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第10話 もう一つの事件

 後から知ったことだが、稲月さんと宰君、結紀ちゃんはかなり前から顔見知りだった。そのことは、登根たちも知らなかったらしく、救出に積極的に加勢した理由が分かった。

 それと、特課と捜査一課の合同調査による結果についてだが。あの日、柊哉君について行った。柊哉君は、ツキノワグマのマスコット人形を結紀ちゃんに渡していたのだ。しかし、その場には蜉蝣のメンバーがいたこともあり、手は出せなかった。稲月さんが蜉蝣以外に誘拐されたことは、柊哉君からの情報を元に再捜査した結果だった。とんでもない小学生に出会ったようだった。中身は大人ではないかと、疑いたくなるほどである。しかも、名刺を持っていた。兄の見様見真似らしいが、悠夏は一応名刺交換した。何処で役に立つか分からないし、人脈や協力者は多い方が良い。柊哉君と結紀ちゃんたちは、同じ学校だと言うことも後で知った。事件に一部しか関わらないと、後から知ることは多い。

 浅羽さんは、年越し前に手術を終え、意識を取り戻した。回復次第、事情を聞くらしいが、特課の参加は大晦日まで。もうすぐ、この事件も今年も終わる。

 病室に移動し、子ども達は疲れて寝ていた。有塚さんは、浅羽さんの手を握って、「良かった」と何度も言い、涙が流れていた。登根さんもかなり目が潤んでいた。浅羽さんは「そんなに泣くなよ」と笑っていた。

 悠夏と警部は報告のため、退席しようとしたが、ドアがゆっくりと開いて、捜査一課のメンバーが3人入ってきた。榊原警部と長谷警部補、藍川巡査である。榊原警部は、子ども達が寝ているのを見て、声のボリュームを落とし

「鐃警、佐倉巡査。親御さん達が迎えに来たので、子ども達は帰してください。それと、あなたがたにはお話があります」

 警部と悠夏は、子ども達を起こして迎えが来たことを話すと、欠伸をしながら部屋を出る。子ども達は、浅羽さんたちに別れの挨拶をしたが、浅羽さんたちは黙って手を振って見送った。

 子ども達がいなくなると、榊原警部は咳払いをして

「さて、あなた方3名に確認したいことがあります。この車に見覚えはありますか?」

 藍川巡査が、江東区の駐車場に放置された黒色のセダンの写真を見せた。

「この車は、被害届が出ていた車です。しかしながら、その車にあなた方は乗っていた。それも、子ども達と会った二日とも。なぜ、自分達の車があったにも関わらず、盗難車を運転していたのですか?」

 登根たちは、黙って俯く。悠夏は、予想と違う展開に双方を何度も見る。

 そういえば、最初の捜査会議の時、長谷警部補が

『使用されたのは、黒のセダン。付近のカメラから、ナンバーを特定したところ、盗難の被害届けが出ており、昨日、江東区の駐車場に乗り捨てられているのを発見しました。おそらく、犯行グループは、別の車に乗り換えたか、車を捨てて公共交通機関を使用した可能性もあり、付近のカメラを現在確認中です』

 そんな報告をしていた。完全に忘れていた。

「車の持ち主ですが、葛飾区在住の男性が所有していました。ただ、あなた方とは直接接点がなさそうですね。車に付いていたカーナビの走行履歴から、その日に何処に行っていたかは突き止めました。不法投棄が多い山奥でした」

 榊原警部は、ゆっくりと喋っている。3人の顔色を見ながら。さっきまでの涙は何処へ行ったのだろうか。

「同じ町工場で勤めていた男性。出張だったそうですが、仕事納めの日に帰ってこなかったらしいですね。今回の事件では、Nシステムで撮影された写真から、蜉蝣が乗車していたあなた方3人だと分かり、その男性についてはそこまで調べていなかったのですが、再度調べてみると、有塚とかなり揉めていたらしいですね」

 悠夏は途中から参加したため、蜉蝣の人物特定がどのようにして行われたか知らなかったが、Nシステムの撮影写真を照らし合わせて判明したようだ。で、嫌な予感がする。子ども達や教諭を救ったヒーローのようにも思えた3人だが、まさか……

「単刀直入に言います。被害者、青海(あおみ) 辰巳(たつみ)さんの死体遺棄をしたのは、あなた方ですね? ただ、殺害したのは、登根さんの同期である櫛田(くしだ)被疑者。……話してもらえませんか?」

 なんと、誘拐事件の裏で殺人事件が起こっていた。ただ、裏というか、前日というか……。

 浅羽は、ため息をつき、沈黙を破る。

「確かに、死体遺棄の幇助(ほうじょ)を行いました。いや、率先してですかね。2人は関係ありませんよ」

「残念ながら、おふたりも関わっていた証拠があります。その日に、乗車していたという写真が」

 榊原警部はそう言って、藍川巡査から写真を受け取って、3人に見せる。コンビニの防犯カメラの写真だ。3人が同じ車から降りて、飲み物を買っている。

 重い雰囲気の中、タブレットの通知音が鳴る。悠夏の持つタブレットだ。悠夏は慌てて、タブレットの通知をサイレントに変更する。だが、その通知を見て、タップし中身を確認する。

「今、櫛田被疑者が話した内容が届きました。読み上げます」

 悠夏はメールに添付されたPDFを開き、証言の抜粋欄を読み上げる。

「櫛田被疑者は、容疑を全面的に認め、次のように証言しました。”青海被害者が、仕事中にやたらと有塚さんに迷惑行為をしており、挙げ句の果てに登根さんたちのデートをストーカーして、写真を撮っていたことを知りました。本人に言っても、むしろ暴力で脅し、許せなかった。浅羽さんたちには、幸せになって欲しい。そう思って、自分はヤツを引き離すように無理矢理対処しようとしたけれど、結局変わらず、あの日……”。

 櫛田は、19日に出張中だった青海に呼び出され、事実を捏造した写真をばら撒くと脅迫された。それは、青海のストーカー行為などを櫛田が行っているかのように偽装工作した物だった。それを聞いた櫛田は、溜まっていた怒りが爆発して、ロープで絞殺した。その後、青海に呼び出されていた浅羽たちが、現場に遭遇し、死体を遺棄。車は青海が乗っていた車を使用。しかし、その車は盗難車であった」

「20日、22日に車を捨てに行こうとしたんですが、そのときに子ども達が誘拐される現場を目撃し、それを見逃すことは出来ず……」

 浅羽は容疑を認めた。登根と有塚も同じく。

 3人は、列車往来妨害罪や略取誘拐罪などで逮捕されても、子ども達や教諭を救ったことで猶予されるかと思ったが、別の事件があった。

 登根被疑者と有塚被疑者は、捜査一課に連行され、浅羽被疑者は、容体が回復してからとのこと。

 悠夏は、こんなこともあるんだと感じた。いつの間にか、感情移入していたんだと痛感した。こんなことで一喜一憂していたのでは、警察官としては務まらないのだろうか。


 静かになった病院の廊下を、悠夏と警部が帰る。気付けば、0時を過ぎていた。

「警部、いつの間にか年を越しましたね」

「明けまして、ですね」

「こちらこそ、本年もよろしくお願いします」

 日付は2019年1月1日。明けまして()()()()()()()()()()とは、言えなかったが。


To be continued…

平成が終わり、次の年号に切り替わるタイミングでこちらのお話は年越しです。

次回は、1話完結の予定です。

年号変わっても、引き続きよろしくお願いします。

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