第103話 小規模爆発
1/7の更新に間に合わなかった分、1/10に加筆しました。
賴永 兼鹿は言われた通りに港にいた。目の前で、電話口の女が話していたように爆発が起こった。煙が上がる。
電話口の女は、本気だと感じた。電話があったあの日にあってから、しばらく連絡は無かった。久しぶりに連絡があり、また場所と時間を指定されたと思えば……。
小規模の爆発は、賴永への脅迫だった。仕掛けたのは、電話口の女、鐘 査代子と思われる。この爆発で、負傷者が出たことは、翌日の新聞で知った。負傷者とは、菊佳和警部のことだが、このとき新聞に載っていたのは、性別とおおよその年齢だけで、名前や職業は調査中と書かれていた。そのため、賴永は警察の人が負傷したことを知らない。査代子も被害者が出たことは、想定の範囲内だったのだろうか。
新聞を読み終えると、まるでタイミングを見計らったかのように、携帯電話が鳴る。
「昨夜の爆破について、分かってもらえましたか? 私達は、いつでもあなたのお家や田畑、なんならご近所さんを……」
言い切らなかったが、意味は分かった。爆破できると脅しているのだ。賴永は、女が”私達”という表現をしたことを聞き逃さなかった。単独犯では無い。
賴永は電話口を抑え、聞こえないように返答をシミュレートしながらぶつぶつ呟く。
「このまま断れば、自分だけじゃ無く無関係なこの集落も……? しかし、犯罪の幇助は……。指示内容で決めるか……?」
一呼吸して、電話に戻る。意を決した賴永が喋るのを遮るように、女が先手で
「あなたの声や行動は筒抜けですよ。今、指示内容で断ろうとしてますよね?」
「えっ……」
賴永は、相手に聞こえないように呟いていた。少なくとも、電話では聞き取れないはずだ。さらに女は
「今、越中新聞の18面を開いていることも筒抜けですよ」
賴永は恐ろしくなり、新聞を急いで閉じると
「今閉じて、1面ですね」
明らかにどこかから見ている。窓はカーテンをしていて、見えないはずだ。もしや家の中にでもいるのだろうか。恐ろしくなって、携帯を持ったまま、家中を探す。息切れするほど汗だくで走って一周したが、自分以外には誰もいない。
電話に戻り、賴永は大声で
「どこにいるんだ!? どこから見ている!?」
すると電話口の女は、
「お出かけの時は、全ての窓を施錠しないといけないですよ?」
賴永は顔が青ざめて、呼吸が乱れる。幼い頃からの家庭ルールが今も継続して、あえて施錠しない掃き出し窓が1箇所ある。今となっては、施錠しない意味はない。昔の話になるが、両親が仕事や買い物で両方出払っているとき、鍵がなくても家に入れるようにと、施錠せずに開けていた。小学校から中学校、高校まで、兼鹿が鍵をなくすことは無かった。しかし、ランドセルや鞄の奥に落ち込んだ鍵を探して取り出すのが面倒で、掃き出し窓から入ったことが数回あった。
この家は、いつの間にか盗撮と盗聴されている。相手の手中にいて、逃げられない。
*
河川敷。警視庁刑事部捜査一課所属の藍川 桑栄巡査と榊原 岾人警部が現場に到着すると、規制線が張られて、鑑識作業が終わったころだった。
藍川巡査と榊原警部は、警察手帳を提示して、規制線の中へと入る。ブルーシートがかけられた遺体の近くに、長谷 貞須惠警部補がおり、榊原警部が声をかける。
「長谷警部補、お疲れ様です」
長谷警部補は「おう」と小さく返事して、事件について説明を始めた。
「被害者は、所持していた免許証から、西方 郁子さん。52歳の女性。死因は爆風に巻き込まれ、後頭部強打による脳振盪ではないかと推測される」
「事故ですかね?」
藍川巡査はブルーシートを少し持ち上げて、被害者の頭部を確認する。後頭部に強打による痣や出血が見られる。
「事故か他殺かは、なんとも……。爆発したのは、そこにあるスプレー缶。おそらく5本以上はあったと思われる。スプレー缶が置かれていた板は、熱伝導率の高い素材で出来ていた。偶然爆発したのか、それとも何者かが意図的に仕掛けたのかは、不明。これが殺人ならば、発見されたものの中にダミーがあるかもしれない」
「長谷警部補。被害者がスプレー缶の近くにいた理由は?」
「これからの捜査で明らかにする必要があるだろうな。被害者がなぜ、河川敷でスプレー缶の近くにいたのか」
推理を進める中、鑑識から1件報告が上がった。細い電線ケーブルのようなものが、いくつか発見された。推測として、爆発による焦げや、衝撃によってちぎれたのではないかと考えられるそうだ。
長谷警部補は鑑識が回収して、袋に入った小さな電線を見て
「それが本当なら、爆発は仕組まれた可能性がある」
「一気に他殺が濃厚になってきましたね」
藍川巡査は警察手帳に”電気工事の経験ありか?”と走り書きをして、犯人像を考える。
榊原警部は他の捜査官から連絡が入り、電話に出る。藍川巡査と長谷警部補は、ふたりでこの後の捜査について話し合う。目撃者がいないかどうか、聞き込み捜査を行うことになるだろう。
電話を終えた榊原警部は、
「被害者に関してですが、娘さんがいるそうです」
「住まいは?」
「現住所は富山県ですね」
「東京へは北陸新幹線で往復できるな」
「羽田と富山の飛行機もありますね」
「その娘さんが最近東京に来ていないか確認する必要があるか……。それは、別の班に依頼する。あと、富山県警に捜査協力の依頼を、事前に話しておくか」
長谷警部補は、携帯電話の通話履歴から小渕 創哉参事官を探して連絡する。長谷警部補は、普段から頻繁に連絡する相手は、電話帳から探さずに、通話履歴から探していた。
電話する前に、榊原警部から被害者の娘に関して聞くと
「被害者の西方さんは、両親がすでに亡くなっており、娘と夫が富山県で生活をしています。娘は既婚者で名字が”鐘”に変わっています。フルネームは、鐘 査代子さん。夫は西方 早月さんです」
「わかった。その2人が、それぞれ直近で東京に来ていないかどうか、こちらで調べる。ふたりは聞き込みを頼む」
「はい」
今更だが1つだけ。階級では榊原警部の方が上だが、経験と年齢は長谷警部補の方が上だ。そのうち榊原警部が仕切ることになるだろうが、4月の人事でも変わらなかった。ただ、秘密裡に動いているエルシーズの捜査は、榊原警部の指示で動いており、長谷警部補は榊原警部からの指示を受けている。
長谷警部補も警部の昇任試験を受ければ、十分警部に昇格できるだろうが、まだ1度も受けていないそうだ。本人によると、今年は受けると2年続けて言っており、上からも受けろと言われている。噂によると、試験の締め切りを忘れていたという話もあるが、真相は不明である。
To be continued…
2021年、今年もよろしくお願いいたします。
さて、新年早々ですが、あとで加筆する可能性があります。尺が間に合ってないので……
今回の事件の大まかな流れは決まったので、あとはそのルートに沿って描いていくことになるかなと。
【1/10追記】
全体の変更はなく、最後を加筆しました。新年早々、書き足し更新ですね。
今年、このままストックなしで大丈夫かな……
改稿して7分後、被害者の家族設定を間違えていたので修正しました。
1/13 上記の変更漏れで、夫の名字が鐘になっていたので、西方に修正しました。




