魔王に会うそうです。
「ちょ、マーキス様!!今度は帰ったらダメですよっ!!?」
「そうですよ!!!こきでジルにいなくなられると何かあった時に困ります!!」
「マーキス先輩、流石に今回は……っ!!」
俺がアイリーンに会いたいと呟いたら他の面々に取り押さえられた。
「流石に魔王城目の前にして帰ったりしない……。」
少し溜息混じりに答える。
俺だって流石にボス戦の前に仲間を置いていったりしないっての……。
「ジル……、本当だろうな……?」
それなのに誰からも信用されてないってどういうことだよ……っ!!!
今までの行動の結果だとは思うが、流石に微妙な気分になる。
「なんじゃ。五月蝿いと思うたらこんな所にまで人間が居ったのか……。」
むすっと眉根を寄せていると、俺たちの少し先にすっと人影が現れた。
全員がすぐさま臨戦態勢を取り、その人物と向かい合う。
「誰だ。」
漆黒の髪に闇を溶かし込んだような黒い瞳。
爛々と光るその目に言い知れぬ恐怖を感じる。
雪のように白い肌、そして身体から伸びるスラリとした手足に豊満な女性の象徴。
耳は先がツンと尖って少し長い。
そしてそのすぐ上に生える羊のようにクルンと丸まった角。
「ん?なんじゃ、妾に会いに来たのであろう?第126代目魔王、マルシベーラ・エルルケーニッヒじゃ。」
俺たち5人は気さくに名乗る女から目を離さずいつでも動けるように構える。
「気軽にマルちゃんとでも呼んでくれ。」
そう言ってニッコリと笑う女。
「っ、誰がそんな名で呼ぶものかっ!!」
リーンハルトがそう吠えるが、目の前の女はひるむ様子もなく少し寂しげに笑う。
「そ、そうか……。すまぬ。なにぶん人と話すのは初めてなのだ!な、何か失礼なことをしてしまっただろうか……?」
しょんぼりと眉尻を下げてこちらを伺う魔王。
……諸悪の根源に見えないな。
「ここに来るまでの間に魔族に襲われた。……マルちゃんの指示じゃないのか?」
「ジル!?」
4人からは何やってるんだと言わんばかりの表情で見られたが、女魔王がどうしても悪いヤツに見えずマルちゃんと呼んでやると、パァっと顔を明るくさせた。
ついでに周りに花が飛んでいるようにも見える。
「お、おお!!ま、魔族だな!うむ、人間がこちらに向かっておるから偵察に1体送ったぞ!……しかし彼奴未だに帰ってこぬのだ……。」
「…………恐らくそいつなら俺の仲間に手を出したから倒したぞ。」
もしかしなくてもあの魔族だろう。
俺がそう言うと、魔王ことマルちゃんは衝撃を受けたようで目を見開いて驚いて、すぐに申し訳なさそうにわたわたし始めた。
「な!?す、すまぬ。妾はただ様子を見てこいと言っただけなのだ…………。け、怪我はなかったかっ!!?」
その言葉に実際に襲われたマリアは一歩前に踏み出し距離を詰める。
「はぁ!?あんたが送っといて怪我はないかってどういうことよ!!」
「う!ほんとに戦わせるつもりはなかったのだ!!ただ……人が来るなら、ゆ、友人とやらになれはしないかと……思って…………。」
目に涙を溜めてうるうると見てくる魔王に罪悪感を覚えたのかマリアがうっと言葉をつまらせる。
「と、ともかく。あなたが進んで我々を襲ったというわけではないのですね?」
「う、うむ!」
「なら、魔物はどうなんだ?それもお前の指示じゃないのか?」
ギデオンが睨むように魔王を見てそう聞くと、魔王はキョトンとした表情で首を傾げる。
「??魔族は妾の管轄だが、魔物は違うぞ?あやつらは動物の一種だからな。単純に今が繁殖期なのであろう。」
「ふむ……。そうか、ならばこちらの勝手なおもい込だったというわけだな。すまないマルシベーラ嬢。」
しばらく思案していたリーンハルトだが、魔王の様子から嘘を付いていないと判断したのか柔和な笑顔を浮かべる。
「い、いや!こちらも家の魔族が迷惑をかけたからお相子じゃ!!」
胸の前で手をわたわたと振ってそう言う魔王に、先程まで敵意をむき出しにしていたギデオンとマリアも微妙な表情を浮かべている。
それに気がついたマティアスは苦笑いを浮かべて二人の肩をぽんっと叩いた。
「ギデオン、マリアさん。お二人なら根も葉もない噂に翻弄される方の気持ちがわかるでしょう?確かに、魔族を送ったのは彼女かも知れませんがそれと魔物の発生はまた別の話ですよ。」
そう諌められハッとしたのかバツの悪そうな表情になる二人。
「すまない……。」
「あの、あたしもごめんね?」
「え!?あ、いや、妾も魔族を送った非があるのだ!そんなに謝る必要はないぞ!?」
互いに根は素直なんだろう。
すぐにお互い謝りあっている様子を見ていてむしろ嬉しくなってくる。
……そうか、これが成長か。
家のヴィルもこんな風に純粋に育って欲しいものだ。
何となく親目線で暖かく見守っていると、マルちゃんと目が合う。
するとすぐに顔を染めてぱっと視線を外し、またチラリとこちらを伺ってきた。
「?どうした……?」
「ふぁっ!!?あ、その、お主は……、妾を魔王という存在で区別しなかったのが新鮮でな……。その……、名を、聞いても良いだろうか?」
「……ジルベスター・マーキスだ。」
「そ、そうかっ!!じ、ジルベスター……、ありがとう。」
ふわりと笑うマルちゃんはその色彩も相まって非常に親しみやすい。
単純に美人だし、きちんとありがとうとごめんなさいができるいい子だと思う。
よし、マティアスとくっつけてみるか!
「友達が欲しいなら俺たちと一緒に行くか?俺の家は妻子がいるけどそれでもよければ、だが。なんならマティアスとか部屋空いてないか??」
「え!?」
「じ、ジルっ!!?」
「どっちにしろ魔王倒さないとこの旅終われないんだろ?で、魔王を倒しても魔物は減らない。それならマルちゃんにも手伝ってもらって魔物を減らして、一緒に勇者として帰ったらいいんじゃないか?」
目を見開いて驚く面々に、とっさに考えた適当な理由をぽんぽんと出してそれっぽく提案してみる。
「わ、妾は……迷惑でなければ一緒にいたいな……。ゆ、友人というものに興味があるのだ!!」
「ええ、私も別に屋敷に部屋の空きはあるので来ていただいても構いませんよ。ジルの家にはアイリーンさんがいるのですから私の家の方がいいでしょう。」
「ふむ……。確かに、このメンバーで魔物の数を減らすのは骨が折れるから人手は多いほうがいいな。」
「僕も構わない。勇者一行の中に黒髪が二人もいれば、イメージは良くなるだろうし、……悪いヤツには見えないからな。」
「あ、あたしもいいですよ!!あんたのことは黙っとくし、な、なんならあたしが初めての友達になってあげるっ!!」
というわけで、パーティーに魔王改めマルちゃんが加わりました。
臨月までには帰れそうです。




