第一王子の恋愛相談だそうです。
まさかのカミングアウトに皆があっけにとられていると、第一王子が顔を少し赤く染めながら話し始めた。
「先日街に視察に行ったときにだな、無礼にも俺に泥だらけの格好でぶつかってきた子供がいてな。」
「まさかその子供にっ!?」
「そんなわけがないだろう。その子供の、姉を名乗る人物だ。」
そこまで言うと女性陣は顔を赤らめてきゃいきゃいとはしゃいでいる。
しかし男性陣、特に身分違いの恋のつらさを知っているテオドールと、王族の義務を知っているリーンハルトは顔を曇らせる。
「それは、平民の女性に恋をしたと、言うことですか………。」
「……そうだ。」
「カール=ハインツ様、私ごときが口にするのはおこがましいとは思いますが……。身分違いの恋というものは……。」
「それもわかっている。何のために貴様らを呼んだと思っているんだ。どうやって貴様のような平民と変わらん男爵家の男と庶子とは言え伯爵家の女が結婚できたのか聞かせろ。」
それで合点が行った。
なぜ第一王子がミシェリアと会いたがったのかの理由がだ。
「で?なんでそれをはじめ俺に話そうと思ったんだ。」
そもそもがそれだ。
そんな恋愛の相談を俺にする理由がわからない。
「あぁ……それはなんとなくわかる。ジルとアイリーン嬢の仲の良さは有名だからな。」
「そうだ。俺は誰が何と言おうとあの女が欲しい。」
きりっとした表情でそういう第一王子に女性人はキャア!と黄色い悲鳴を上げ、俺は思わず溜息を吐いた。
「俺と第一王子じゃタイプが違いすぎる上に、そもそも攻略相手の趣味趣向やら性格やらがわからない限りは何とも言えない。」
「はいはい!恋愛の相談なら私も乗りますよ!!なんて言っても、もともと平民だしね。」
「わたくしも相談に乗りますよ!恋愛相談には女性の意見は必要ですものね!」
「そう簡単な話じゃないっ!!」
きゃあきゃあとはしゃいでそう言う二人をリーンハルトが怒鳴りつけた。
びくりと身体を震わせた二人に思わずリーンハルトを睨むと、気まずげに視線を外された。
「すまないアイリーン嬢、ミシェリア。だが、兄は王位継承者だ。私とは違い、血筋的にも兄上以外考えられない。」
「………王位は貴様が継げばいいだろう。前回の魔王討伐の件で貴様の評判はあがった。母上は反対するだろうが、いざとなれば俺が押さえつける。」
「っ!!そんな無責任なことがあるかっ!!なら今まで兄上を次期国王にと推してきた人たちはどうなるんですっ!!?」
声を荒らげるリーンハルトの頭にチョップをする。
「何をするんだっ!?」
「落ち着け阿呆。声を荒らげても意味がないだろう。それと、第一王子……もうカールでいいだろ。王位継承の問題は国王に伝えてあるのか?」
「……リーンハルトのほうがふさわしいと進言はしてある。」
「なら問題はお前とリーンハルトの間の話だろう。好きな女がどうこう言う前にちゃんと話し合ってそのあたりの決着をつけろ。それから、カールが王になるにせよならないにせよ王妃のことは何とかしてやれよ。」
「チッ。わかった。」
案外素直な第一王子改めカールがこくりと頷いたことで事態は一応収束し、改めて席について夕食の続きを食べるが、どうにも重苦しい雰囲気のせいでアイリーンの作ってくれた食事がいつもよりおいしくない。
しょんぼりとして食べるアイリーンの手を握る。
「アイリーン。今日の料理もうまい。」
「ジル様……。ありがとうございます。」
ふわりと笑うアイリーンは、それでも普段より元気がなさそうだ。
握った手を持ち上げて口元にもっていき、そっと触れるだけの口づけを落とす。
「本当だ。アイリーンの料理は最高だよ。………今回のはリーンハルトとカールが悪い。」
「ジル様っ!?」
「否定できないな。すまない、アイリーン嬢。」
苦笑いを浮かべて謝るリーンハルトと反してカールはばつが悪そうにそっぽを向くだけだ。
恋愛の相談に乗る前にこの性格を直す必要があるようだ。
「カール。悪いことをしたなら謝れ。お前が好きなのは平民の女性だろう?平民の女性に俺たち貴族をの常識で地位を振りかざせば嫌われるぞ。」
そう言ってやればむっと口をとがらせ、気まずそうにアイリーンを見つめる。
「あの、カール=ハインツ様に謝っていただくなんて、」
「アイリーン、甘やかすのはよくないぞ。恋愛は先に惚れたほうが負けなんだ。それならカールがその平民の女性に合わせなければ到底両想いなんてなれるわけがない。」
「………わる、かった。」
ものすごく不服そうな顔で一応謝ったカールにまあ及第点だろうと満足げにうなずく。
「ほんとにジル君って怖いもの知らずって言うか、無謀っていうか……。」
「一国の第一王子を呼び捨てにしてさらには謝らせるのなんてジルベスター君くらいだろ。命知らずというか、なんというか………。」
テオドールとミシェリアに口々にそう言われた。
「まあ何かあったらアイリーンと子供を抱えて逃げればいいしな。貴族位に執着があるわけじゃないから正直お前たちがいなかったら早々にこの国を出てもよかったんだがな。」
「今更ジルほどの人材を逃がすわけないだろう。」
「あー……ジル君はチートだしねぇ。」
「おいおい、貴様が国外に出たら俺はどうすればいいんだ。」
「知らん。好きにしたらいいだろう。」
「薄情だな。お前の嫁と子供を誘拐した輩を捕まえてやったというのに。」
その会話を皮切りに、冗談交じりに会話が進み落ち込んでいたアイリーンもどこかほっとした様子でくすくすと笑っていた。
横目でアイリーンの幸せそうな笑顔を盗み見ながら俺自身もふっと笑顔を漏らした。




