表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢七夜  作者: 文月六日
7/10

第六夜


 「ここは……どこだー!」


 三日前にとったばかりの運転免許に浮かれ、なけなしの貯金をはたいて中古の原付きを買った。ピカピカに磨いて新車同然になったその二輪に跨がれば、行き先なんて決めずに走り出したくなるのも致し方ないと思う。

 そう、家を出たばかりの時は思っていた。


 (ヤバイ、またお兄ちゃんに怒られる!)


 常に自由奔放な自分とは違い、家内で誰よりも生真面目な兄には叱られることも多かった。アレをしろコレをしろと細々と言われると煩わしくてしょうがないが、大半は自身に非があるので大きなことは言えない。それに普段がどうであれ今の状況は間違いなく自分が悪い。

 もう日はとっぷりと暮れて頭上には満天の星空が広がっていた。そろそろ夕飯の時間だ。今晩はすき焼きにすると張り切っていたので、恐らく普段よりも早めの夕食になるだろう。にも関わらず、今自分は全くどこにいるのか検討もつかない原っぱのど真ん中で途方にくれている。狭い獣道を探検家の如く嬉々として走っている時は楽しかったが、こうも先が見えないと焦燥感が凄い。しかも獣道のせいか最早来た道もどこだか分からない。前にも後ろにも進めないどん詰まりだ。


 「うぅ、泣きそう……」

 「どうされました?」

 「うわぁ?!」


 一人きりだと思い込んで、周りに誰かいるなど考えも及ばなかった。突然後ろから声を掛けられて比喩ではなく飛び上がって驚いてしまう。そして振り返って再度驚愕した。なぜならそこに立っていたのは人ではない。


 「カ、カカシ?!」

 「どうもー、案山子です」


 それは、綿の詰まった頭をゆらゆら揺らし、緑のチェックシャツの中で十字に組まれている木を軋ませ返事をしてきた。見た目はまさに、画像検索で一番最初に出てきそうな『ザ・カカシ』だ。それがこの見通しのいい田畑の影もない原っぱに、居た。

 どうも、と挨拶を返し、いやそうじゃないと自身にツッコミを入れる。あまりにも奇想天外でどこから尋ねればいいのか分からない。とりあえず重要なのは、先の独り言をどこから聞かれていたかということだ。


 「えぇっと、いつからそこに……」

 「ずーっとです。よく迷い込んでくる人がいるので、その道案内に立たされてます」


 ちゃんと役に立つ案山子なんですよー、とどこか間延びして答えてくれるそれに、私は「なるほどぉ」とやはり間延びして返す他なかった。とにかくこのカカシは突然現れた訳ではなく、居たことに私が気付かず勝手に盛大に独り言を漏らしていたということだ。恥ずかしい。

 どうしよう、穴でも掘って隠れてしまおうかとモダモダしていると、カカシは再度頭を揺らし始める。それにどういう意図があるのかは分からないが、ちょっと動きが怖いので遠慮願いたい。


 「星が落ちてます」

 「は?」

 「ほらぁ、沢山落ちてきました」


 カカシに言われて空を見上げれば、確かに幾つもの流れ星が頭上を駆け下りていた。流星群だろうか。とても綺麗で見入っていれば、カカシは声を少しだけ低くして急いだ方が良いかもと呟いた。


 「星が全部落ちちゃうと、行き先が分からなくなっちゃって帰れなくなるんですよ」

 「え、マジ?」

 「あの一番明るい星目指して、ひたすら真っ直ぐ進んでください。そうして海岸に出ると鴉がいるんで、彼について行けば大丈夫です」

 「カラス……」

 「ほら急いで、急いで!」


 カカシが急かすたびに轟々と山おろしのような強い風が吹く。エンジンを止めていた原付きに息を入れ、ライトがつけばその明かりは一番星と重なった。


 「よく分かんないけど、とりあえず進めば大丈夫?」

 「ええ、大丈夫です!」

 「オーケー、ありがとねー」

 「いいえ、どうぞお気をつけてー」


 ライトが示す先のまま、私はハンドルを握って風を切った。後ろをサイドミラーで覗いて見るが、とうにカカシは見えなくなってしまっていた。きっとまた誰かが迷い込んだ時のために、あの場所に一人佇んでいるのだろう。

 世の中には良いカカシがいるもんだ。次に会う機会があったら優しくしようと心に決めてただひたすらに直進する。頭上を駆ける星屑はその勢いを増していて、まるで空そのものを描かんとしているようだ。

 早くお家に帰らなきゃ。

 ようやく見えた海原に、間に合ったのだと安堵の息を吐く。そうして港へ入る道の脇、見つけたカラスに私は大きく手を振った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ