私と私の好きな人。
「第一王子が。殺された………!?」
第一王子が隣国から結婚相手をもらうという話が国中に広まって、さほど時間がたたずにその第一王子が隣国のお姫様の従者としてついてきた魔族に殺されたという話が広まった。
第一王子、あの日パレードに出ていた人が本当に第一王子なのであれば、その死んだ人というのはカールさんということになる。
「なん、で……………。」
そりゃただの平民である自分とこの国の王太子であるカールさんとでは到底釣り合わない。
そんなことは知っている。
だからこそ、あの日雨の中、せめて私に誠実であろうとわざわざ謝りに来てくれたカールさんには幸せになってほしかった。
それにたとえ王太子でなかったとしても貴族の方のお嫁さんになれるなんて、そんなのあるはずない。
どれだけ自分の心が痛もうと、涙があふれても、そもそも身分が違いすぎたのだと諦められた。
好きだという気持ち自体はなくすことはできないけれど、物語の主人公のように好きな人と結ばれるかもしれないんなんていう浅はかな夢は諦められると、そう思っていたのに。
「なの、に………………っ、どうして死んじゃうんですか…………っっ!!」
涙があふれて止まらない。
「あの、姉ちゃん。ジル兄ちゃん来たけど…………。」
王太子の悲報を聞いてからずっと気落ちしていた私に気を使ってくれていた弟が、そっと扉を開いて私に声をかけてくる。
カールさんはジルさんのことを自分の部下だと言っていた。
だとしたら、きっとジルさんもただの騎士ではなく、もっと位の高い人なのだろう。
待たせるわけにもいかないので涙で濡れた顔をタオルで拭い、玄関に行く。
「あの、ジルさ、ま………。ご、ごようけんはなんでしょうか。」
「なんだ、随分と固いな。」
急に口調を改めた私にジル様は眉根を寄せた。
「その、カール、様が王太子様、なんですよね?でしたらジル様も………。」
「ふむ。まあもう隠す必要もないからな。俺はジルベスター・マーキス。マーキス侯爵家の現当主だ。ヘレン・ベルガモット。俺についてきてもらうぞ。」
いつになく真剣な表情でそう告げたジルさん、もといマーキス様に逆らえるはずもなく付いて行った馬車の中。
「久しぶりだな、ヘレン。俺様に会えなくて寂しかったか?」
「カール、さん?」
そこにいて、いつもの笑顔で私に手を挙げているのは、私の名前を呼ぶのは、ほかでもないカールさんだった。
「なんだ。幽霊でも見たような表情だな?」
「な、んで…………っっ!!」
だって、カールさんは死んだはずだ。
死んでいなかったとしても、自分のもとに戻ってくる必要はないのに。
馬車の入り口で未だに固まる私にカールさんはふっと苦笑いを浮かべて私の手を引いて馬車に招いてくれる。
「なん、で。だって、あなたはっ。」
「お前を愛していると言っただろう。ヘレン、お前はまだ、俺のことを好きでいてくれているか?貴族でも、王太子でもなんでもない。ただのカールという名前の男を、お前は愛してくれるか?この国での地位も、これから与えられる名誉も、そのすべてを捨ててでも俺はお前との未来を選びたい。」
せまい馬車の中、上体を少し私のほうに傾け手を取ってくれる。
カールさんには珍しく緊張からかじっとりと手汗をかいていて、それがカールさんが本気で言っているのだとわかった。
「私も、あなたが好きです。あなたが、王子様ならあきらめなければならないと、そう思っていたんです。でも、あなたが私のことを好きだと言ってくれるなら、私はあなたと一緒にいたいんです。」
掴まれていた手を引っ張られ、カールさんの膝の上に乗り上げる。
「ヘレン。お前を、愛している。」
私の手を掴んでいたカールさんの片手が私の後頭部に回り、そのまま引き寄せられた。
「…………しょっぱいぞ。」
「カールさんの、せいですよ…………っ。」
「はっ!ならお前が流した涙の分だけ存分にイチャイチャするか?」
至近距離でカールさんの赤いキラキラした優しい目に見つめられ頭が沸騰しそうだ。
「き、きょうはもうおしまいです!!!」
気はずかしくなってカールさんの方に手をついて距離を離すも、再び引き寄せられてキスをされた。
「んうっ!!?」
「ふっ。まだだ。まだ、お前を感じていたい。」
「なっ!も、もう駄目です!!!」
「ほお?理由は?もちろん、俺を納得させられるだけの理由があるんだろうな?」
鏡を見なくても自分の顔が真っ赤になっていることがわかる。
そんな顔を見られたくなくて手で顔を隠すが、カールさんはそれすら楽しんでいるようだった。
ニヤニヤとからかうような表情に、余計に羞恥心がこみ上げるのだ。
「もう!もう!!カールさんの馬鹿!第一!なんで死んだって言われてるカールさんがここにいるんですか!?それに、もう王太子じゃないって、どういうことなんですか?」
「ああ、じゃあその話をするか。」




