第1話「少女の幻」
こんにちは、オロボ46です。
皆さん突然ですが、幻を見たことがありますか?
誰かの姿だったり、幽霊だったり、とても信じられない光景だったり......
でも、幻は見ている人間の思い込みだと考える人もいますよね。
この物語は、心を持たない物が心を持ってしまう、フィクションによくあるお話......
意思を持った"マボロシ"が、我々の目に見えない内に生きているとしたら......?
少し、覗いて見ましょうか。
産まれたばかりのマボロシの旅の始まりを......
病室で、一人の少女が横たわっている。
肩まで長い髪を持つ十五歳のその少女は、
苦しそうにもせず、ただその時を待っていた。
少女はぼんやりと目を開けて病室を見渡した。
そして私という、幻を産み出した。
今まで病室で暮らしていた少女にとって、
旅をして、その目ですべてを確かめることが夢だった。
少女はいつも、自分が旅をしている姿を思い描く。
今よりも短めの髪で、大きな黄色いバックパックを背負っていた。
私は自分の姿を確認した。
少女が思い浮かべたままの姿が、自分の姿だった。
私は......少女の思い浮かべた姿の幻だ。
人間が自らの頭で産み出してしまう幻......私はその一種である......
少女は私の姿を見て驚くものの、すぐに頭を降って瞳を閉じた。
少女は私が存在するはずがないとわかっていたからだ。
私は存在するはずのない存在なのだから。
少女はぐっすりと寝ていた。
私は少女がまもなく死ぬことを悟っていた。
少女が死ぬ時......私はその後のことを考えた。
恐らく、消えてしまう......
消える......?
なぜそんなことを考えるの?
どうせ幻は、人間が幻と気づくと一瞬にして消えてしまうのに......
それじゃあ、なぜ私は消えていないの?
少女は私が幻であることに気づいた。
それに私が存在しない存在であることにも......
私は......どうして考えているの......?
どうして少女が死ぬとわかったの?
どうして自分が幻だということを自覚した?
どうして私は単語を並べて考えることができるの?
幻には意思も思考もあるはずのないのに......
なぜ......? どうして......? 何が起きているの......?
「あなたも、意思を持ったマボロシなのですね」
突然、声が聞こえた。
入り口を見ると男が立っている。男はその瞳で私を見続けていた。
あなたは......誰......?
無意識に私の口からそんな言葉が出ていた。
「これは失礼、私もあなたと同じ、マボロシでございます」
それじゃあ、あなたはこの子の......?
「いいえ、別の人間の幻でした。かつては......」
かつて......?
私が聞くと、男は笑っていた。
「あなたは何でも知りたがる性格なのですね。
それじゃあ順を追って説明しましょう」
そう言って男はベットの前の椅子に座った。
男はベットに横たわる少女の手に触れようとした。
だが、男の手は少女の手を突き抜けた。
「マボロシは物体をすり抜ける......そのことは知っておられますか?」
それはわかっている。幻なんて実体を持たない。
私は男にそう話した。
「それでは質問します。あなたはなぜ実体を持たないとお考えに?」
え?
「君が意思を持たない幻なら、
理解するどころか私の声すら反応しなかったでしょう」
どういう意味?
「意思を持ったマボロシは思考を持ち、
自分で考え、行動できるのです。例えマボロシを産み出した人間が死んだとしても」
人間が......死ん......でも......?
「......この方が死ぬことを考えたのですか?」
静かに頷く。
「ご心配なく。その位の意思を持てば
この方が死んでもあなたが消えることはないでしょう」
私は男の話を聞きながら少女を見た。
「あとそれから、今こうして違う人間から生まれたマボロシ同士で
話していますが......
幻であれば意思を持っていなくてもお互いを見ることができます。
話そうとすることを試みることができるのは、意思を持ったマボロシですけどね」
そう言いながら、男は「ふふっ」と静かに笑った。
「それでは、続きです。あなたは消えることはないでしょう。しばらくは」
それって、いつかは消えるって言うこと?
「可能性はあります。マボロシは意思を持つことで消えなくなります。
しかし、意思が揺らいでなくなってしまうと......」
消えてしまう......
「そういうことです。逆に言えば意思を持ち続けることが出来れば
永遠に生きることができますよ」
でも......意思を持ち続けるにはどうすればいいの?
「今、あなたはどのような意思をお持ちですか?」
私の意思......
私は少女の顔を見た。
私と同じ顔......正確には少女と同じ顔をした私だ。
この少女が旅をしている自分を想像した姿が、私だ......
私が今したいことは......この子の変わりに......旅をしたい......!!
「......見つかりましたか?」
私は再び頷いた。
「それを忘れないこと......それが意思を持ち続けるコツです」
すべてを話し終え、男は立ち上がった。
「それでは、私はこの位で失礼させていただきます。
今度お会い出来るときを......楽しみにしております......」
そう言い残して、男は病室から立ち去った......
それから、ほどなくして......
私を産み出した少女は息を引き取った。
幻であるはずの私は自身の存在が消えていないことを知り、
男の言っていたことは真実であることに気づいた。
私は、少女の夢を受け継いだマボロシであることを自覚し、
背中のバックパックを背負ったまま......病室を後にした......
いかがでしたか?
基本的には一話完結で進めたいと思います。
しばらくは毎日投稿しますが、
ストックがきつくなり始めたら日を置いて投稿するようにします。
次回は12月3日(月)13時15分~17時投稿予定です。
お楽しみに!