表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/295

第106話 事件の関係性

 黒部ダムで取引をしていたのは、賴永(よりなが) 兼鹿(けんしか)西方(にしかた) 早月(はやつき)だった。取引を終えたふたりは、それぞれ別れて観光客を装い、人だかりの中へ。特課のふたりは、賴永さんをマークして、小板橋(こいたばし)は西方をマークする。

 特課は、まだ西方 早月の妻が死亡したことを知らない。さらに、娘が賴永に指示していることは、捜査一課も特課、どちらも知らない。特課としては、両方の名前を知っているが、名字が異なるため、父と娘の関係には気付いていなかった。まだこのときは……。


 2019年6月22日、午後9時。富山県富山市にある富山きときと空港。2013年、富山空港の開港50周年と置県130年を迎える記念事業の1つとして、その前年となる2012年11月にその愛称が決まったそうだ。”きときと”とは、富山弁で新鮮という意味であり、空港の愛称に方言を採用したのは全国で初だった。また、全国で唯一ここだけが河川敷にある空港である。

 賴永さんは、自宅には帰らず、富山きときと空港の最寄りである富山蒼穹(そうきゅう)ホテルへと入っていった。チェックインを遠目から確認し、悠夏と鐃警はホテル側に宿泊客に関して訊いたが、お答えできないと拒否されてしまった。ホテルの対応としては、至極当然であるが。

 蒼穹ホテルから外に出て、鐃警と悠夏は、このあとについて考える。

「さて、警部。我々はどうしましょうか?」

「出入り口を見張るにしても、夜間は人が少なくて、目立ちそうですし、ホテル側からクレームが来ることも考えられます」

「斜向かいのホテルから見張りますか」

 全国展開する蒼穹ホテルの斜向かいにあるのは、同じく全国展開する渋浜(しぶはま)ホテル。空港に近いため、ホテルの名称は、渋浜ホテル富山空港となっていた。ロビーに入ると、黒部ダムで別れたはずの小板橋がおり、向こうもこちらに気付いた。

「あれ? お久しぶりです……」

「話は外で聞く」

 小板橋がふたりを外へ連れ出すと、

「ここに西方が宿泊している。で、そっちは?」

「賴永さんが、あっちに」

 みなまで言わずとも、小板橋は察した。富山蒼穹ホテルに、賴永が宿泊しており、渋浜ホテル富山空港に西方が宿泊している。明け方にでも合流して、飛行機でどこかへ向かうのだろうか。

 悠夏はタブレットを取り出して、飛行機のフライトを調べる。

「富山空港からは、東京と札幌が航行してます。あとは、台北やソウル、上海など」

「定期便以外、明日の臨時便は?」

 小板橋に臨時便の有無を問われ、悠夏は明日の日付を指定してフライト表を調べる。

「臨時便……。無いですね」

 フライトは定期便のみで、他に予定はなさそうだ。空港近くまで移動したことから、飛行機の使用を考えた。しかし、容易に足がつく。

 様々な可能性を考えつつ、待機場所を探す。2軒隣の個室居酒屋が開いているようだが、ホテルの出入り口の確認は難しい。他のホテルは、ここから離れたところにあり、先程の2軒に泊まるしかないだろう。その場合、相手に気付かれる危険もある。

 どうするか悩んでいると、悠夏のタブレットに通知が届いた。

「倉知副総監から、捜査資料に関する情報が来ました。サーバーに接続して確認してみます」

 悠夏はタブレットを操作して、捜査資料を閲覧する。

「河川敷で発生した爆発事件? 被害者は、西方 郁子(いくこ)さん」

「西方?」

 小板橋が名字に気付いて、悠夏のタブレットを覗き込む。

「早月さんの奥さんみたいですね」

「ということは……、西方の奥さんが東京で殺害された。一方、夫は賴永さんと黒部ダムで取引をしていた」

 小板橋はタブレットから離れて考え込むが、悠夏はさらに重要な情報を言う。

「被害者の娘が(しよう) 査代子(さよこ)さん。査代子さんって、バイクで賴永さんに受け渡しをしていた人ですかね?」

「1つの家族が、2つの事件に関与している。そういうことか。しかし、2つの事件が繋がらないな」

 登場人物の名前と関係性は分かったが、事件の関連は不明だ。強いて言うなら、鐃警が分かっていることではあるが敢えて

「関連性となれば、爆発ってところですか?」


    *


 富山蒼穹ホテルに宿泊した賴永は、フロントで渡された鍵を右手に持ち、601号室へ向かう。エレベーターで6階まで上がると、廊下に女が立っていた。その女は、エレベーターから降りた賴永に縋るようにして、泣き出した。

 賴永は困惑しつつ、今の状態を周りに見られる訳にもいかず、半ば強引に振り払うようにして、601号室へ向かう。解錠して扉を閉めようとすると、女が強引に入り込んできた。

 顔を上げると、涙でぐしょぐしょになっている。顔を見て、女がバイクに乗っていた人物であり、同時に電話口の女であることが分かった。査代子は、声を震わせ

「私の……母親が……」

 全てを言わずとも、状況を察した。捉えられていた母親が、亡くなったのだろう。彼女に指示を出す人物から聞いたのか、ネットニュースやテレビで知ったのかは分からないが。

「このままだと、私の父も……」

 かなりパニックになっているようだ。賴永は冷蔵庫の中を開き、有料の飲み物を取り出す。

「お茶でもジュースでも、飲んで落ち着け」

 ペットボトル飲料差し出して渡すと、査代子は呼吸を整える。躊躇無くキャップを開けて、飲んで自分を落ち着かせる。

 しばらくして、落ち着きを取り戻すと

「どうして……」

 それでも、自分から順序立てて話すことはできなさそうだ。賴永は、ポットで紅茶を淹れて話を聞くことにした。これまで上から指示をされていたが、もはやここまでくると放ってはおけない。

「順番に話してくれないか? 最初の日から」

「でも……」

 査代子は警戒するように部屋の周囲を見渡す。

「心配するな。部屋は変えてるし、盗聴の類いはないだろう」

「変えてる?」

「フロントで最初に渡されたのは、逆方向の622号室だった。そこからわざとごねて、無理矢理部屋を変えてもらった」

 2回変更すれば、仕掛けのある部屋を回避できるだろうと考えた結果だった。そもそも、全国展開するホテルのため、盗聴器などの仕掛けは設置が難しいと思われるが……。考えすぎかもしれないが。念には念を。部屋を変えたことは、早々に気付かれたかもしれない。それは仕方ない。

「あの日から、家族の生活が急変して……。それまでは、至って普通の、平和な毎日でした」

 鐘 査代子は、自分の家族と犯人との邂逅(かいこう)について、語り始めた。


To be continued…


今回、富山空港に関して調べて色々と知ったので、少しばかり本編にて説明してみました。ただ、物語に直接は関係はしないかと。

蒼穹ホテルと渋浜ホテルは、全国展開しているので、今後も登場するのかな。

犯人側の目的や指示系統、関係性といった不明確な部分について、次回から大きく動きそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ