表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第5話「お化けの幻」

 こんにちは、オロボ46です。

今回はとある廃墟から始まります。

それでは、どうぞ。

 とある街から離れた所にある廃墟。

私は廃墟を見上げていた。

 今まで人間が多く行き交う街を歩いてきたので、

人間のいない静けさはかえって新鮮に感じられた。


 まるで、お化けが出てきそう......

思わずこんなことを呟いてみる。

恐怖という感情はどうやら感じていないらしく、

どちらかといえば期待の感情が大きかった。


「なんだったんだのよ......あの噂は......」

中から女性が現れた。

私よりも背が高くて、とてもスマート、そして、左目を隠す髪が印象的だった。

「この廃墟には亡霊がいるからって聞いたのに......無駄足だったじゃない......」

そう呟きながら、人間である女性はマボロシである私をすり抜けて去っていった。


 この廃墟には亡霊......つまりお化けがいる......

その噂を聞いた私は、期待の感情がより大きくなっていることに気づいた。




 廃墟の中は、とても暗く感じられた。

いかにもお化けが出そうで、とてもワクワクしはじめた。

お化けは一体どこから出てくるんだろう。

 お化け屋敷みたいにワッって脅かしてくるのかな?

それとも、後ろからもうついてきているのかな?

 私は押さえられない期待の感情を感じながら足を進めて行った。


"ぐおおおお、ぐおおおお"


 ......何? この音......

私は音をよく聞くために足を止めた。


"ぐおおおお、ぐおおおお"


 私にとってはあまり聞く機会の少ない音だった。

これがもし、何かの呻き声だったら......

私は恐怖を感じるかな? それとも、期待の感情をより大きくするかな?

 だけど、その音は私にとって何の感情も起こさなかった。




「ぐおおおお、ぐおおおお」


 音の発生源は、廃墟の中の一室にあった。

床に男の人が横たわって寝ている。

よく見れば身体中に血のような跡があるし、肌も死人のように白かった。

まるで、心霊写真から飛び出したような見た目だった。

 だけど......思っていたのと何か違う......

お化けがこんなにだらしなく寝ているなんて......


「......ん? 人間......? 一ヶ月ぶりだな......」

お化けは穴の空いた目をこすりながら私を見た。

どうやら人間と間違われているみたいだから、違うと答えてみた。

「へえ......人間じゃない......え!?」

お化けは私の姿をまじまじと見ている。

「......見えるの?」

見えるよ、と私は答えた。

「......ぎゃああああああああああああああああ!!!

お化けええええええええええええええ!!!」

お化けは急に叫びだして逃げ出してしまった。


 私が逃げるお化けを捕まえて、説得するのに数時間かけてしまった。




「なんだ......君()マボロシだったのか......

まさか僕以外に見える人がいるなんて思っていなかったから......」

廃墟の中、お化けのマボロシは照れ臭そうに言った。

「期待させて悪いと思うけど......僕はお化けじゃなくて君と同じマボロシなんだ。

恐らく、噂を聞いた人間が僕の姿を想像したんだよね」

やっぱり......

私は少しため息をつくと共に、どこかホッとした思いもあった。

先ほどの光景で、お化けのイメージが崩れてかけていたからだと思う......


「それにしても、なんだかなあ......この姿」

どうして?

「だってありがちなんだよ。

見た目で怖がらせるなんてさ、慣れてしまったら終わりだろう?」

確かにそうだけど......

「僕はどちらかといえば......初めは気づかない方がいいと思うんだ」

どういうこと?

「初めは普通の人だなあって思わせておいて、

後でその人が死んでいると気づいて......」

後でゾッっとする感じ?

「そうそう!! 真相を知って初めて気づくってやつ!

本当はそういうのがよかったんだけどなあ......」

そう呟きながら、お化けのマボロシは自分の姿を見つめていた。


 お化けのマボロシの姿を見つめている内に、私はある疑問があった。

この噂が流れた理由はどうなんだろう......

私はそのことをお化けのマボロシに尋ねてみた。

「噂の流れた理由? ああ、なんとなく知っているよ。ついておいでよ」

そう言ってお化けのマボロシは廃墟の一室から去っていった。

私も彼の後を追った。


「この廃墟は元は出版社だったんだ」

お化けのマボロシは歩きながら説明してくれた。

「その会社が出版した雑誌の中でももっとも売れたのは、オカルトモノ......

つまり、お化けやUFOなどの噂が書かれた雑誌さ」

そうなんだ......でも、どうしてこんな廃墟になったの?

「それが原因不明でさ......ある時から社員全員が行方不明になったんだ。

その後、廃墟になったかつての出版社に、

社員の亡霊が現れるって噂が広まって......」

それで、みんなお化けの姿を想像して......

「僕が生まれた......ってわけさ。どうやら、僕は行方不明になった社員の一人の

お化けになっているみたいだけどね。

今向かっているのはそのオカルト雑誌の編集室さ」




 やがて、私たちはその編集室へとやって来た。

「えっと......どこだっけ......あ、そこか」

そう呟きながら、お化けのマボロシは机の上にある写真を指差した。

「あの写真に写っているのはここの編集室のメンバーなんだ」

私は写真に写っている人間たちを見た。

「その一番左のイカした男が僕らしいんだよ。

こうしてみると、生きているころはホント生き生きしていたんだなあ......」


 私は写真に写っている人物を見て声が出なかった。

お化けのマボロシにそっくりな男......の反対側にいる女性......

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な......女性......

"この廃墟には亡霊がいるからって聞いたのに......無駄足だったじゃない......"

彼女の声を思い出した時、とてつもない不安に襲われた。




 気がついたら、私は廃墟の中を走って、そのまま外に出ていた。

なぜだかわからないけど......何か......恐れるような感情が沸き上がっていた。

 結局、あの女性はなんだったのだろうか?

私は本物のお化けだと思っていたけど、

もしかしたらただの幻だったのかもしれない......

 でも......

幻だったら、あのお化けのマボロシにも見えたはず......

私は、お化けのマボロシと会った時に聞いた声を思い出す。


"......ん? 人間......? ()()()()()()()......"

 いかがでしたか?

次回は12月9日(日)投稿予定です。

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ