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第2話「歌手の幻」

 こんにちは、オロボ46です。

今回は人々が行き交う街から始まります。

それでは、どうぞ。

 車が走る街並みを眺めながら、私は歩道を歩いていた。

周りには人間たちがいろいろな方向へ向かっている。

そのうち、人間たちが横断歩道の前で止まっているのが見えたので、

私も一緒に並んでみる。


 信号が青になった。

人間たちが横断歩道を渡って行くので一緒に渡ってみる。

ふと横を見ると、車が止まっている中で止まらず走ってくる車が見えた。


キキーッ!!


 私はなぜか車の中にいた。

人間がハンドルを握る手まで汗が流れていたのがわかる。

 やがて、車はバックする。

すると、また横断歩道に立っていることがわかった。

他の人間の中で怪我をした者はいないようだった。


 そのうち、実体を持たないマボロシである私は先ほど、

車をすり抜けていたことに気づいた。




 しばらく歩いていると、どこからか歓声があげられた。

しかし、周りを見渡して見ても人々は気にすることなく歩いている。

それでも歓声は止まなかった。

 私は背中のバックパックを背負い直し、

歓声が聞こえてくる音の方向へ足を進めた。


 歓声の正体はすぐにわかった。人混みの中から女性が現れたのだ。

女性の周りでは人々が絶賛していた......

まあ、絶賛した人々は彼女が通りすぎると消えてしまったけど。

 どうやら、女性の行く先で生まれ、過ぎ去ると消えてしまう幻だったようだ。

何気なく見ていたが、それだけの為に生まれてすぐに消えてしまうなんて......

まあ、それが幻と言うものかな。


「まったく......いつまで妄想を続けているんだ......?」

後ろの方で声がした。

振り替えると、人混みの中に腕組しながら呟いている男がいた。

その男は、人間をすり抜けている......


 私はもしやと思い、男に近づいた。

「妄想し続けた所で、何も変わらないだろう?」

あの......

「ん? 空耳かな?」

すみません......

「また聞こえた......人間が俺を見えることはありえないはずだが......」

マボロシなら見えるよ......

「!!? 俺の姿が......見えるのか!?」

うん......私もマボロシだから......

「マボロシ......そうか、お前も心を持ったのか」

私は意思を持ったって思っているけど......

「そうか......」




 私たちは幻を産み続ける女性を追いながら、会話していた。

「あいつは歌手を目指しているんだ。

そしていつも自分がファンに囲まれている光景を思い浮かべて、

幻を産み出し続けているんだ。俺も前まではあの中の一人だったんだぜ」

そうなんだ......

「まあ、あいつはかなりの努力家ではあるんだがな......

そういつまでも妄想に頼るのは......」

ねえ......

「ん?」

努力家って言っていたけど、具体的にはどのぐらい努力しているの?

「そうだな......まあ、あいつに続いて行けばわかるさ」


 幻たちに囲まれた女性は建物の中に入っていった。

私はあの建物がどんな施設なのかをマボロシの男に尋ねた。

「あそこはカラオケ店だ」

から()()......店?

「......あ......ああ......、カラ()()店な。

簡単に言えば、歌を思いっきり歌える場所だな。

しかし......真面目な顔でありがちなダジャレを言ってもなあ......」


 マボロシの男がなぜ困った顔をしていたのか、私はわからなかった。




 カラあ......カラオケ店の中で女性は

カウンターに立っている人間と話をしていた。

「あそこの受け付けにお金を払うんだ」

マボロシの男が説明してくれていたが、私はその周りの幻が気になった。

なにやら袋の中身をガサゴソと取り出していたからだ。

「どうやら、応援の為の道具を取り出しているみたいだな。

やけに芸の細かい幻だよなあ......」


 女性は個室に入って行った。

私たちは続けて部屋に入り、

個室の中には一台のテレビとテーブル、マイク、そして画面のついた機械があった。

女性がその機械を操作するとテレビに文字が映され、

やがて部屋の中に音楽が流れ始めた。

 女性はマイクを手に歌い始めた。

それと同時に周りの幻たちは一斉に応援し始めた。

私は女性の歌が上手いのか下手なのかはよくわからなかったが、

とりあえずその場の雰囲気を楽しんでいた。




 いくつかの曲が終わった後、私はマボロシの男を見てみた。

何やら疑問に思っていた様子だったので、尋ねてみた。

「なんか......おかしいんだよなあ......

はっきり言ってまだまだ下手だけどさ......あいつ......いつの間に上達したんだ?」

前はもっと下手だったの?

「ああ、俺が初めて心を......お前の考え方なら意思を持った時......

あいつの歌が恐ろしく音痴だったって気がついたんだ。

それ以降......見ていられなくってカラオケにはついて行かずに距離を置いていた。

それが、久しぶりに聞いてみると前よりも上手くなっているんだ......」


 私は、なぜ女性が上手くなっているのかを考えてみた。

周りに応援してくれている幻たちがいるからかもしれない。

応援すると、自然と女性に視線が向く。

女性はその時の緊張を見つめ、毎回反省をして次に生かしている......?


 二人で真剣に考えている内に、次の曲が始まった。




 私たちはカラオケ店から出てきて、立ち去って行く女性と幻たちを見送っていた。

「なあ、お前はこれからどうするんだ?」

マボロシの男に聞かれて、私は旅をしていると答えた。

「そうか......俺も出てみようかな......

まあ、あいつがもっと......せめて人前でも恥ずかしくないほど

歌えるようになってからな......」

そう言いながら、マボロシの男は女性の方へと歩き始めた。

 いかがでしたか?

次回は12月4日(火)13時15分~16時投稿予定です。

お楽しみに

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