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乙女ゲームの攻略キャラだけど許嫁を愛でたい。  作者: 籠の中のうさぎ
未回収イベントを男の俺が回収する。
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距離が接近したそうです。

「ちょっとギデオン!!あたしのまえに立たないでよ!!」


「チッ!お前は回復だろ!?攻撃は僕らに任せて下がってろよ!!」


「お前らグダグダ喋ってねぇで仕事しろ!!マリア!俺の回復怠るんじゃねぇ!ギデオン!お前俺がヘイト集めてんのに高火力の魔法使うんじゃねぇ!!!」


ぎゃーぎゃーとさわぐギデオンとマリアを怒鳴りつけながら迫りくるコボルトの群れを切り伏せた。



「おい、マリア、ギデオン。そこに座れ。」


戦闘が終わってもいまだにいがみ合っている二人を座らせる。

この魔王討伐の旅が始まってから何度目かはわからない説教タイムが始まった。


「さて、ジルが説教をしている間に私たちで野営の準備をしようか…。」

「そうですね。それにしても、ギデオンもマリアさんも懲りませんね……。」


 マティアスとリーンハルトがいつもの光景に苦笑いを浮かべながら野営の準備をはじめた。


「今回の旅の目的は言ったよな?第一にアイリーンの臨月までに王都に帰ること。第二に全員生きて帰ること。第三に魔王を倒すことだ。」


「えっ。」

「そうですね。」


マリアが驚いたように声をあげ、ギデオンがすなおに頷く。

何か問題があるか?


「そこで俺が策戦を考えたよな?俺が盾役で前線に出てヘイト……相手の注目を集めるから、そのうちに俺以外で相手を倒せって言ったよな?その時に俺以外の奴に敵の目が向かないように高火力の魔法をバンバン出すなとも言ったよな?」


やっていてよかったゲーム。

前世でたまにやっていた何とは言わないがそういう系のネトゲの戦略を使ってみたのだが、リーンハルトとマティアスはうまく順応してそれぞれ魔法や剣やらでうまいこと敵を削ってくれたのだが、問題はギデオンとマリアの二人だ。


なぜか張り合いまくるこの二人は、高火力の魔力をバンバン使うわ、回復職のくせに俺の回復を後回しにするわで正直邪魔でしかない。


俺が一人でマティアスとリーンハルトと自分の回復を担いながら敵が仲間のほうに流れないように適度に全体を攻撃しつつ、仕留められるものは仕留めていくほうが効率いい気がする。


「とりあえず、お前らが仲悪いのは知らんがそれで邪魔になるのは迷惑だ。しばらく二人で反省してこい。薪拾いと、食料調達行ってこい。」


いわゆる戦力外通知。

ついでにこの二人がくっつけばいい感じのケンカップルになるんじゃないか?

そうなればいいのになぁ……。


俺がそんな思惑も含めてそう告げれば、互いに互いを見て嫌そうに顔をゆがめる。

そんな顔しても俺は許さないぞ。回復で傷は治るとはいえ痛いものは痛いんだよ。



ちなみに、このマリア・フラウという女だが、実は原作には名前の出てこないモブだ。

もともと原作では学生時代にこの魔王討伐に行くのだが、その時学園内でギデオンが怪しいんじゃないの?と噂をする生徒の一人。


本来なら魔王討伐隊に含まれるような役柄ではないのだが、そこは起きた年が違うのもあって巻き込まれたようだ。


テオドールが言っていた俺以外の女をあてがえばいいのではないかという案を実行するのにはちょうどよかったんだが……。



「マーキス様!!なんであたしがギデオンと組まないとダメなんですか!?そ、それならマーキス様との方が……っ!」

「おい!!僕だってお前みたいな能無しよりマーキス先輩と組みたいんだぞ!!」


「うるさい、さっさと行ってこい!!!!!」


ふたりして俺にひっついてくるのはほんとにやめて欲しい。

なんなんだ本当に。

原作終わってからの方が俺モテてないか?モテ期なのか??


喜べねぇ……。






「まったく……、お前のせいでマーキス先輩に怒られただろ。」


「は!?何であたしのせいなのよ!!」


あたしことマリア・フラウはイライラとしていた。

それもこれも全部この目の前のギデオンとかいう忌子のせいよ!!


黒い髪に赤い瞳なんて伝承にある魔族の姿にそっくりじゃない!!

黒髪は魔力の高い証だなんていうけど実際にこいつが戦闘で使っている魔法くらい私でも使える。

もっといえばマーキス様なら同レベルの魔法を使いながら戦ってるわ。


何もすごいやつなんかじゃない。


それなのにマーキス様と仲良さげなのがムカつくのよ!!!!


「おい!!マーキス先輩は僕とお前ふたりで採取と薪拾いをやれって言ったんだから僕から離れるな!!」


「はぁ!!?なんであんたがあたしに命令するのよ。あんたがあたしについてきたらいいでしょ!!」


「あ、おい!!!!」


後ろから聞こえてくるギデオンの声を無視して森の奥に奥にと入っていく。

するとさっき振り切ってきた黒髪が自分の前方に見えた。


はぁ!!?先回りしてまで普通する!!?



「ちょっとギデオン!!あんた、なん……で……っ。」


「ァあ、オ前が魔王サマの言っていタ人間か……。」


ぞくりと背筋が凍る。

漆黒の髪に射干玉の瞳。


人間?まさか!こんな禍々しい気配を持つはずがない。

魔物?そんな生易しいものじゃない。



「魔族……っ!!」


「殺シます。」


ぐっと相手が加速し、眼前に敵の手が迫ったのに足は縫い付けられたように動かない。


思わずぐっと目を瞑った瞬間、強い力で後ろに引っ張らた。



「このっ!!バカマリア!!諦めんなよ!!!」


「増えタ。」


気づいた時にはギデオンの腕に抱えられ、眼前に迫っていた魔族の手はシールドに阻まれていた。


「僕がこいつの気を引きつけるからお前が攻撃しろよ。それから、今回ばかりは僕も加減なんてできないから僕の前に来るんじゃないぞ。」


真剣な顔で魔族を見つめる赤い瞳とあたしと言い合う時よりもぐっと低くなった声にドキリと胸が高鳴った。


とくとくといつもより早く脈打つ心臓を服の上からぎゅっと握りしめる。


「マリア!!ぼーっとするな!!!」


眉根を寄せて苦しそうな顔をするギデオンにハッとする。


べ、別にときめいてなんかないしっ!!!


「言われなくてもわかってるわよ!!!!!」


そう言ってマーキス様たちがあたしたちがいないことに気づいて駆けつけてくれるまで、なんとか生き延びるためにあたし達は武器をとった。

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