最後のフラグがたったそうです。
あのミシェリアの結婚式でのブロスカ公爵の失言の後、二人は逃げるように帰っていった。
おめでたい雰囲気を壊すのも悪いと思いその日は黙っていたが、その後王宮での勤務が始まると、日に日に空気がピリピリしていくのがわかった。
「………リーンハルト、聞きたいことがある。」
「ん?なんだ?珍しいな。」
思い悩むのも面倒なのでいっそのこと聞いてしまえばいいと切り出すと、書類に目を向けていたリーンハルトが顔をあげる。
しかしその顔には疲れの色がはっきりと見て取れた。
「……最近、王宮内での空気がおかしいようだが心当たりは?」
「………なんのことだ?」
一瞬動きをとめて顔をあげたリーンハルトの真剣な表情にある種の確信を得る。
「先日の、ミシェリアとテオドールの結婚式の時にピーホッグ公爵子息とブロスカ公爵子息と話をした。どうやらカール=ハインツ様の即位後の話のようだったが?………俺に関係があるなら教えてほしい。」
そう言うとわずかに眉根を寄せ、やがて諦めたように溜息を吐いた。
「はぁ………。あの時に話したのか…。実はな、兄上からジルをよこせと言われている。」
椅子の背もたれに背中を預けて目頭を押さえてそう言うリーンハルトは相当疲れているようだった。
しかしそんなことよりも俺をよこせの意味が分からなくて詰め寄る。
「おい、どういうことだ。騎士団に入っているならともかく……、おれはお前個人に仕えているだけで王族に忠誠を誓った覚えはないぞ?なんでそんな俺を欲しがるんだ?」
「それが頭の痛いところだ。先日の魔物の大量発生の時の活躍に興味を持ったらしい。断ってはいるが………、あの兄上のことだ。諦めるとは思えんな。」
俺も思わずこめかみを手で押さえる。
「面倒だな……。」
「面倒だろう……?知ったからにはジルにも対応してもらうぞ。」
「…………聞かなかったことには?」
「ふっ。残念だができんな。」
ただでさえ最近帰るのが遅くてソフィアとまともに遊べてないのに。
というよりメイドや執事がいるとはいえアイリーンに育児の一切を押し付けている今の状況が許せない。
「つまりは、だ。さっさと解決すればいいんだな?」
「………間違ってはいないが、乗り込むのはやめろよ。あれはそばにいる身からしたら心臓がいくつあっても足りん。」
やろうとしたことを先にくぎを刺されて思わず動きをびたりと止めた。
「……………ジル?」
じとりとした目で見られ、思わず顔をそらす。
「………俺からは接触しない。それでいいだろう?」
「ああ、必ずだぞ?」
と言ったようなやり取りをしたのがつい先刻だ。
「ジルベスター。貴様、俺のものになれ。」
「……………お断りします。」
「ほぉ?この状況でそう言うのか?」
首周りにファーのついたマントを着たカール=ハインツ第一王子に、俺は今壁ドンをされて迫られている。
やめろ。ほんとにやめろ。
お前の行動は過去最高にホモっぽいぞ。マジでやめてくれ。
カール=ハインツ第一王子よりも俺のほうが身長が高いので、壁に追い詰められた状況でもあまり危機感はないのだが、いかんせんこのままガチホモルートに進まない保証もないので逃げ出したい。
それから、カール=ハインツ第一王子に金魚の糞のごとくついて回って居たらしいピーホッグ公爵子息とブロスカ公爵子息はそれぞれおどおどと俺を見たり、悔しそうにハンカチを噛んでいる。
見てるなら助けろ。ほんとに。
「私の何が気に喰わんのだ?あの弟よりもよっぽどいい待遇をしてやろう。」
そのいい待遇で集まってきた人材が蛙と豚のジュニアたちなら世も末だな。
「いえ、私はただ妻と子供たちと暮らせればいいので。そのポストは真に望むものにお与えください。」
「………どうしても、俺のものにはならんと、そう言うのか?」
だからその言い回しをやめろ。
「………私の主は後にも先にも妻一人です。カール=ハインツ様の望むようなことができません。」
正直にそう告げると、明らかに不機嫌そうな顔をされる。
「ふむ………では、例えあの弟が王位継承戦で負けることになっても構わぬと、そう言うのか?」
「むしろ、リーンハルトは王位につくことは望んでいないのでカール=ハインツ様が次期国王でよろしいかと。」
そう言うと面白くなさそうな顔を一瞬した後、心底楽しそうに微笑んだ。
「ふむ。だが俺はお前が欲しい。あの弟が王位に興味があるかないかは別として、お前は必ず俺がいただく。覚悟していろ。」
よりいっそうホモっぽいせりふを言い放ち、ばさりとマントを翻してカール=ハインツ第一王子は俺から離れていった。
ついでに蛙野郎に思いっきりにらまれたので、こちらも眼光で威圧するとすぐに逃げていった。
ついに、王位継承の話が出てきたということならばリーンハルトのイベントが本格的に始まるということだ。
「まったく、問題なく終わってくれたらいいんだがな………。」
たぶんそう簡単にはいかない問題に大きなため息を一つはいた。




