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超古代文明も実は結構捨てたもんじゃなかった  作者: 星の王子さま
プルグヴィンギルの実
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第四幕 死の淵から

「うぅっ、泣ける。泣けるよね。うっ、うっ。」

「悲しいねー。」

「ほんと、悲しい話だねー。」


涙を袖で拭い、アポロンはにこやかに問いかけた。


「フィオナって言うのは?タナトスちゃんの地上での名前?」

「いかにも。ケルト語で白く明るいという意味をもつ。名前として使用されたのは地上で(われ)が初じゃった。」


トニは目の前で姿を消し寸秒で現れたかと思うと、その手には小さな果実を付けた枝を携えていた。

何の変哲もない赤い果実は、小ぶりのリンゴの様な形をしていた。


プルグヴィンギルの実。

数百年に一度その実を付け、()れる頃には果実は芳醇な香りを放つ。

食された果実は体内で変異が起こり、遺伝子暗号を構成するDNAに働きかける。

猛毒となった果実はその身を(むしば)み、その者の能力を消失させ死に至らしめる。

しかし、果実に選ばれし者は蘇生され、本来よりも増した能力を得ることができ、固有の能力を制御することも可能と伝えられている。

フィオナに当てはめるとするならば、アトランティス人特有の天変地異を無意識に起こしてしまう自然調和能力にあたるだろう。


「それが禁断の果実、プルグヴィンギルの実なのですね。」

『およそ200年前にアポロンが食べようとしたのを私が止めたのだ。当時のまま残しておいた。』

「タナトスさんー!どうぞっ!」

「タナトス様、あなたならこの試練、乗り越えられると確信しております。」

「ま、待たれよ……、(ぬし)ら正気か。死ぬかもしれない実を我に食べさせようとしておるのか!」

「死ぬかもっていうか、死んじゃうよ。」


満面の笑みでアポロンはフィオナの口元にプルグヴィンギルの実を運んだ。


「ほらっ、フィオナちゃん。アーンしてアーン。」

「よっ、よせ!よさぬか!こんな物食べずとも我は能力を取り戻せる!強くなれる!やめ!やめるのじゃ!」

「タナトス様、いえ、フィオナ様。この実の力を授かれば、賢者の石を手に入れることも不可能ではなくなるのです。どうかご辛抱を。」

「や、やじゃ!いやじゃ!」


ジャンヌとアポロンに羽交い締めにされ、フィオナは口の中に果実を放り込まれ、キャサリンによって口を押さえられた。


「もごっ、もごご、ひとごろしめがー!」

「よし、飲み込んだね。」

「協力してくれてありがとうアポロン様ー!」

「おのれ……、き、きさ、ま、ら……。」


フィオナが力尽きると同時に、ラウラとナタリアも地に伏せた。

回帰(リグレス)が解かれた者は、その時点で生命の終わりを告げるのである。


「ナタリアちゃんとラウラさん、死んじゃったのー?」

『うむ。本来ならば死に絶えることになる。』

「本来ならば、とはどういうことでしょう。トール神。」

『アポロンがラミアの血を浄化したときにタナトスの回帰は解かれた。よってこの者たちは普通の人間として蘇ったのだ。』

「じゃあどうして倒れちゃったのー?」

「回帰が解かれたとは言っても共鳴しちゃったかな。あははっ。でも大丈夫、生きてるよ。」


アポロンは倒れるラウラとナタリアの胸元に耳を当てオッケーサインを送る。
























庭園の風景は季節を感じさせなかったが、地上では冬を迎えようとしていた。

ジェット気流に乗った寒風は天界にも吹きすさんだ。

目の前の馬小屋にフィオナを寝かせ目覚めを待ったが、蘇る様子はなかった。


「ジャンヌちゃん、フィオナちゃんが蘇ったらどうするの?オリハルコンを取り出して過去へ渡るのかい?そうしたらどのみちフィオナちゃんはまた死んでしまう。神には死の概念が存在しないからね、消滅する事になるのかな?」

「まさか、そんなことは致しません。」

「そんなこと、よもや誰にもできまい。」


馬小屋の藁の上に寝かせられ、目を瞑ったまま言葉を放つフィオナ。

ふわりと宙に浮き、赤い瞳を開けると同時に地面に降り立った。


「主ら、覚悟はできておるな。」

「まあまあ、落ち着いてよフィオナちゃ」


フィオナが指を鳴らすと、アポロンは馬小屋の壁を突き抜けて外まで飛んでいった。

後を追うように壁の穴から外へ飛び出す。

目を回したアポロンの襟首を掴み持ち上げる。


「世話になったのうアポロン。今度は主が封印の地で暮らすがよい。」


トニとジャンヌは目を合わせて頷いた。


『やはりアレを使わないとだめなようだな。』

「はい、トール神。」


ジャンヌはフィオナがいる方向へ手を伸ばし、何かを念じるように力を込めた。


「う、なんじゃ。チカラが……、抜け……ていく。」

「は、ははっ……、フィオナちゃん。左手首を見てご覧よ。」

「なんじゃこの腕輪は。何をしたのじゃ貴様ら。」

「その腕輪はね、ボクが昔アヌビスに付けた物と同じ、能力を封印する腕輪さ♪」


真鍮で作られた腕輪は、ぼうっと怪しい光を(にじ)ませフィオナの腕を締め付けていた。

1,500年程前に玄奘げんじょうという僧侶が、仙人である孫悟空の粗暴を躾けるために用いた緊箍児(きんこじ)という輪と相似している。


それもそのはずである。

アポロンは過去に地上の宗教を学んでいた時に、釈迦(しゃか)という人物と交流があった。

釈迦は没後、釈迦如来(しゃかにょらい)という仏に転生した。

地上に蔓延(はびこ)っていた妖怪や霊獣の力を抑制するために、緊箍児の作成方法を教えたのがアポロンであった。


『案ずるなタナトス。その腕輪ごときで全ての能力は封じられることはない。今のお前の能力は封印の地(アルカディア)へ送られる前と同等のレベルだろう。』

「ふむ。不思議と気分も落ち着いた。すまなかったアポロンよ。」

「いいんだよ。ボクはこれくらいじゃビクともしないから。」


壊れた壁の隙間から静かに出てくるジャンヌとキャサリンは裾の木くずをほろいフィオナの前で(ひざまず)いた。


「おかえりなさいませフィオナ様、参りましょう。」

「超古代時代へー!」

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