第5話「お化けの幻」
こんにちは、オロボ46です。
今回はとある廃墟から始まります。
それでは、どうぞ。
とある街から離れた所にある廃墟。
私は廃墟を見上げていた。
今まで人間が多く行き交う街を歩いてきたので、
人間のいない静けさはかえって新鮮に感じられた。
まるで、お化けが出てきそう......
思わずこんなことを呟いてみる。
恐怖という感情はどうやら感じていないらしく、
どちらかといえば期待の感情が大きかった。
「なんだったんだのよ......あの噂は......」
中から女性が現れた。
私よりも背が高くて、とてもスマート、そして、左目を隠す髪が印象的だった。
「この廃墟には亡霊がいるからって聞いたのに......無駄足だったじゃない......」
そう呟きながら、人間である女性はマボロシである私をすり抜けて去っていった。
この廃墟には亡霊......つまりお化けがいる......
その噂を聞いた私は、期待の感情がより大きくなっていることに気づいた。
廃墟の中は、とても暗く感じられた。
いかにもお化けが出そうで、とてもワクワクしはじめた。
お化けは一体どこから出てくるんだろう。
お化け屋敷みたいにワッって脅かしてくるのかな?
それとも、後ろからもうついてきているのかな?
私は押さえられない期待の感情を感じながら足を進めて行った。
"ぐおおおお、ぐおおおお"
......何? この音......
私は音をよく聞くために足を止めた。
"ぐおおおお、ぐおおおお"
私にとってはあまり聞く機会の少ない音だった。
これがもし、何かの呻き声だったら......
私は恐怖を感じるかな? それとも、期待の感情をより大きくするかな?
だけど、その音は私にとって何の感情も起こさなかった。
「ぐおおおお、ぐおおおお」
音の発生源は、廃墟の中の一室にあった。
床に男の人が横たわって寝ている。
よく見れば身体中に血のような跡があるし、肌も死人のように白かった。
まるで、心霊写真から飛び出したような見た目だった。
だけど......思っていたのと何か違う......
お化けがこんなにだらしなく寝ているなんて......
「......ん? 人間......? 一ヶ月ぶりだな......」
お化けは穴の空いた目をこすりながら私を見た。
どうやら人間と間違われているみたいだから、違うと答えてみた。
「へえ......人間じゃない......え!?」
お化けは私の姿をまじまじと見ている。
「......見えるの?」
見えるよ、と私は答えた。
「......ぎゃああああああああああああああああ!!!
お化けええええええええええええええ!!!」
お化けは急に叫びだして逃げ出してしまった。
私が逃げるお化けを捕まえて、説得するのに数時間かけてしまった。
「なんだ......君もマボロシだったのか......
まさか僕以外に見える人がいるなんて思っていなかったから......」
廃墟の中、お化けのマボロシは照れ臭そうに言った。
「期待させて悪いと思うけど......僕はお化けじゃなくて君と同じマボロシなんだ。
恐らく、噂を聞いた人間が僕の姿を想像したんだよね」
やっぱり......
私は少しため息をつくと共に、どこかホッとした思いもあった。
先ほどの光景で、お化けのイメージが崩れてかけていたからだと思う......
「それにしても、なんだかなあ......この姿」
どうして?
「だってありがちなんだよ。
見た目で怖がらせるなんてさ、慣れてしまったら終わりだろう?」
確かにそうだけど......
「僕はどちらかといえば......初めは気づかない方がいいと思うんだ」
どういうこと?
「初めは普通の人だなあって思わせておいて、
後でその人が死んでいると気づいて......」
後でゾッっとする感じ?
「そうそう!! 真相を知って初めて気づくってやつ!
本当はそういうのがよかったんだけどなあ......」
そう呟きながら、お化けのマボロシは自分の姿を見つめていた。
お化けのマボロシの姿を見つめている内に、私はある疑問があった。
この噂が流れた理由はどうなんだろう......
私はそのことをお化けのマボロシに尋ねてみた。
「噂の流れた理由? ああ、なんとなく知っているよ。ついておいでよ」
そう言ってお化けのマボロシは廃墟の一室から去っていった。
私も彼の後を追った。
「この廃墟は元は出版社だったんだ」
お化けのマボロシは歩きながら説明してくれた。
「その会社が出版した雑誌の中でももっとも売れたのは、オカルトモノ......
つまり、お化けやUFOなどの噂が書かれた雑誌さ」
そうなんだ......でも、どうしてこんな廃墟になったの?
「それが原因不明でさ......ある時から社員全員が行方不明になったんだ。
その後、廃墟になったかつての出版社に、
社員の亡霊が現れるって噂が広まって......」
それで、みんなお化けの姿を想像して......
「僕が生まれた......ってわけさ。どうやら、僕は行方不明になった社員の一人の
お化けになっているみたいだけどね。
今向かっているのはそのオカルト雑誌の編集室さ」
やがて、私たちはその編集室へとやって来た。
「えっと......どこだっけ......あ、そこか」
そう呟きながら、お化けのマボロシは机の上にある写真を指差した。
「あの写真に写っているのはここの編集室のメンバーなんだ」
私は写真に写っている人間たちを見た。
「その一番左のイカした男が僕らしいんだよ。
こうしてみると、生きているころはホント生き生きしていたんだなあ......」
私は写真に写っている人物を見て声が出なかった。
お化けのマボロシにそっくりな男......の反対側にいる女性......
私よりも背が高くて、とてもスマート、そして、左目を隠す髪が印象的な......女性......
"この廃墟には亡霊がいるからって聞いたのに......無駄足だったじゃない......"
彼女の声を思い出した時、とてつもない不安に襲われた。
気がついたら、私は廃墟の中を走って、そのまま外に出ていた。
なぜだかわからないけど......何か......恐れるような感情が沸き上がっていた。
結局、あの女性はなんだったのだろうか?
私は本物のお化けだと思っていたけど、
もしかしたらただの幻だったのかもしれない......
でも......
幻だったら、あのお化けのマボロシにも見えたはず......
私は、お化けのマボロシと会った時に聞いた声を思い出す。
"......ん? 人間......? 一ヶ月ぶりだな......"
いかがでしたか?
次回は12月9日(日)投稿予定です。
お楽しみに!