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乙女ゲームの攻略キャラだけど許嫁を愛でたい。  作者: 籠の中のうさぎ
未回収イベントを男の俺が回収する。
90/99

私が好きになった人。

「それでは、ジルベルトさん。申し訳ないんですが弟達をお願いします。」


「わかった。」

「俺には何も言葉がないのか?」


「……行ってきますね。」


「おいコラ!!!俺様を無視するなっ!!!」


ぎゃーぎゃーと声を荒らげる大きな子供みたいな人の言葉をスルーして、ニッコリと笑顔をジルベルトさんに向ける。

呆れたようにカールさんにヘッドロック(というらしい)を決めて静かに見送ってくれるジルベルトさんに自分の心が浮き足立つのがわかる。



私、ヘレン・ベルガモットには、最近好きな人ができました。




事の始まりは数週間前。

町中でぶつかったある貴族の男性……。カールさんというらしいのだが、彼が突然ジルベルトさんを引き連れて我が家にやってきた。


「俺様の名前はカールだ。貴様に会いに来てやったぞ。」


高圧的な態度で私と弟妹達にそう告げてきたその貴族の男を、


「そういう態度はやめろ、この阿呆。」


そう言って後ろからその男性の頭を脇に抱えるように拘束した方(後にこれをヘッドロックというのだと教えて貰った)こそが、ジルベルト・ロット様。私の初恋の相手だ。


カールさんも背が高いのだが、それよりも頭半個分ほど高いジルベルトさんは、そこら辺の男性よりもがっしりとした体型をしている。

しかし決して太いわけではなく、程よい筋肉、と言ったらいいのだろうか、ぱっと身ではスラリとした体型に見える。

いつも冷静で気遣いのできるジルベルトさんに、弟妹達の世話に勤しんできた私が恋に落ちるまでそう時間はかからなかった。


どうやらカールさんの部下らしく、彼にいつも振り回されている。

その様子を見るたびに、金持ち貴族の道楽に付き合わされていて可愛そうだという気持ちと、そんなお遊びにジルベルトさんを付き合わせているカールさんに嫌悪感にも似た感情が募る。





弟妹達を養うためにほとんど休みなく働かなければならない私にとって貴重な休みの日。

その日は幸運なことにジルベルトさん達がやってくる日と重なった。


「おい!今日も来てやったぞ!!」

「別に来て欲しいなんて言ってません。」


ジルベルトさんに来てもらえるのは嬉しいけど、カールさんは別に嬉しくもなんともない。


「はぁ……。俺がカールと弟妹達は見ておこう。仕事に行ってきていいぞ。」

「い、いえっ!!!今日はお休みをいただいたんです!」


疲れたようにため息を吐くジルベルトさんにそう言われ、思わず食い気味でそう答えてしまい頬に熱がこもる。


「…………そうか。」


恥ずかしさに俯く私を特に気にした様子もなく一言そう言うと、ジルベルトさんは近くにある花壇の石段に腰掛けた。


「あーー!!カール兄ちゃん!!今日も遊んでくれんの!?」

「ああ、マルコか。特別だぞ?」

「特別っていつもそう言って兄ちゃん遊んでくれるから特別じゃねーじゃん!!」

「なんだ、なら今日はベンとはあそばん。」

「ええ!?やだ!!!!」


弟達がわらわらとなれた様子でカールさんに駆け寄っていく光景に思わずぽかんとしてしまう。


「カールおにいちゃん……ユリアも。あそぶ。」

「ん?珍しいな。よし、それなら今日は最初にユリアのやりたいことをやろう。」


そう言ってカールさんが一番末の妹のユリアをヒョイっと抱き上げ、ユリアもカールさんに懐いているのかぎゅっと首に抱きついている様子に驚く。


「……ユリアも、カールさんに懐いているんですね。あんなにシャイな子なのに。」


ぽつりとそうつぶやくと、近くにいるジルベルトさんがほんの少しだけ口角をあげて口を開いた。


「あいつも子供みたいなものだからな……。俺の子供たちと会ってもあんな感じですぐに仲良くなったな。」


「え、」


ジルベルトさんの口からこぼれたその言葉に思わず動きが止まる。


「……ジルベルトさん、結婚していらっしゃるんですか?」


「ああ。子供も二人いる。」


そりゃそうだ。

こんなにかっこよくて、気遣いができる貴族の男性に奥さんがいないはずがないんだ……。

でも心のどこかでもしかしたらどこかの物語のヒロインみたいに初恋の人と、それも身分違いの恋でも叶うと思っていたのだ。


「そう、なんですか……っ。」


目からこぼれ落ちそうになる涙を悟られないように少し俯いて唇を噛み締める。



「……ジル!!貴様も子供たちと遊ぶのに混ざれ!!」


漏れそうになる嗚咽を必死に押しとどめていると、カールさんがそう叫ぶ声が聞こえた。


「はぁ……。わかった。」


隣にいたジルベルトさんが立ち上がり、私から離れていく。

この時ばかりはカールさんのわがままに救われた。



「っ、私、家事してきますっ。」


泣いてる姿なんて見られたくなくて返事も聞かずに振り返り、家に駆け込む。

普段プライバシーなんて存在しないこの小さな家でも、弟妹達が全員外に出てしまえば存外静かで、私はその静寂の中で散った初恋にはらはらと涙を流した。

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