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「りくおにいちゃん、おきて」
甘い、そしてどこか冷たさを含む声。
俺は毎日この声に起こされる。
「おはよう、りぃ」
「……りぃってよんでいいの、ママとりぃだけっていつもいってる。」
「ははっ。ケチだなあー、梨紅は。」
梨紅は頬を膨らませて俺を見る。
それがたまらなく可愛くてついつい、駄目だと言われる呼び方をしてしまう。
あとは、ただただ紛らわしいからというのもあるんだけれど。
俺の名前は神田 陸
彼女は神田 梨紅
響きだけだと、区別がつかない。
それは俺と梨紅が本当の兄妹ではないからだ。
一年前、まだ幼稚園児だった梨紅が母親の陰に隠れてやってきたのが最初の出会い。
“リク”という名前の響きが同じ子どもがいるということも、今の両親を引き合わせた要因の一つだったらしい。
俺は母さんが死んでから、ここまで育ててくれた親父に感謝しているし、再婚によって親父が少しでも楽になるなら大賛成だった。
それは梨紅も同じだったみたいだ。
梨紅の父親は梨紅の母親と、育児の方向性の違いから口論になって出ていったらしい。
幼いながらそのことに気づいているのか、
再婚についても「ママがしあわせになるならいい」と言う。
誰も反対しない再婚話。
親父たちはすぐに籍を入れた。
そして俺たちは兄妹になった。