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第107話 犯罪の指示系統

 (しよう) 査代子(さよこ)は、自分の身に起きた一連の出来事を、賴永(よりなが) 兼鹿(けんしか)に順を追って話す。

「結婚して4ヶ月。私の家族を連れ去って、脅迫してきたのは、私の夫である宏一郎(こういちろう)さんでした」

 外部の人間では無く、身内から事件に巻き込まれたようだ。

「宏一郎さんは、”蛇菰(つちとりもち)”という組織に所属していて、最初からお金目的の結婚だったのかなって……。でも、疑いたくは……」

 恋人として暮らした日々。それをある日突然、裏切られた。今でも、彼女の言動から、彼に裏切られたと認めたくないように見えた。

「その”つちなんとか”ってのは?」

「詳しくは分かりません……。規模や人数も。言えることは、犯罪集団であることぐらい……。それも爆発物を扱えるぐらいの」

「君が指示を出していたが、君は誰の指示で? 宏一郎という男か?」

「巻き込まれてからは、宏一郎さんのことは見かけていません。最後に会ったのは、脅迫のあった日でした」


    *


 4ヶ月前。母親の誕生日で、実家に夫とともに帰省していた。買い物から帰ると、両親はおらず夫だけが残っていた。部屋が荒らされ、物色された形跡があった。査代子は体から段々と力が抜け、持っていたレジ袋が床へと落ちる。

「宏一郎さん……、何があったの!?」

「君の両親が攫われた」

 それを聞いた査代子は、膝から崩れ落ちる。呼吸が乱れ、胸を押さえる。吐き気や目眩に襲われそうだ。

 宏一郎は査代子のそばに近づき

「すまない。君も連れて行けと言われたんだ」

「えっ……?」

 宏一郎の言葉が理解できない。両親を誘拐されたことに関する心の整理もままならない状況下で、宏一郎の一言一言に置いて行かれる。宏一郎の声は暗いが

「さぁ、行こう」

 その差し伸べられた手は、何の?

「どこへ……?」

 辛うじて言葉に出来た疑問をぶつけると、宏一郎は

「このままだと、また奴らがやってきて、力尽くで君を連れて行くことになる。君にはそんなことは、できない」

 嫌だ。査代子は首をゆっくりと横に振る。どうして? 湧いてくるのは疑問ばかり。

 それからどのくらい経っただろうか。家に集団が押しかけ、査代子は抵抗する力も無く、まるで魂が抜けたかのように虚空を見つめて、攫われた。


    *


「目隠しされて……。目隠しを外されたあと、気付けば、どこかの屋内で、拘束されて……。目の前には、宏一郎さんがいた。それから、両親を助けたければ、指示通りに動くように言われて……。ターゲットは、賴永さんでした」

「つまり、指示を出しているのは、その宏一郎という男か。狙いはなんだ?」

「分かりません。指示しか情報は……」

 査代子は、宏一郎経由で得た指示以外、組織に関して何も分からないと言う。賴永は聞いた情報を整理して、

「組織の名前を知ったタイミングは?」

「最初の指示を受ける前、脅迫されたときに」

 それ以上聞いても、査代子から情報は持っていないだろう。賴永は、自分の考えをまとめ

「間違っているかもしれないけれど、自分の考えを言わせてくれ。おそらく犯人は、自分の目的を伝えず、複数人の指示を経て、末端に犯罪をさせようと目論んでるのではないかと」

 今の末端は、賴永である。宏一郎が組織の一員の場合、査代子は指示の中継でしかない。もし末端が警察逮捕されても、核となる部分に辿り着くまでは、時間がかかる。

「まるで蜥蜴(とかげ)の尻尾切りだな。その”蛇菰”という組織について、詳細が何も分からない以上、どうすることもできないか……。これも推測だが、指示系統が正しく稼働しているか、上は分からない。おそらく監視がいる」

 監視の存在について、今日の移動を思い出すと

「そういえば、黒部ダムからこのホテルまで、監視に尾行されてるかもしれないな。監視の存在まで考えてはなかったが、明日は周囲を警戒すべきだな」


    *


 警視庁地域部。以前は外勤部、警ら部などと呼ばれていたが、1993年に地域部に改称された。交番や駐在所など、一般的によく言われる”お巡りさん”が所属する部署である。そして、この部署には、もうひとつ大きな役割がある。それが通信指令である。

 通信指令本部、通信指令センター。110番通報を行うと最寄りの通信指令センターに繋がる。通報を受けとる受理台にはモニタがあり、通報者の電話番号や発信場所、通報履歴といった情報が表示される。

 新たに通報があり、受理台の1つを担当する新砂(しんすな)が出る。

「はい。110番警察です」

「捜査一課の長谷(ながたに)警部補に伝言願います」

 若い男の声だろうか。直接、名指しをしてきた。

「お名前をお願いします」

「明日、大阪へ向かうとだけお伝えください」

 電話口の若い男は、名乗らずにそう言った。モニタには、発信場所が表示されており、富山空港に近い場所だった。110番と地域番号を合わせることで、他地域への通報が行える。この通報は、わざわざここを指定して通報している。

 名前を再度確認しようとしたが、相手が電話を切った。新砂は、回線を開放せず、すぐにリダイアルを行う。しかし、相手は電源を切っており、繋がらない。

 新砂は通報内容をもとに、小笠原(おがさわら)室長へ報告する。

「小笠原室長。さきほど」

「こちらでも通報内容を聞いていた」

 小笠原室長のいる指令台は、必要に応じて任意の受理台の通話を同時に聴取および通話可能である。

「過去にリークがあった電話番号であったから、私から捜査一課へ情報を展開する。新砂は回線を開放して、業務に戻れ」


    *


 長谷警部補は、通信指令センターの小笠原室長から連絡を受け、駆け足で倉知副総監のもとへ。

 ノックして、返事を受けると同時に扉を開け

「先程、通信指令センターにリーク情報が」

「内容は?」

「どうやら目的は大阪とのことです」

「連中の狙いはサミットか? だが、解せないな。目的がまだ分からない」

「倉知副総監。サミットであれば、リークの際に大阪と言わずに、サミットと言うべきかと」

 長谷警部補は、サミット以外の可能性を考えているが、それだけでは分からない。あくまでも目的地が分かっただけのリークかもしれない。これまでのリークも、通報経由は短いものだった。


To be continued…


物語が大きく動くものの、全体像はまだ漠然としたまま。怪しい人物が1人増えました。

長谷警部補と倉知副総監がリーク情報をなぜ信じているかは、次回の説明になるかと。

この話、まだ終わりが見えないですね。思った以上に長くなりそうですね。今月終わりそうにないかも……

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