友人だそうです。
「……………なぜカール=ハインツ第一王子がここにいらっしゃるのですか?」
「なんだ、俺がここにいては不都合があるのか?」
「……………いえ。」
なぜかリーンハルトの執務室にカール=ハインツ第一王子がいる。
リーンハルトからはどういうことだと言わんばかりの視線を受けるが俺だって知らん。
「で、ジルベスター・マーキス。俺のものになる気になったか?」
その言葉にバッとリーンハルトが俺の顔を見てくる。
やめろ、俺にもよくわからないんだ。
「カール=ハインツ様、何度言われようとも私の答えは変わりません。」
きっぱりとそう言うと、あからさまにリーンハルトがほっと息をついているのがわかる。
しかし、それに対して面白そうに第一王子は笑った。
「俺も、なんと言われようとも考えを変えるつもりはない、いっただろう?貴様は必ず俺がいただくと。」
机に座っている俺の顎をぐいっと持ち上げてそう宣言した第一王子に殺意さえ湧く。
俺をホモ展開に巻き込むんじゃない。
その時かすかに左手につけた指輪が振動した。
それはつまり俺の愛しの女神が今この宮殿にいるということを表している。
だがこの状況で第一王子を置いて女神に会いに行くのは避けたい。
貴族としての義務?
まさか。単純に必要以上に嫁を他人に見せたくない。
「おい、俺様が目の前にいるのにほかの考えるとはいい度胸だな?」
「………すみません。」
とりあえず謝ってはおいたが、正直今すぐ帰ってほしい。
「仕事があるので、失礼います。」
このまま拘束されてはいつまでたってもアイリーンに会えないので第一王子の拘束から抜け、部屋を出ようと扉を開けると、
「はぁん!?なんだキミは!!ボクにぶつからないでくれるかい!?」
「………………すみません。」
「ん?なんだブロスカ、お前も来たのか。」
めんどくさいのが増えた。
扉を開けたその先には蛙野郎がいた。
ぼすりと俺の懐にぶつかってきたくせにやたらと高圧的な態度にイラつく。
アイリーンがすぐそばにいるんだよ!!いいから俺の女神との逢瀬を邪魔するんじゃねぇ。
俺の様子にアイリーンが来ていることに気付いたのかリーンハルトがはらはらとしているのが手に取るようにわかる。
助けろ。俺を女神の元に連れて行ってくれ。
「はぁん?キミ、カール=ハインツ様を置いてどこに行くつもりなんだ?」
「……人に会う約束があるので。」
「ほぉ?俺様よりもその人物を優先するのか。」
「…………以前から、約束していたもので。」
二人から詰め寄られ機嫌がぐんぐん急降下していく。
その様子にリーンハルトが胃のあたりを抑えている。
イライラとしながら、いっそこの二人を伸したほうが早いんじゃないか?と物騒な方向に意識が向き始めた時。
ふわりといい香りがし、扉のほうからコンコンとノックする音がした。
「あの、よろしいですか?」
「しつれいしましゅ!」
蛙と第一王子に阻まれてはいるものの、聞こえてきた柔らかな声の主がわかり一気に視界が華やいだ。
「ああ、アイリーン嬢!よく来てくれた。入ってくれ。兄上、ブロスカ公爵、すまないが道をあけて差し上げてくれ。」
その言葉に邪魔だった二人が素直に道を開けたことによりやっと会えた俺の女神と天使の姿に思わず笑みがこぼれる。
「アイリーン。今日はどうしたんだ?」
近づいてヴィルを抱き上げると、嬉しそうに顔をふにゃりと緩める息子の額にキスをする。
「あ、あの。ヴィルがジル様にどうしても会いたいと言って聞かないので連れてきたのですが………。出直したほうがいいでしょうか?」
第一王子と蛙を見て困ったように眉尻を下げるアイリーンにまた気分が下がり始める。
「い、いや!問題ない。入ってくれ。ジル、隣の部屋を使うといい。」
リーンハルトが気を利かせてそう言ってくれたのだが、むすりとした第一王子が俺の背後に周り首に腕を回してくる。
「おい、ジルベスター。その女は誰だ。」
拘束するように腕を回されたせいで動けない。
だが前世で腐のつく女性だったらしいアイリーンはこのシチュエーションに少し頬を染めている。
複雑な気分になるよなぁ………。
「あ、わたくしジルベスターの妻のアイリーン・マーキスと申します。」
「ヴィルヘルム・マーキスでしゅ!」
あい!っと手をまっすぐ上に伸ばして俺の腕の中にいるヴィルが俺の肩から覗き込むように見下ろす第一王子に臆せず挨拶をした。
可愛すぎかよ。
「ふむ、いい返事だな。俺はカール=ハインツ・フォン・ストウハーフェンだ。」
「カーリュ=ハインチュしゃま?」
「…………カール、ハインツ、だ。」
「ヴィル。かーる=はいんつさま、ですわ。」
「……………カーリュハインチュしゃま!!」
「もうカーリュで構わん…………。」
「あい、カーリュしゃま!」
まだ舌足らずなヴィルにとって第一王子の名前は難しいらしく、最終的に第一王子が諦めたようだ。
やっぱりうちの息子は天使かもしれない。
「よし、決めたぞ。ヴィルヘルムと言ったな?」
「あいっ!」
「貴様俺の側仕えになれ。ついでにお前の父親も勧誘しろ。」
「う?」
「やめてください。」
よくわかっていないヴィルから言質をとろうとする第一王子から守るようにヴィルを抱き込むと、その様子を見ていたアイリーンがくすくすと笑う。
「なんだ、女………。なにがおかしい。」
「あ、申し訳ございません。ただ、ジル様と仲がよろしいんですね。それにしてもジル様、いつから第一王子とお友達になられたんですの?」
「とも、だち………?」
アイリーンの言葉に眉をひそめた第一王子に、わずかに体を固くする。
「そうか!俺とジルベスターは友人か!それはいい。友人は助け合うべきものだしなぁ?」
にやりと笑顔を浮かべる第一王子に思わず表情が沈む。
どうやら俺はカール=ハインツ第一王子に友人認定されたそうです。
この時、俺は自分の背後の第一王子にばかり気を取られていたせいで、すぐそばにいた蛙野郎が悔しそうに、憎たらしそうに俺たちを見ていたことに気付けなかった。




