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第117話 真っ黒な配信(後編)

 現場へ向かう途中で、長谷(ながたに)警部補から送られてきた通報内容と捜査資料を見て、鐃警(どらけい)藍川(あいかわ)巡査に共有する。

「通報があったのは、青森県に住む風間浦(かざまうら) (さく)さんという男性から。”TubeLiving(チューブリビング)で配信者が事件に巻き込まれているかもしれない”という通報でした。配信者の名前は、ひなヒナちゃん。雑談配信を中心としたライバーとのことです。相手は”かよちゃん”と呼ばれる人物と思われ、先月の配信でも乱入して配信を中断させたそうです。しかし、当該の配信はその部分が削除されており、確認はできていません。今日の午後8時3分ごろから配信が始まり、真っ暗な画面のみで、非常に小さい音で、ノイズにかき消されつつも、話し声が聞こえたそうです。36分ごろに配信が自動的にBAN(バン)されて、閲覧はできない状態です」

 鐃警は配信のBANに関して、

「真っ暗な画面で、動きが無いから、自動検知に引っ掛かったってことですかね?」

 ロボットによる自動周回を行い、TubeLiving(チューブリビング)のガイドライン違反したと思われる配信があれば、自動的にBAN、つまり問答無用で配信停止となる。条件によっては、チャンネルやアカウントの停止までも行う。

「おそらく、そうだと思います。配信が強制終了したことで、アーカイブも残らないので、すぐにはネットで騒ぎにならないと思いますし、下手をすると犯人に配信のことを気付かれるので、どうなんでしょうか?」

 悠夏は自分の考えを話しつつ、捜査資料の続きを読む。

「通報者は、”自分の勘違いだと思いますが”という前置きをしつつ、もしかすると知ってる人かもしれないと、関係者の情報提供がありました。通報者の中学時代、クラスメイトだった、阿相(あそう) (ひいな)さんと木次(きじ) かよこさん。アカウントの所有者と一致するかどうかは、運営元へ確認中とのことです。身元についても」

 現場に到着すると、シャッターの閉まった旧店舗のような建物だった。

 藍川巡査が、シャッターの端っこに書かれた店舗名と電話番号を見て

「元自転車屋みたいですね。電話番号もあったみたいですけど、かなり文字が擦れて分からないですね……」

「一先ず、連絡が来るまで、この店に関して聞き込みをしますか……」

 鐃警は、周囲を見渡し、悠夏と藍川巡査に聞き込みに行く方面を指示した。一応、このメンバーでは役職的に一番偉いのが彼である。警部だから。


 店舗内の状況が分からないのは非常に不安だが、闇雲に突入するわけにはいかない。近辺の理髪店や喫茶店、呉服屋など、近辺の店舗を中心に聞き込みを行った。

「聞き込みの報告、収穫はありました?」

 鐃警が悠夏と藍川巡査に聞き、藍川巡査から報告する。

「どうやら5年前に閉店した自転車屋で、”多々岵(たたやま)サイクリング”という店舗名とのことです。多々岵さんが経営しており、閉店間際に入院して、1年間の闘病の末に、衰弱して亡くなったそうです。多々岵さんには孫娘がいたそうですが、名前は覚えていないと……」

「その孫娘ですが、理髪店の方が覚えていましたよ。名前は”かよこ”と言うそうです。多々岵さんの娘が結婚して、夫の仕事で青森に引っ越したそうです。秋川市(あきがわし)には、毎年ここの通りで行われる祭りの前後、帰省していたそうです。お店は閉めてますが、かよこさんが今も住んでいるそうです」

「なるほど……。青森県。住んでいる人物が、かよこ。通報者の予想が大当たりですかね?」

「警部。それと、長谷警部補から連絡があり、この件はすでに情報共有しました。まもなくこちらに情報と指示が出るかと……」

 悠夏が話していると、スマホに通知が届いた。資料が届いたようだ。悠夏はすぐに内容を確認して

「アカウントからも、被害者が阿相 雛さんと思われ、相手は、多々岵さんの孫娘である木次 かよこさん。この建物を所有しており、通りの防犯カメラから数時間前、2人が一緒に行動していたことも確認済みとのことです。突入に関しての指示は、秋川警察署の捜査員が別の現場から移動しており、まだ到着に時間がかかるそうです。そのため、我々でインターホンを押して本人が出てくれば、本人に了承を得て家の中に入るように、と」

「じゃあ、行きますか」

 と、藍川巡査がノータイムでインターホンを押した。鐃警と悠夏は焦ったが、もう後戻りは出来ない。呼吸を整えて返事を待つ。

「はい?」

 木次 かよこさんと思われる人物の声だろうか。返事があった。藍川巡査は

「すみません。近辺で少し事件があって、一軒一軒お伺いしているですが、少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「はい……?」

 困惑気味だが、どうやら応じるようだ。玄関から、若い女性が出てきた。

「何でしょうか?」

「お手数をおかけします。我々警察でして」

 と、藍川巡査は胸元の警察手帳の表紙だけを少し見せて、話を続ける。

「近くでひったくり事件があり、犯人が逃走中でして。逃げた方向がこちらの方角とのことで」

「はぁ」

「どこかに潜伏している可能性が考えられます。念のため、こちらのシャッターの中を確認できますか?」

「うちに入り込んでるって言いたいんですか?」

「いえいえ。念のためです。もし犯人がここに逃げ込んでいた場合、あなたに危害が及ぶことも考えられます。あまり拒否されるのも、よろしくはないのですが……」

「……わかりました」

「ちなみに、おひとりですか?」

「えぇ」

「あれ? 少し前に話し声が聞こえたんですが」

 藍川巡査の言葉で、木次が眉をひそめる。

「独り言です。テレビを付けていたので」

 すると、家の中からガタッと、何かが倒れるような大きな音がした。

「今の音は? 失礼。ひったくり犯が潜伏している恐れもあるので、安全な場所へ避難してください」

 藍川巡査は玄関の扉を開け、焦る木次の腕を悠夏が掴み

「危険ですので、こちらへ」

 と、避難誘導をする。しかし、木次はその手を振り払おうとする。しかし、振り払えない。すると、扉を開けた藍川巡査が中に入ることなく、奥の部屋で倒れた女性を発見。

「女性が倒れてますよ」

 藍川巡査は靴を脱いで、倒れた女性の元へ駆け寄る。すると、タオルで自由を奪われている。

「警察です。確認ですが、阿相 雛さんですか?」

「はい……、でもなんで?」

「あなた、配信してましたよね? それで警察に通報が」

「配信……?」

 阿相の反応から、配信しているつもりはなかったようだ。立ち上がって、自分の鞄の中を確認すると、

「あっ……。押したつもりはなかったんですが、いつの間にか配信開始を押してたみたいです……」

 阿相は意図して配信して助けを呼んだわけではなく、偶然鞄にしまう際にタップが反応して配信開始になったのだろう。それも、配信アプリが立ち上げっぱなしになっていたから。普段で起こっていれば、身元がばれる危険のある状況だった。しかし、今回はそれが功を奏して、警察による助けが来た。

 その後、被疑者の木次を取り調べたところ、「自分が売れてないのに、友人が人気者になり、一発殴りたかった」と、供述した。嫉妬による犯行だった。被害者の阿相にも話を聞いたところ、自由を奪ったが暴行はしておらず、被害届も出さないとのことで、示談となった。


To be continued…


執筆が進み、今月分のストックが出来上がりました。これで、他のことが出来る……。

一昔前に生配信を見ていた時期がありましたが、最近また生配信を見るようになり、ながら見で小説が書けないかなと試すも、集中できないですね。今回の話は普通の配信者として話を展開しましたが、そのうちバーチャルライバーも出てくるかもしれないですね。なんとなく事件の流れを考えていますが、もうちょっと寝かせて、別の話を次回から。次回はアフターストーリーです。これも2話に跨がる話です。

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