最終話「館の幻」
こんにちは、オロボ46です。
今回でひとまず最終話となります。
それでは、どうぞ。
森の中をただひたすら歩いている。
その中でも私は初めてあの男と出会った時のことで頭がいっぱいだった。
意思を持ったばかりで、混乱していた私の目の前に現れた男。
彼は私に意思を持ったマボロシについて教えてくれた。
そして、彼は気になる言葉を残して去って行った。
"それでは、私はこの位で失礼させていただきます。
今度お会い出来るときを......楽しみにしております......"
あの時の私は、特に疑問には思わなかった。
でも、今思うとわからないことがある。
今後お会いできるって......どうしてそう言い切れるんだろう。
鬼のマボロシからもらった地図の場所に来てほしかったのかな?
でもそれなら、どうして私を一人で旅に出したのだろう。
一緒に連れていかなくても、この地図のマボロシを渡すだけでよかったのに......
ひとつだけわかることは、
地図が示す場所に彼が待っているということだけだった。
やがて森を抜けると、館が目の前に現れた。
まるで西洋のような外見で、信じられないほど大きかった。
そして館の前に......あの男の姿があった。
「......お待ちしておりました」
男は私の姿を見ると、礼儀正しく礼をした。
「長い道のりを歩いたようですが、お疲れではありませんか?」
私はマボロシは疲れないはずだよと男に言った。
「そうでしたね......ずいぶんマボロシについての知識を学んだようですね」
そう言って男は館の入り口の扉を開けた。
「どうぞお入りください。この館も意思を持ったマボロシですので、
心配されなくても大丈夫ですよ」
とても落ち着いていて、なおかつ高級感のある内装だった。
だいたい予想はしていたけど、私は思わずため息が出てしまった。
「この館は、イギリスに建てられていた館のマボロシなのです。
さすがに日本だと、不釣り合いですけどね」
私は男の話を聞きながら、後をついていった。
どこに向かっているのと尋ねると、男は「旦那さまの自室です」と答えた。
「旦那さまはあなたと同じ、意思を持ったマボロシでございます。
おそらく、あなたも顔だけは見たはずですよ」
私は洞穴で見た壁画のマボロシのことを話した。
「それですね。私の顔を見て驚かれましたか?」
うん、すごく驚いた。
「ハハッ......おっと失礼、執事である身分なのに、笑ってしまうと失礼ですよね」
そんなことはないと思うけど......
執事のマボロシと会話している内に、ある扉の前まで来ていた。
執事のマボロシは扉にノックし、「失礼します」と言った。
「入りたまえ」
中から声が聞こえると、執事のマボロシは扉を開けた。
中には優しそうな老人......あの壁画に書かれていたおじいさんがいた。
「おお......ついにここまで来たのか......」
おじいさんは目を輝かせながら私に近づいてきた。
「ふむふむ......わしの思っていた通り、とても美人じゃのう」
私はおじいさんがなぜ近づいてくるのかわからなくて、執事のマボロシを見た。
「そのお方は......あなたの祖先が産み出したマボロシでございます」
私はおじいさんのマボロシから話を聞くことにした。
「わしを産み出した老人はイギリスに住んでいた。
そして、あるものを調査するために日本の若者と共に研究をしていたんじゃ」
もしかして、マボロシについて?
「そうじゃ。最初は冗談半分で、趣味の範囲で楽しんでいたらしい。
ところが、ある洞穴から書物が出てきたのじゃ」
マボロシは意思を持っている......?
「そんな感じじゃ。おそらく大昔に暮らしていた
民族によって書かれたようじゃが......
それを見た老人はある考えを思い浮かべた。
マボロシを利用してこの姿を後世まで残すことが出来るのではないかとな」
それで......
「老人は日本にやって来た。そして、己の姿......つまりわしを思い浮かべた。
その次にわしを支えるための執事、そしてイギリスにある屋敷を思い浮かべた。
その後、老人はイギリスに帰る前に病にかかり、この地で深い眠りについた」
おじいさんのマボロシはそこまで言って、疲れきったようにため息をついた。
「ずいぶん長い年月を過ごしてきたが......
この頃、もう消えたいと思うようになったのじゃ」
どうして!? 私はびっくりして思わず大声で言ってしまった。
「虚しいんじゃ。長生きしたって、
他のマボロシには見えても人間には見えないからのう......
そのことを執事に相談したとき、もう少しだけ待っていてくれといったんじゃ」
そう言いながら老人は執事を見た。
「はい、私は旦那さまに希望を持ってもらうために子孫を探しました。
そして、見つけることはできたのでしたが......その子は病弱でした」
私を産み出した少女......?
「その代わり、彼女は旅に出たいという気持ちが強かった。
私が病室にいたときには、すでにあなたが産み出されていたのです」
あなたが来た時に、私が......
「そこで私はあることを思い付きました。
このマボロシを屋敷に招待して、旦那さまに希望を持たせることを」
でも、それなら......
私は疑問に思っていたことを話した。
「あなたは旅に出たいという少女の願いから産まれました。
どうしても方向を指定せずに最初は自由に旅させて上げたかったのです。
最初は尾行して後をついていってたつもりでしたが......」
......?
「ある街で幻の人混みで見失ってしまったのです」
......あ、あの歌手の人の......
「仕方がないので、例の洞穴の前にいる知り合いのマボロシに地図を渡しました。
後はあなたが洞穴に訪れることを願って屋敷に戻りました......」
落ち込み執事のマボロシに、おじいさんのマボロシがポンと手を置いた。
「落ち込むことはない、そのおかげでこれまでの生き甲斐が長くなったからのう」
その手が一瞬、消えかけた。
「だ......旦那......さま......」
執事のマボロシは呆然とおじいさんの手を見ていた。
「もう、これでやり残したことがない......
お前には苦労をかけたが、すでにわしの意思は消えかかっていたのじゃ。
そして、この館も......」
そう言うと、館全体が少し消えかけた。
「......」
執事のマボロシは、悲しそうな表情を浮かべた。
「旦那さま......それなら、私の願いを聞いてもらえませんか?」
おじいさんのマボロシは笑顔で頷いた。
「この方と病室であったときから
私も旅に出てみたくなったのです......私も、旅に出ていいですか?」
その言葉には、しっかりとした意思が感じられた。
「行ってきなさい。その意思をしっかり持つのじゃぞ」
そう言いながらおじいさんのマボロシは私を見た。
「この子のおかげで手にいれた、新たな意思じゃからのう」
館の外に、私は執事のマボロシと共に出ていた。
「それでは、私は別の方向から歩いて行こうと思います」
そう行って執事のマボロシは歩き始めた。
途中で彼は私の方を振り向いて「ありがとう」と言い残して去っていった。
私が館のあった方を見てみると、ただ草原が広がっていただけだった。
私は、これからも旅を続ける。
旅をすること......それが、私の揺るぎない意思なのだから。
いかがでしたか?
いつものあとがきもあるので、よろしければそちらもどうぞ!