真琴弍がいない。宮岸先生は、手に持っていた教科書で教卓をトントン叩き、音を立てる。クラスの何人かが音に気付いて宮岸先生の方を見る。

「教科書を開いてください」

 と、首をゆっくりと横に振りながら、教科書を叩く。さらに、口元に人差し指を近づけ、

「教科書の122ページ。15行目」

 授業で扱ったことの無いページと行数を指定し、

「あなたたちは、もう高校生です。勉強は静かにできるはずです」

 指定されたページは、コラムのような授業では触れないプラスアルファの問題が書かれており、その中の1つだった。”問7。虎尾春氷(こびしゅんぴょう)の意味と例文を示せ。”

 意味は、虎の尾や春の薄氷を踏むような非常に危険な状態を例えている。意味が分からなくても、調べれば出てくるであろう。わざと口にせずに意味深な状況に、クラスの何人が察しただろうか。

 中には、パニックになるような人もおり、特に真琴弍の真後ろだった女子、庄盛(しょうもり) (あざみ)は息が乱れ

「やだ……消えたくな」

 言葉が途切れ、すぐにクラス全員の視線が薊の方へ。真琴弍と同じく、空席になっている。

 あり得ないことが起こっている。これは夢だろうか。悲鳴を上げる女子がいれば、また1人消えていく。異変という騒ぎどころではない。分かったこととしては、それ(・・)に触れてはいけない。触れることで、忽ちここから消えてしまう。消えた後はどうなるのだろうか。それと気になるのは、八太郎とことみも同じように姿を消して、今朝から……、いやもっと前、昨夜から音信不通なのだろうか。


 放課後まで、さらに2人が消えた。早退する人や保健室など、教室から逃げる人もいた。もしかすると、もっと多くの人が消えているのかもしれない。

 千弦は異質な教室を見渡すが、いつも一緒に帰るはずの八太郎やことみはいない。部活は休みの日だったが、すぐには帰らず、何かを知っていそうな宮岸先生の後を追うことを考えた。

 宮岸先生は教室から職員室へと歩いていたが、途中で足を止め、理科準備室へと入っていく。理科は担当ではないはずだ。

 千弦はそっと扉の隙間から中を(のぞ)く。ダンボールが積み重なった奥に、宮岸先生がいる。だが、よく見てみると尻尾が見える。見間違いかと目を擦って、もう一回見るとケモノのような耳が見える。


 宮岸先生は、人間では無かった。


To be continued…


ストックがまた危うくなりつつも、更新継続中です。

特課の登場は、次回あるかどうか。何だかんだもう少し先になりそうな気も。


もともと『路地裏の圏外』でやろうとしていたのは、富都枝(ふつえ)学園附属小学校のクラスで螢とシェイ以外のクラスメイトが消え、シェイが魔法を使わざるを得ない状況に陥り、螢が魔法の存在を知る展開を考えていました。

で、今回の場合は、魔法がないのでどう対応していくかですね。

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