第4話「食べ物の幻」
こんにちは、オロボ46です。
今回はとある都会から始まります。
それでは、どうぞ。
すごい......
私は街を歩く人々を見て驚きを隠せなかった。
まだ病院を立ち去ってから日は浅いけど、これほどの光景は見たことなかった。
まず、人が多い。
歌手を目指す女性のマボロシと出会った街にも人が多くいたけど、
それとは比べ物にならないくらい多い。
それに人だけじゃなく、建物もたくさん立ち並んでいた。
どれも信じられないぐらい高い......
この街は、"都会"と呼ばれる場所のひとつなんだ......
人々の波が私をすり抜ける中、マボロシである私はそう確信した。
「うぅ......うぅ......」
しばらく歩いていると、人混みの中で呻き声を上げながら歩いている男性を見た。
背中には私のバックパックよりも大きいバックを背負っている。
男性はどこか、具合が悪そうだ。
私は声をかけた。
人間には他人が産み出した幻を見ることは出来ないことは理解している。
周りの人間が誰も気に止めないから、
私は男性がマボロシなのではないかと思ったのが理由だった。
ところが、男は私の声が聞こえなかったようだ。
いくら声をかけても、目の前で手を振っても反応がなかった。
よく周りを観察すると、人混みの中には男性に対する視線も感じた。
どうやらこの男性はマボロシではなく、人間のようだった。
それなら、なぜ周りの人はこの男性に気づいてあげないんだろう......
そう思いながら人混みの中で観察を続けていると、その理由がわかった。
みんな男性を気づかう時間なんてないんだ。
誰もが忙しそうに歩いている。
もしかしたら、忙しすぎて男性の姿すら見えないのかもしれない。
グウウウウ
男性の腹から大きな音がした。
どうやら、お腹を透かせているようだ。
まるで、長い間何も口にしていないように......
そういえば、私は食べ物を口にしたことがない。
無論、マボロシが実在する食べ物を手に取ること事態不可能だし、
そもそもマボロシだからお腹を透かせることが無いけど......
「うぅ......」
男性はふらふらと歩き続ける。
心配になった私は、男性の後をついていくことにした。
やがて、男性はハンバーガー店の前で止まった。
私が中を覗いてみると、
"新発売!! 香り漂うコーヒーハンバーガー!!"
というキャッチコピーの入った美味しそうなハンバーガーのポスターが目に写った。
「はあ......あの時、スマホと財布を落とさなきゃな......」
隣にいた男性はそう呟くと、店の前を過ぎ去ってしまった。
男性は、スマホと財布を落としたと言った。
彼の格好から察するに、恐らく旅をしている人間じゃないかと思う。
このままでは......彼は......!!
なんとかしたい。
そう思っても、私には出来ることなんてなかった。
実体を持たないマボロシが人間にしてあげることなんて、
ただ見守ることしかないから......
「うう......」
とある駐車場で、男性はしゃがみこんでしまった。
もう、彼の体力は限界に近いだろう。
「はあ......あのコーヒーバーガー、美味しそうだったな......」
グウウウウ
再びお腹の音が聞こえる。
そんなことをしても、余計にお腹を透かせてしまうだけなのに......
そう思っていると、目の前で奇跡が起きた。
なんと、男性の目の前にハンバーガーが置かれていた!!
「!!! 助かったああ!!」
それを見た男性はハンバーガーに飛び付いた。
ゴチーン!!
そして、おもいっきり顔面を地面にぶつけてしまった。
なぜなら、先ほどのハンバーガーは男性が産み出した幻だったからだ。
男性は鼻を擦りながら辺りを見渡すが、もう幻のハンバーガーは無かった。
辺りが食べ物の幻だらけになるのになるのに、時間はかからなかった。
そのうち、食べ物の幻の匂いまで感じてきた。
なぜだかマボロシである私も食べたくなってきた......
「そこのお方、大丈夫かね!?」
建物から背の高い男の人が現れた。
格好から察するに、医者のようだった。
医者の登場と共に、周りの食べ物の幻も消えてしまった。
「昨日から......何も食べていないんです。スマホとお金を無くしてしまって......」
旅人の男性は力なく答えた。
「君、どうやら遠くから来たみたいだけど、頼る人はいるのかね?」
「遠い所に実家があります......お願いします、電話をさせてください!
あと少しばかり食べ物をください!」
旅人の男性は医者と共に建物の中へと入って行った。
親切な人に会えてよかった......
私はホッと一息ついて、駐車場から立ち去った。
......え?
私はその光景に目を疑った。
旅人の男性の幻は、医者が現ると共に消えたはずなのに......
先ほどのコーヒーハンバーガーが、
消えずに駐車場の上に放置させられていたのだ。
まさか......意思を持っちゃった......?
私は、意思を持ったと思われるマボロシのハンバーガーを手にした。
マボロシである私が持てた......
それでも、まだ意思を持っていたとは信じられなかった。
だって何も言わないし、自分から動こうとしないから......
私はある考えが浮かんで、背中のバックパックを地面に置いた。
もしかして、私が着ている服やこのバックパックも......
みんな、私の同じ意思を持って......?
私は手にしているハンバーガーを恐る恐る口にしてみた。
残念ながら、味は感じることが出来なかった。
だけど目を離すと、ハンバーガーは元通りの姿に戻っている。
よほど強い意思を持っているんだね......
私はハンバーガーをバックパックに入れた。
形が崩れていそうだけど、さっきみたいにすぐ元の姿になるんだと思う。
バックパックを背負って、私は駐車場から立ち去った。
少しだけ、仲間が増えたような気がした。
いかがでしたか?
早くもストックがきつくなってきました。
5話目がもうすぐ完成しそうですが、遅れるかもしれません。
次回は12月6日(木)13時15分~18時、
または12月7日(金)15時15分~18時投稿予定です。
お楽しみに!