私が嫌いだった人。
お久しぶりでございます。
内定がもらえて就活が終わったので更新再開します。
実はもう少し前に就活自体は終わっていたのですが、話を書き貯めていたので更新が遅くなりました。
私の初恋が散ってから数日、また今日もジルベルトさんが家にやってくる。
まだ心臓はズキリと痛み、正直ジルベルトさんと話すのが少し辛い。
「……ジル!!今日は俺は疲れているから貴様が子供らと遊んでやれ!!」
いつもは率先して子供たちと遊んでくれるカールさんがそんなことを言い出すので思わずその顔を見上げると、いつになく真剣な顔をしている。
「……いいだろう。今日は何をするんだ?」
「ジルおにいちゃんと遊ぶならミランダおままごとがいい!!」
「やだよ!!ままごとなんて!!ジル兄さんって強いんでしょ!?カール兄さんが言ってた!俺ちゃんばらがいい!!」
「…………ままごとにちゃんばら組み込むか……。」
ワイワイといつもとは違う雰囲気で遊び始めた子供たちをぼんやりと眺めていると、がしりと腕を掴まれる。
「おい。何をぼさっとしているんだ。俺様を待たせるな。行くぞ。」
「え?あ、ちょっと!!!」
カールさんにグイグイと腕を引かれてその場から連れ出される。
「ちょっと!カールさん!?なんなんですか!!?」
声をかけてもずんずんと歩いていって大通りに連れ出され、辻馬車に乗らされてどんどん家から離れていく。
「もう!!なんなんですか!!?」
「…………この間、ジルに何を言われた。」
馬車の中で、ぼそりと呟くようにそう聞かれ、思わず口を噤んで黙ってしまう。
「……はっ。大方ジルに振られたか。」
からかうようにそう言われ、カッと頬が熱くなり怒りがふつふつと湧いてきた。
「あなたにっ!!!」
いつの間にか俯いていた顔をばっとあげ、涙が浮かぶ瞳で目の前に座るカールさんを見て、言葉を失う。
「……なんで、カールさんがそんな顔をするんですかっ。」
カールさんは泣き出しそうな、そしてどこか寂しそうな顔で微笑んで私を見ていた。
「いや……。貴様がジルに懸想していたことは知っていたが……。こうやって見せつけられると、俺でも傷つくな…………。」
「なに、言って……。」
「俺が、この俺がだぞ。たかだか一平民に過ぎない貴様に想いを寄せていると、言外に言っているんだ。」
視線を私からそらし馬車の窓から見える景色を見つめながらカールさんがそういった。
うまく言葉が処理できずに黙っていると、不機嫌そうに眉根を寄せたカールさんが横目で睨むように私を見てくる。
「……黙り込むな。こんなこと言った俺が恥ずかしくなるだろうが。」
「あ、ごめん、なさい……。でも、そんな……え。」
言葉が見つからず口ごもる私にカールさんはふっと口元を緩めた。
「別に今すぐ貴様とどうこうなりたいわけじゃない。貴様、俺のことが嫌いだろう?」
にやりと怪しく笑われ、今度は私がバツが悪くなり顔を背ける。
「ふんっ。それでいい。まあ貴様の失恋に漬け込んで、少しこの俺様が何故貴様に惚れたのかの話をしてやろう。」
少し懐かしそうに目を細めるカールさんの表情は、今まで見た中でもなぜかかっこよく見えた。
「まあ……有り体に言ってしまえばたまたまだな。」
「……は?」
前言撤回。
カールさんはやっぱりかっこよくなんてなかった。
「……なん、ですか、それ。つまり、私じゃなくてもよかったってことですか?」
鏡なんて見なくても私の顔が今不機嫌そうにむくれていることが自分でもわかる。
そんな表情でカールさんをじとっと睨みつけると、嬉しそうに笑われた。
「はっ!世の中すべてたまたまから成り立っているだろう。貴様と初めてあった日は、たまたま俺がお忍びで平民街を歩いていて、たまたま曲がり角で貴様の静止を振り切ったマルコが俺にぶつかり、たまたま俺を知らない貴様が俺に『あなたの不注意でもあるんですよ!』なんて説教をたれて……。たまたまそんな態度の貴様が俺の心に響いた。」
「俺が寛大な心の持ち主じゃなかったら今頃貴様の首は飛んでいたぞ。よかったな、たまたま俺様の心が広くて。」
ニヤリとした笑顔でそうからかわれ、さっと顔が赤く染まる。
カールさんに初めてあったあの後、私はこの話をした他の友人や仕事先の奥さん達から口々に『貴族にそんなことを言うなんて信じられない』と言われ、『そのお方が優しい方でよかったね』と言われた。
あの日の私は無知で、この国で貴族に逆らうことの意味を理解していなかった。
それこそカールさんに逆らった私だけではなく、関係のない弟や妹たちも殺されていてもおかしくないと周りから聞かされた時、生活のために仕事しかしてこなかった自分の無知さ加減を本気で悔いたほどだ。
それこそその後にカールさんがジルベルトさんを引き連れてやってきたときは体の芯が凍る心地がし、出会い頭に土下座をしたのは今となってはいい思い出だ。
その時のことを思い出して、羞恥に染まる頬を抑えてカールさんを下から睨むように見上げるとクスリと笑われる。
「なんだ。不服そうな顔だな。」
「…………当たり前です。告白するならもっと詩的に言ってくれないと女の子は靡きませんよ。」
ほんの少しいじけたように言って見せると、頬を抑える私の手の上からカールさんの大きな手が重ねられた。
「…………そうだな。俺は、元来こういう言葉はみじんも信じてない、が……。貴様に初めて会ったときに頭に浮かんだ最初の言葉を言ってやろう。」
添えられた手にはそんなに力がこもっていないにも関わらず、私はカールさんのその赤い目から視線を逸らすことができないでいた。
「運命だ。偶然も必然と思わせるほどに、それほどに俺の心は貴様に惹かれた。貴様に、良く思われていないことは知っているが………。だからと言ってその運命を諦める気はさらさらないぞ。覚悟しろ、ヘレン。」
おいとか、貴様とか、そんな風にしか呼ばれことがなかったのに、
「ん?そろそろ貴様の家の近くか。降りるぞ。」
顔を赤くしている私をよそに、カールさんは辻馬車を止めて降りてしまう。
「まあ、俺様が嫌いでもエスコートはさせろ。」
先に馬車を降りたカールさんに手を差し伸べられてふわりと微笑まれると、まるでカールさんが本当の王子様みたいでとくりと心臓が高鳴った。
「き、今日だけですよ。」
「十分だ。」
手を重ねると、ぐいっと引っ張られてそのまま胸の中に抱き留められる。
その瞬間に、何か温かいものが額に触れた。
「カールさん!?危ないじゃないですか!!!」
「なんだ、今日だけしかエスコートできんなら最大限に有効活用すべきだろう?」
そのままカールさんは家に帰るまでその手を離してくれることはなかった。
「あーーー!!ねえちゃんとカールにいちゃんが手つないでるー!!」
「きゃーー!お姉ちゃん、カールお兄ちゃんと結婚するの!?」
「はっ!?け、結婚するわけないでしょ!!?」
目ざとくつないでいた手を見つけた弟妹に騒がれて腕を引き抜くと、何の抵抗感もなくするりと抜けた。
思わずカールさんを見上げると、心底うれしそうな顔でにやにやと笑っているのを見て、一気に顔が熱を帯びる。
握る強さが緩くなった訳では無い。
なのになんの抵抗もなく抜けたということは、つまりは、私の意志でカールさんと手をつなぎ続けていたということで。
「今日は、もう閉店ですっっ!!!!」
パニックで自分でも何を言っているのかわからないが、その赤くなった顔を隠すように家の中へと走りこんだ。
嫌いな人。………嫌いだった人。今は、よくわからない。




