第3話「池の幻」
こんにちは、オロボ4です。
今回はとある街の公園のお話です。
それでは、どうぞ。
早朝に、とある街の公園に来てみた。
その公園は木が多く、とても自然豊かに思えた。
ふと横を見ると、ベンチに学生服を着た男子が座っていて
思いっきり空気を吸い込んでいた。
私もベンチに腰掛け、一緒に息を吸ってみようとした。
だが、空気は私の体内に入ることなく、そのまま突き抜けて行く。
実体を持たないマボロシにとって、息をする必要がないからかな。
隣の男子は空気を吸ってお腹を膨らませ、空気を吐いてお腹を引っ込ませていた。
私のお腹が膨らむことはなかった。
諦めて隣の男子を観察しようとしたら、立ち上がって去ってしまった。
公園の中を歩いていると、大きな池が見えた。
私が想像していた池はよく透き通った池を思い浮かべていたけど、
実際は濁っているように見えた。
池を覗くと、空き缶などのごみが沈んでいるのが見える。
濁っているように見えた理由がよくわかったような気がした。
......あれ?
池の真ん中に人が立っている......?
私は思わず近づこうとした。
「へっくしゅ!!」
どこかでくしゃみがしたと思うと、池の真ん中にいた人はスッと消えてしまった。
「最近風邪気味かなあ......」
ふと向こう側を見ると、先ほどの男子がポケットから
ポケットテイッシュを取りだそうとしていた。
先ほど一瞬だけ見えた人影は、
白い服を着た女性だったような気がする......
あの男子が何しにこの公園へ来ているのかが気になった私は、
彼に近づくことにした。
男子はテイッシュで鼻を噛んだ後、
そのテイッシュを足元に置いてあるごみ袋へと入れた。
ごみ袋には既にいくつかのゴミが入っていた。
よく見ると、手にはごみ拾いに使いそうなトングが握られていた。
男子は足元のごみ袋を持って、歩き始めた。
私も後をついていっていると、公園の道に空き缶が落ちているのに気づいた。
男子はそれをトングで空き缶を掴み、ごみ袋に入れた。
どうやら、この男子は公園のごみを拾いに来たみたい。
たった一人でどうしてこんなことをするんだろう......
その理由はすぐに理解した。
もし誰もごみを拾わないと、公園はごみだらけになってしまう。
この男子は、公園で過ごす人たちに代わってごみ拾いをしているんだ......
でも......あの池の中に沈んでいるごみは......どうするんだろう......?
しばらく歩いていると、向こうから三人の人間たちがやってくるのが見えた。
ごみ集めの男子と同じ服装をしていて、手には缶ジュースが握られている。
三人は、私とごみ集めの男子とすれ違った時にクスクスと笑っていた。
私はなぜ三人が笑っているのかが気になった。
私の姿は三人どころか、ごみ集めの男子すら見えていないはずだから、
原因はこのごみ集めの男子にあるのかな......
気になったので、三人の後をついていってみることにした。
「あいつ、ほんとどうにかしているぜ!」
三人のうちの一人が笑いながら缶ジュースの蓋を開けた。
「朝早くごみ拾いしたって馬鹿らしいよな!」
「それな!!」
後の二人も同調するように缶ジュースの蓋を開ける。
「だいたいさ、女神さまとか意味わかんねえよなあ!」
「そうそう、おばあちゃんが言ってたとか、ただ騙されているだけだよなあ!」
「それな!!」
三人は手に持つ缶ジュースを飲み干し......
ぽちゃん ぽちゃん ぽちゃん
池へと投げ捨てた。
「まったく、愛想がつきるぜえ!」
「そんなに女神さまのことを慕うなら、池の中のごみもすべて取り除けよ!」
「それな!!」
これ以上三人を追いかける気にならなかった。
去って行く後ろ姿も見向きもせずに、私は池の中を覗きこんでいた。
先ほどの缶は、もうどこにあるのかわからなかった。
しばらく池を眺めていると、先ほどのごみ拾いの男子がやって来た。
男子は池の前の手すりに手をかけると、池の真ん中を見ていた。
私が少し瞬きをすると、池の真ん中に白い服を着た女性が立っていた。
そう......池の真ん中......水の上に立っていた......
「女神さま、もうそろそろ学校に行くね。
みんな笑っているけど、おばあちゃんは嘘をついたことがないんだよ。
だから、また明日くるよ」
池にたつ女神さまは微笑みを男子に向けていた。
決して男子の話をしているわけではないんだよね。
まだ、意思の持たない幻だから......
ごみ拾いの男子が去ると、池に立っていた女神さまの姿はなかった。
私は柵の内側に入って、幻の女神さまのように池の上に立ってみた。
下を向くと、ごみが沈んでいるのが改めてよくわかった。
男子はまた来ると言っていた。
それなら......いつかは女神さまも意思を持ったマボロシになるかもしれない。
意思を持ったマボロシになったとしたら、
女神様はどのような気持ちになるんだろう?
公園のこの有り様に怒りを覚えるのかな?
公園を気にしてくれるあの男子のことが気になるのかな?
それとも、気にすることなく受け止めるのかな?
今は意思を持たない幻である女神さまが気になったけど、
私はまた歩くことにした。
私の意思は、旅することだから。
いかがでしたか?
次回は13時15分~18時投稿予定です。
お楽しみに!