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超古代文明も実は結構捨てたもんじゃなかった  作者: 星の王子さま
プルグヴィンギルの実
3/9

第三幕 忘却の彼方から

数十分が経過した。

雲の上にあるアポロンの庭園は雨が降ることもなく、四六時中強い日差しが降り注ぐ。

トニの雷槍により雨雲を呼び定期的に雨を降らせることによって、庭園の植物は生い茂っていた。


茂みの奥からアポロンが戻ってくる。

その手には何やら石版のような物を携えていた。


「さ、脳筋のタナトスちゃんのために石版画(リフトグラフ)講座を始めるよっ。」

「なんじゃ(ぬし)(われ)の事を小馬鹿にしておるのか。今ここで借りを返してもよいのじゃぞ。」

「落ち着いて下さいタナトス様、アポロン様の説明を聞けば先程の疑問も解決されるのではないでしょうか。」


大鎌を構えるタナトスを(なだ)めるラウラ。

憤るタナトスをお構いなしにアポロンは石版に向かって指を動かし始めた。

指でなぞられた石版からは文字とも記号とも呼べる文様が浮き出てきた。


「ふむ、やはりそういうことでしたか。」

「なーるほどねー。」

「その仮説が正しければ、我々レムリアの血族の能力で五次元移動を自由に行えるということでしょうか。」

「アポロン様の説明わかりやすいねー。」

『どうした、タナトス。』


下唇を噛み、もどかしそうに石版を見つめるタナトス。

石版には数本の線が刻まれ、そこを交差するように移動する二人の人物が描かれていた。

ラウラ姉妹である。

ラウラ姉妹はナタリアが潜在的に持つ五次元移動の能力で、戦火を避けるように異なる時間軸へと移動した。

時間軸を平行に移動したところで時間の進み具合は変わらず、その場その場の状況は変われど最終的な結末は変わることはなかった。

ジャンヌがトニに説いたように、別の世界で生まれたジャンヌ姉妹とラウラ姉妹は、外見や境遇が同じだとしても対消滅が起こらない以上、別の人物同士ということになるのだ。


「どうしたんだい?タナトスちゃん。まだわからないところ、ある?」

「ない!なんとなく理解した。もうよいぞ、その石版を下げるのじゃ。」


爽やかなスマイルを周囲に投げかけ、アポロンは石版を地面に倒した。

そしてジャンヌの方へ向き直る。


「それで?話は戻るけど、どうしてキミたちはココへ訪れたんだい?」

「タナトスちゃんのオリハルコンを取り出す道具なんて、ココには存在しないよ?そもそもそんな道具自体見たことも聞いたこともないや。」

「違うのー、タナトスさんの能力を回復させるために来たのー。」

「はい、プルグヴィンギルの実を頂戴しに参りました。封印の地(アルカディア)にはまだ実っていなかったものですから。」


かつてレムリアの三賢人ホーグ、クエーサー、プルグヴィンギルが命と引き換えに、アトランティス人を封印した地に(そび)える三本の大木。

それぞれの木から()る実には異なる効果がある。

ホーグの実は能力を半分ほど回復させ、クエーサーの実は他の物質に構築(クリエイト)できる。


「プルグヴィンギルの実なんて何に使うんだい?」

『まさかお前達、タナトスに食べさせようなんて考えているのではあるまいな。』

「ご明察の通りです。トール神、我々はタナトス様にプルグヴィンギルの実を提供し、アトランティスの能力を最大限に引き出してもらおうと考えております。」

「そんなことしたらタナトスちゃん暴走しちゃうかもしれないよ?」

「いいえ、決してそのようなことは起こりません。タナトス様と私たちの目的は同じなのですから。」

「ほう。主ら、我のことを調べたのか。」

「またまた頑固に人類を滅ぼして地球を創り直すとか言わないでよねー。」


ジャンヌは首を振り、右手を高らかに掲げ大旗を掴んだ。

そして皆の意識の中にとある物質の記憶を流し込んだ。


神と人間が共存していた時代。

紫色の長髪を束ねた人間の青年の姿があった。

青年には類稀(たぐいまれ)な科学の才能があり、アトランティス大陸の消滅後、製造が不可能とされたオリハルコンを高純度で精製することを可能としていた。


それに興味を持ち、青年の下へ訪れるようになったのが若かりし日のタナトスである。


初めはオリハルコンから生まれる膨大な力の獲得が目的であったが、青年のひたむきに研究に励む姿や、死神として忌み嫌われる存在のタナトスに好意的に接する彼の穏やかな性格に、恋心を抱くようになった。


純度の高いオリハルコンは、他の金属に吸収させることにより計り知れない強度を得ることができ、採掘や農具として利用され高値で取引された。

人類の知能ではその能力を最大限に活かすことは容易ではなく、過去のアトランティス人のように兵器へと扱われることはなかった。


やがて二人は結ばれ、歳月は流れた。


タナトスは地球の寿命があと数十年であることを告げ、壮年となった彼は地球を救う研究に没頭した。

しかし、オリハルコンを体内に吸収した者がその身を費やし、地球を救う要になっていることを告白することはできなかった。


死神であるタナトスは歳を重ねても老いることはなく、一方の彼は老人となった。

老人はやがて病に倒れ、死の間際にオリハルコンを自身の体内に吸収させた。


「私はもうじき死に絶えるだろう。その前にお前の能力でここにある全てのオリハルコンを私の体を通して(コア)へ送っておくれ。」

「主……、知っておったのじゃな。オリハルコンの使い道を……。嫌じゃ、我は主と共に、この星の最期を見届けよう。」

「時間がないんだ、私の最期のお願いだ。愛してるよ、フィオナ。」


庭園に再びの静寂。


「これがあなたの体に眠る、最後のオリハルコンの記憶です。」

「懐かしき男よのう。ロキ……。」

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