世界のことを知ろう
シーラちゃんに連れられ、俺は外に出る。
「はー……こんな大きな教会だったのか」
「そうですよー! この国一番の教会ですからね! 私の父は教皇で、政治にも強い影響力を持ちます!」
自分で言うのかよ。
「この辺りが城下町の中心ですから……ここから向かって北に王城があります」
「王城にはいずれ行かなきゃいけないのか……?」
「そうですね、私を娶る者が現れたと報告しなければならないので……」
聖女ともなれば苦労は多いようだ。
「あとは、大雑把に言えば向かって西に市場、東に宿場があります」
「主に市場で必要なものを買っていくことになるが、俺は無一文だぞ? 大丈夫か?」
「大丈夫です! 欲しいものがあれば私が買います!」
「それはいいんだが……それだとまるで俺はシーラちゃんに"寄生して"生きているみたいじゃないか、俺個人としても何かしらお金を稼ぐ手段が欲しい」
「上野さんは私に"寄生してて"いいんですよ! それともアレですか? 冒険者になりたいとでも……?」
「冒険者になりたいとは言わないが……女に"寄生して"生きるのは男のプライドが許さないんだよ」
といってもシーラちゃんしか頼れる人がいない状況、俺は最大限シーラちゃんに"寄生する"しかないのだが、いざこういう状況になると俺の男のプライドが許さなかった。
「とりあえず市場を見ていきます?」
「そうだな」
そう言うと、シーラちゃんは俺の手を引っ張り西側へ向かう。
「この辺りは何でも売ってるな、しかしまるで昔の八百屋とか肉屋みたいに専門店という形で分かれているみたいだ、スーパー的なものはないんだな……」
「すーぱー? 何かすごいことがあるんですか?」
「ああ……元の世界ではスーパーマーケットって言って八百屋とか肉屋とかがひとまとめになった商店があったんだよ」
「そうなんですか! それは便利ですね!」
シーラちゃん、異世界を見る能力があるっぽいのに理解してなかったのか。
それはそうと視線を感じる。
「……じゃない?」
「……だろ? あの聖女は……」
周りがひそひそと話をしているようだ。
国一番の教会の聖女様が見知らぬ男を連れている状況。これはすぐに噂になる。
その状況にシーラちゃんは目もくれていないようで、俺の手を引っ張りながら進む。
そして、ついに。
「あっ、シーラちゃん! その男はついに新しい旦那サマを連れてきたね?」
「そうなんです! 直に私と結婚する男性です!」
シーラちゃんが足を止めた店のおばちゃんとシーラちゃんが仲良く話している。シーラちゃんは常連客だろうか。
シーラちゃんは店のおばちゃんとずっと話しており、俺はずっと立っていることしかできなかった。
10分ほどして、長話が終わったようで。
「今日は祝杯でも挙げな! 今日の会計は安くしとくから!」
「ありがとうございます!」
ああ、昔の日本でもこういうのがあったな……
そう思いを馳せていたが、今はもう、ここにしか居場所はない。