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第129話 告白と別れ話

 2019年7月20日、土曜日。神奈川県横浜市金沢区八景島。高校1年生の(すばる) 千弦(ちづる)北澤(きたざわ) ことみは、2人だけの時間を楽しんでいた。傍から見れば若い男女カップルのデートだが、まだ友達としての関係だった。千弦は、今日の最後に告白しようと考えていた。

 八景島テーマパークで、ジェットコースターに乗り、八景島タワーから周囲を眺める。八景島タワーは、展望台の部分が回転しながら上昇するエレベーターのようなもので、その場にいながら360度の風景を眺めることが出来る。最高点の地上90mから天気が良ければ富士山が見えるらしいが、この日は雲に隠れていた。

 レストランでお昼を食べて、2人は八景島水族館を訪れた。

イルカやペンギンなどの海の動物たちが活躍するショーを見たり、ドームスクリーンでシアターショーを見たり、楽しい1日だった。

 夕暮れ前に、八景島の近くにある海の公園で砂浜を歩く。方角的に海に沈む夕日は見られないが、海面がキラキラと光る。

「今日は、ありがとう。何か元気が出た」

 ことみは、部活動で実力が上がらず、悩んでいたそうだ。千弦から、気晴らしにどこかへ行くのもいいかもと提案した結果、自然と2人でどこかへ行く話になり、八景島へ遊びに来たのだった。

「また来週から、部活頑張れるかも」

「元気になってもらえて、良かった」

「昴くんと一緒にいて、今日はとっても楽しかったよ」

 千弦はそれを聞いて、告白するなら今だと思い

「あの……北澤さん」

「なに?」

「好きです。付き合ってください」

 千弦のストレートな告白に、ことみは両手を口元に近づけ「えっ」と驚く。恥ずかしそうにしながらも、告白して赤くなっている千弦を見て自分よりも可愛いと思い、自然と頬が緩む。一呼吸して、

「こちらこそ」

 斯くして、2人は無事に付き合うことになった。次のデートの予定を早速話す。

「明日は、バイトなんだよね?」

「うん。北澤さんは?」

「ことみでいいよ。私も千弦くんって呼んでもいい?」

 千弦は頷き、2人とも初々しさ全開である。

「来週末から夏休みだけど、どこかに行く?」

「ことみがいいなら、花火大会は?」

「そっか。隅田川の」

 来週の27日には、隅田川花火大会がある。毎年7月の最終土曜日に開催している花火大会で、東京二大花火大会の1つに数えられる。

 隅田川花火大会へ一緒に行く約束をして、電車で途中駅まで一緒に帰り、駅のホームでそれぞれ帰路についた。


    *


 翌日の7月21日、日曜日。この日は一日中雨が降っていた。コンビニのバイトをする千弦だが、この雨でお客はいつもより少ない。

「千弦くん。先に休憩入っていいよ」

「店長、ありがとうございます」

 千弦は、店長に言われてレジ前からバックヤードへ。椅子に座って、鞄からスマホを取り出す。コミュニケーションアプリの”トーカー・メッセージ”を起動し、メッセージを確認する。昨日、帰宅したあとにことみから送られてきた「今日はありがとう。これからよろしくね」のメッセージを見て、改めて恋人になったのだと実感する。

 告白したことを親友の井村(いむら) 八太郎(やたろう)に報告すると、”Good”を意味するスタンプが送られてきた。

 バックヤードの扉が開き、高校3年生の千住(せんじゅ)先輩が現れ

「お疲れさま。ん? どうした、そんなニヤついて?」

「えっ。そんなにニヤついてました?」

「ニヤついてたね。絶対」

 千弦は「えー」と自覚が無いらしく、千住は笑って

「やっぱ、お前可愛いところあんな」

「男に可愛いって言わないでくださいよ。それに、男から言われても……」

「なに? 俺が女の子だったら、可愛いって言われても印象が違うってことか? そりゃ、そうだよな」

 自分で聞いておきながら、自己解決し千弦の意見は聞かない。

「俺、まだ何も言ってないですよ」

「まぁ、なんとなく分かった。おめでとうな。売り上げ38位の赤飯弁当なら奢るぞ」

「間に合ってます」

「へぇー」

「なんですか? そんなに後輩虐めて楽しいですか?」

「さーて、楽しい楽しいバイトの時間だよー」

「話、逸らさないでください」

 千住は笑いながら、制服に着替え終わり店長に呼ばれて、「はい。今行きます」と返事する。名札を胸ポケットの部分に付けながら

「今から、千住じゃなくて百目鬼(どうめき)なので、よろしく後輩」

 コンビニバイトで、強い名字にするとクレームが減るという、本当かどうか分からない話がある。少なくとも、このコンビニでは店長以外は名札が偽名である。バイトの初日に、店長から「この強い名字の中から、君のここでのコードネームを選びなさい」と言われた。千弦はあまり考えず、京極(きょうごく)の名前を選んだ。千住は百目鬼として、バックヤードから出る前に

「そういや、聞きたいことがあるから、休憩終わったら、ドリンク補充に来て」

「……分かりました」

 千弦は何を聞かれるのか分からないが、分かりましたとだけ答えた。

 10分休憩を終えて、ドリンクの補充へ向かう。千住はダンボールを開けており、ペットボトル飲料を順番に補充を始めていた。千弦もダンボールを開けて、缶珈琲の補充をする。

 補充作業をしながら、千住は先程の冗談話のトーンではなく真面目なトーンで

「もし知っていたら、だけど……。昨日、永冶(ながい)が他校の男子とデートしてたんだが、あいつは知ってるのか?」

 永冶 帆菜(はんな)は、千住と同じクラスの女子であり、千弦の親友と付き合っている。二股ということだろうか。

 千弦は当然ながら知らず、首を横に振った。

「あいつから何も聞いてない?」

「聞いてないです」

「別れたって話も?」

「えっ?」

 思わず、補充する手が止まった。

「俺の友達から聞いた話だから、分からないけど、木曜に、一方的に別れの話をしたとか、されたとか。他校の男子と付き合うためかもしれないなって話で、知らない?」

「知らないですけど……、心当たりはあるような……」

 そういえば、金曜の八太郎は元気がなく、どこか上の空だった。振られた現実を受け入れられず、集中できていなかったのかも。

 その晩、本人にズバリ聞く気にはなれず、月曜日に学校でそれとなく聞けないか考えて、この日はメッセージを送らなかった。

 ことみには、明日の部活頑張ってねとメッセージを送ったが、既読は付かずに、もう寝たのかなと考えた。


To be continued…


隅田川花火大会はどこかで扱おうとボンヤリとは考えていますが、まだ詳細は未定です。季節イベントはちょこちょこやりたいなと。

コンビニバイトの強い名字は、クレーム削減に効果があるとかないとか。


2021/11/20 追記。第128話に続き、こちらも名前間違えを修正しました。千弦が正しく、結弦と表記されてました。キーボードの位置的に、TキーとYキーが近いからってことにでもしておいてください……。

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