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10話 今ここで

地下シェルターの中で人生を終えることを提案したのは美咲の方からだった。

3日前に2人は最後の瞬間をどこで過ごしたいのかを話し合っていた。




「ねぇ、地下シェルターの中だったら最後まで生き延びれるんじゃない?」

彼女は不敵に笑った。

「いや、でも同じこと考えてる人もいるだろ」

「そんなことないよ、みんなもう地球がなくなることわかってるんだから、こんな悪あがきするの私達だけだよきっと」

死ぬ直前だというのに明るく光に接する。

まるでデートの予定を組んでいるかのように和気あいあいと最後のプランを組み立てようとしていた。


光はしばらく思考した後、

「うん、そうだな。シェルターに行こう」

と言うと、

美咲は

「私たち地球で最後のカップルになれるよ!」

と返答した。


最後のカップルという響きが光の心を離さなかった。




地下シェルターとはその名の通り地下にあるシェルターなのだが、光たちの街の中心部にそれはある。

まだ街が栄えていたころの所謂お役所があった場所の下にそれは建設されていた。






当日、光は父親に最後のあいさつを済ますと美咲と落ち合いシェルターへと向かった。

何十分も歩き続けたが、今回ばかりは2人とも緊張してまともな会話をすることが出来なかった。


とても静かな夜であった。

嵐の前の静けさとでもいうべきか風もほとんど吹いてはおらず、2人が夜空を見上げると満点の星々がキラキラと輝いていた。




「マフラーつけてきてくれたんだね」

「うん、寒いからね」

「えへへ、ありがとう」


目的地が徐々に近づいてくる。

どうしようもなく胸が張り裂けそうになる。


かすかに2人の手が触れ合うと、

光は美咲の手を掴んで離さなかった。

美咲もそれに応じて握り返えす。




廃墟と化した施設。役所の自動ドアを自力で開け中へと入る。

施設内を探索すると、地下行きの案内板が目に留まった。

その案内通りの道を進むと、分厚い扉が開けっぱなしの部屋に着いた。

中へ入ってみると下へ下へと続く螺旋階段がある。


コツコツコツ。

2人の足音が何重にも反響する。

一番下まで降りると、

そこにはまたも分厚い扉があった。

しかし開いてはいない。


横にはタッチパネルがあり、

光は父に教えてもらったパスワードを打ち込むと

ごうごうごうと重苦しい音を響かせそれは開いた。

部屋に入ると天井のライトがパッとつく。

自動で電気がつくことに多少驚きはしたが、目的地に着いた安堵感から2人の口も軽くなる。


「シェルターの中って広いんだね」

「そりゃそうだ、数千人規模で入れるようになってんだから。都のはこれの何十倍も広いらしいぞ」

「え、そうなの!?そんなのもう街だね」

「そうそう。昔の人は全人口を地下シェルターに移動させようって考えたみたいだぞ。アリの巣みたいに」

「えぇ〜。昔の人もバカなこと考えるよね。どうせ地球なんて消えて無くなっちゃうのに地下に逃げようだなんて」

「まあ、そうだよな。初めのうちは地球が無くなるなんて考えていなかったらしい。フレアの影響でしばらくは地表に住めなくなるとしか思っていなかったんだって」

「で、それが間違ってるって気づいたのがちょうど100年前か」

そう言って美咲はだだっ広いシェルターの中を興味深そうに見回した。

光も美咲も静かに前へ進む。

結局造るだけ造ってほったらかしになったシェルター。

だから風情のかけらもない。

生き延びるための食料も道具も何もない。


「どこで死のっか?」

美咲は冗談めいた顔でそう言った。


「ここなんていいんじゃない?」

自然を装って、まるで遊び場所を提案するかのようにそう答えた。


シェルターの一番奥の隅っこ。

2人は死に場所を決めた。


しばらくの沈黙。

それを破るようにポケットに入れていた電子端末が鳴る。


ピピピッ!ピピピッ!


「なにそれ?」


「太陽が爆発した音」


「目覚まし時計じゃん」


美咲は冷たい目で光を見た。


どうやら雰囲気を壊してしまったようだ。





はぁ、と吐く息が白い。


「座るか」


「うん」


美咲の左肩が光の身体に触れる。

もたれかかる彼女の身体はとても暖かく、

さっきまでの不安が溶かされていくようだった。




「あったかいね」



「うん」






しばらくしてシェルターの光が消えた。

上から轟々と音がする。

もう地表に熱が降り注ぐ時間だ。


「もう生きてるの私達だけかな?」


光は何も答えられなかった。


部屋が熱くなっているのがわかった。

意識が次第に遠のいていく。










「ねえ、私のこと好き?」



「好きだよ」



「どれくらい?」



「地球で一番」



「もう私達しかいないんだからそうに決まってるじゃん」


美咲が笑った。



「私も光のこと大好きだよ」



「どれくらい?」



「宇宙で一番」


光も笑った。












「ねえ、生きてる?」










「生きてるよ」










「あのね、私ね」










「うん?」



























「生まれ変わっても光と一緒にいたいな」































「俺もだよ」













































地球は消えてなくなった



生命は消えてなくなった



でも確かに光と美咲はそこにいた



そこで生きていた記憶は決してなくならない



あなたと出会えたことをずっと忘れない








































最後の物語をあなたに


終わり










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