嫁と息子に会いに行くそうです。
結局あの後ほかのメンバーの説得がすんだ、というよりは自分の意見を通した後、俺は空間転移魔法をフル活用して王都にある自宅に向かっている。
結論から言うと愛の力はすごいな…。
自分で言うのもなんだが、消耗しきってはいるものの本当に飛べるとは思っていなかった。
「じ、ジル様!!?ど、どうなさったんですの!?」
「とうしゃま!!あっこ!」
「ヴィル、おいで。アイリーン、詳しくは中で話そう。立ちっぱなしじゃしんどいだろ?体調は大丈夫か?つらいことは?」
腕を伸ばして抱っこを求めてくるヴィルを抱きかかえ、少しおなかの膨らんだアイリーンの腰を抱き寄せて倒れてしまわないように安定させる。
屋敷にいる使用人たちも驚いた様子で俺をぎょっとした目で見てくるが、まあジルベスター様だからしょうがないみたいな目を向けられた。
よくわかってるな。
「旦那様、後でお茶をお持ちいたします。」
「ありがとう。」
家令の男にそう言われ、遠慮なく俺はヴィルとアイリーンを連れて自室へと向かう。
「そ、それで?まだ魔王討伐はすんでませんよね?ど、どうしてジル様がここに??」
困惑した様子のアイリーンをそっとソファに座らせて、冷えないようにブランケットをかけてやる。
そのすぐ横にヴィルを抱えたまま座り腰に腕を回して引き寄せた。
「アイリーンとヴィルに会いたくなって帰ってきた。」
「え!?そ、そんな、大丈夫なんですか……?」
心配したような表情を浮かべるアイリーンに苦笑いを浮かべて頭をなでる。
「むしろアイリーンとヴィルに会えないほうが大丈夫じゃない。会いたかった。」
「ジル様………。私もですわ。会いたかったです。」
「とーしゃまー!ヴィルも!」
ばっと手を上にあげて主張するヴィルが可愛い。
最近大人の話す内容もだいぶ理解できるようになってきたらしいヴィルは、俺とアイリーンの会話に入ろうとしてくる。
うにうにと柔らかい頬を触りながらヴィルの相手をすると、嬉しそうにキャッキャと笑っている。
正直、何か月もあってないと、ヴィルに忘れられるのではないかと心配になっていたがヴィルはどうやらそんなことはなくしっかりと俺のことを覚えてくれていたらしい。
「ところで、何か困ったことはないか?どんなことでもいい。俺がここにいられるのも数時間だ。」
俺がそう言うと、少し困ったように眉尻を下げてアイリーンが頬に手を当てる。
「アイリーン?何があった?」
「あ、その………実は、ピーホッグ公爵が…………。」
「……あの豚野郎がどうした?」
俺やリーンハルトたちを魔王討伐の旅においやった豚野郎の名前を出され、一気に機嫌が急降下する。
「その、ジル様がいないのなら………俺とどうか、と………。」
「ほぉ………?」
爵位的には相手のほうが上だが、いざとなったら武力闘争も厭わないぞ。
俺から女神を奪おうとする者には制裁を。
アイリーンは俺の嫁だ。
「………臨月までとか言ってられないな…。すぐにでも魔王くらい倒して帰ってくる。アイリーンはしばらく窮屈かも知れないが屋敷でヴィルと一緒にいてくれ。」
「ええ、わかりましたわ。…………ジル様に、お会いできてよかったです。一人だと、心細かったの……。」
よほど心細かったのかほんの少し目に涙をためるアイリーンが痛々しくて、ちゅっと瞼にキスをする。
「俺が守る。何があってもだ。アイリーンとヴィルが安全に暮らすためなら俺はどんな困難でも乗り越えるさ。」
俺の言葉にふわっと微笑んだアイリーンが俺のほうに体を預けた。
「ジル様と結婚出来て、本当に良かったです。大好きです。」
「俺もだよ、アイリーン。愛してる。」
互いに見つめあって、ほんの少し笑いあう。ゆっくり顔を近づけてキスをしようとしたのだが、
「ヴィルも!かーしゃま、とーしゃま、すきーー!!」
久しぶりに両親のそろったことでテンションが上がっているのか、ヴィルが俺やアイリーンに勢いよく抱き着いてきた。
夫婦二人、甘い時間とはいかなかったが、親子三人ほのぼのとした時間は過ごせた。
夜になってヴィルを寝かしつけた後、俺はアイリーンにだけ別れを告げてまたリーンハルトたちの待つ旅の最前線へと飛ぶ。
「ジル様、気をつけてください。必ず、帰ってきてください……。」
僅かに目に涙を浮かべるアイリーンを抱きしめる。
「俺がアイリーンとヴィルと、これから産まれてくる子供を残して死ぬわけがないだろ。死んだとしてもアンデッドになって帰って来る。」
「ふふっ。アンデッドのジル様を見たらまたヴィルがはしゃぎますね。」
他愛もない会話をしても、アイリーンの心の奥底にある俺の死への恐怖は取り除けない。
取り除く方法はただ一つ。
「魔王なんてすぐに倒してやる。なんてったって、この国一番の魔法使いギデオンと、この国一番の騎士である俺がいるんだ。全員無事で帰ってくるさ。」
未だに不安そうな顔をするアイリーンから一歩離れ、離れ難い気持ちを振り切るように空間転移魔法で飛ぶ。
「じ、ジル!!帰ってきたか!!よかった。で、会えたのか……?」
俺に真っ先に気づいたリーンハルトが駆け寄ってくる。
「…………ぞ。」
「な、何ですか?」
「マーキス先輩……?」
ぽそりと俺がつぶやくと、マティアスやギデオンも心配そうに伺ってくる。
「今すぐ魔王を倒しに行くぞ!!!!」
「「「「「はぁっ!!!?!?」」」」」
流石に止められた。




