第7話「線路の幻」
こんにちは、オロボ46です。
今回はとある駅のホームから始まります。
それでは、どうぞ。
私は駅のホームまで来ていた。
たくさんの人間が白線の内側で立っていた。
一体何を待っているんだろうと思っていると、向こうから大きい電車がやって来た。
電車は私の前に止まると、ドアを開いた。
すると中から人間たちが大勢で出始める。
その後にすぐ白線の内側で待っていた人間たちが電車へ乗り込んで行った。
しばらくすると電車の扉は閉まり、再び走りだした。
この光景に私は呆然としていた。
あまりにも驚くべき光景なのに、周りは当たり前のように平然としていたからだ。
あんなにたくさん出て来たら、誰か転けてしまう人とかいないのかな......?
再び電車を待っていると、ふと疑問に思ったことに気がついた。
先ほど去って行った電車は、一体どこへ向かっているのかな?
まもなくやって来る電車に乗ればそれがわかるはずだけど......
でも、もし行き先が違っていたらどうしよう......
ふと気がつくと、目の前には次の電車がやって来ていた。
しかし扉はもう閉まっており、すぐに走り去ってしまった。
どうやら、悩んでいる内に走り去って行ってしまったみたい。
私は走り去って行く電車の後ろを見送ると、決心した。
私は白線を越え、線路に降り立った。
もし私が人間だったら、このホームはパニックになっていただろう。
もし、電車が来て......轢かれてしまったら......
だけど、マボロシである私にはその心配はなかった。
実体がないから、例え電車が来てもすり抜けるだけ。
そもそも、他の人間に私の姿は見えないはずだから......
私は電車が走り去って行った方向を目指して線路の上を歩き始めた。
先ほどの電車に追い付くなんて無茶なことはよくわかっている。
だけど、追い付かなくていい。
なんとなく後をたどってみたくなっただけだから。
夢中で線路の上を歩いていると、向こうから同じように歩いてくる人影が見えた。
私は気になってその人影に近づこうとした時、
後ろから電車の走る音が聞こえてきた。
電車は私の体を突き抜け、向こうの人影に向かって突進していく。
電車が過ぎ去った後に私は人影があった場所を見るが、人影はもうなかった。
どこに行ったのかなと周りを見渡そうとした時、突然視界が真っ暗になった。
「だーれだ?」
可愛らしい女の子の声が聞こえた。
だけど、私はその問に答えることができなかった。
だって......聞き覚えのない声なのに、誰だといってもわかるはずがなかったから。
「ねえねえ、お姉ちゃんはどこへ行っているの?」
私と共に線路を歩いている女の子はそう質問した。
マボロシの女の子は帽子を被っていて、とても元気な印象を与えていた。
私はなんとなく電車の後を追いかけていると伝えた。
「へえ~......お姉ちゃん、変わり者だねえ」
初対面の相手の目を塞いで誰だと聞いてくる君の方が変わり者だよ......
とは言わなかった。
代わりになぜこんな所にいるのかを尋ねた。
「あたし、電車が好きなの。
いろんな電車があって、いつまで見ても飽きないんだよ」
電車って......いろんな種類があるの?
「うん、そうだよ」
そう言いながらマボロシの女の子は笑顔を見せた。
「ねえ、ずっと悩んでいることがあるんだけど......」
マボロシの女の子はそう言って立ち止まった。
私がどうしたのと聞くと、女の子は地面を見ながら言った。
「この地面に落ちたりしないのかな?」
......どういうこと?
「さっき、電車が来る時にすり抜けたでしょ?
それならこの地面もすり抜けちゃって......地球の裏側まで落ちちゃうのかなって」
確かに......マボロシは実体を持たない。
車や電車が来てもすり抜けるだけだ。
でも、地面に落ちることはないと思う。
しかし、その根拠が思い浮かばないので、
適当に意思を持っているからと言ってみた。
「へえ~、お姉ちゃんって、以外と物知りなんだねえ」
適当に言ったことを後悔しながら、そんなことはないよと言った。
しばらく歩くと、マボロシの女の子は立ち止まった。
どうしたのと聞くと、女の子は少し悩んだ様子の後、口を開いた。
「あたし、ここで元の道をたどるの。お姉ちゃんとはここでお別れだね」
私はなぜ元の道をたどるのかは聞かなかった。
マボロシの女の子の表情が、少し悲しげだったから......
マボロシの女の子は、私と反対方向へ向かって歩き始めた。
私が見送っていると、マボロシの女の子はこちらを見て叫んだ。
「ねえ! また会ったら、旅のお話聞かせてね!!」
私も約束すると叫んだ。
マボロシの女の子と別れてから歩いていると、踏切が見えてきた。
さらに近づくと、その近くに花が備えられており、
二人の人間がしゃがんでいるのが見えた。
近づいて見ると、花と一緒に写真が添えられているのに気づいた。
その写真は、先ほどの女の子だった。
「なあ、もういいか?」
一人の男性が、もう一人の女性に聞く。
「ねえ......あなた......
さっき、あの子が線路の上を歩いているのが見えたわ......」
「......それはきっと幻なんだ。俺のせいで、あの子は......」
「いいのよ、私はあの子が生きていることを信じている。
きっと、新しい友達と一緒に歩いているんだわ......」
カンカンカンカン
踏切から音が流れ、やがて電車がやって来る。
電車がすり抜けていくなか、私はあのマボロシの女の子の姿を思い出していた。
いかがでしたか?
次回は12月14日(金)16時半~18時投稿予定です。
お楽しみに!