危機に陥りました。
先日の暴走事故の後、目に見えてアイリーンに避けられる。辛い。
会えないのも辛かったけど、避けられるのはもっと辛い。
ただ顔を染めてアワアワと視線をさまよわせて逃げる様子は可愛い。避けられてるのが俺じゃなかったら純粋に可愛いと思う。辛い。
そんなこんなであの日以降アイリーンに触れられないまま学園に戻ることになった。見送りに来たアイリーンは今日も俺と目を合わせてくれない。あの日の俺をぶん殴ってやりたい。
「あの、い、行ってらっしゃいませ……ジル様。」
真っ赤な顔の彼女は可愛いけど下を向いているせいで顔がよく見えない。
「……すみません。貴女に俺の気持ちを押し付けた。忘れてもらっても、構わない……。」
本当は覚えていてほしい。欲を言えば受け入れてもらいたい。でも貴女に避けられるなら俺の気持ちなんて捨ててもらって構わない。
「行ってきます。」
願わくば、冬の休暇の時にはおかえりと笑顔を向けてもらいたい。
何か言いたげなアイリーンを残して馬車に乗り込む。
「はぁ……。」
「ジル?随分と落ち込んでいるがどうした?らしくない。」
今はキラキラに返事する気力もない。
「……休暇から帰ってきて以来ですね。何かありましたか?私でよければいつでも相談に乗りますよ。」
にっこり笑うマティアス。なまじ顔が中性的なだけあってまるで聖母だ。もちろん女神はアイリーンだが。
今度からおかんと呼ぼう。
「……恋煩い……ではないのか?」
キラキラにバレた。ドヤ顔で言うな。どうせ当てずっぽうだろ。でもちょっと悔しい。
あと教室が俄にざわついた。なんだ、うるさいぞ。
「……己の精神の弱さに辟易しただけだ。」
……嘘はついてないぞ。
後日アイリーンから珍しく素直な文体で、貴方の冬休暇が待ち遠しいと手紙が来た。
俺の機嫌は瞬く間に回復し、友人達はほっとしていた。
その手紙にキラキラに以前教えてもらった維持魔法を何度も重ねがけしたのは言うまでもない。
リーンハルト=キラキラ
マティアス=おかん
友人の扱いがひどい気がするけど、彼なりの愛情なんです。




