閑話:私と手紙
あのキ、キスをした日から早9年が経ちました。
その間私はジル様の家を訪ねたり訪ねられたりしていましたので頻繁にお会いしていたのですが………
「はぁ……。」
「アイリーン様?どうかなさったのですか?」
「アズーラ……何でもないのよ、何でも……。」
ジル様ももう15歳ですもの。王立学園に入学なさることは覚悟していましたわ。
いくら私が嫌味を言っても不遜な態度をとってもか、可愛いとか素敵だとか言ってくるジル様にはさんざん辛酸を舐めさせられましたわ。
やっと開放されると思ったのに、それが、寂しいなんて思っちゃダメですのに……
「アイリーン様!ジルベスター様からお手紙が届いてますよ!!」
「すぐ読みますわ!それから、便箋と手紙を用意してちょうだい!!」
こんな些細なことで舞い上がってしまってはイケナイとわかっているのよ。原作通りを目指すなら返事なんて書いちゃいけないことも。でも、ジル様が嬉しそうに笑うなら、ほんの少しだけ夢を見ていたいの。
「あなたの春色の瞳がもう恋しいです。」
どうしてもまだ踏ん切りのつかない私は今日もあなたに素直になれずに
「あら、ジル様は相も変わらず春なんて軟弱な色がお好きですのね。私はさっさと春も夏も過ぎてしまえばいいのにと思うばかりですわ。」
夏の長期休暇もさっさと過ぎてしまえばきっとこんなに心を波立たせる必要もないんですのよ。
きっとそんな皮肉には気付かないんでしょうね。
「先日空間魔術の教授に才能がないと告げられました。」
「あらあら、そんな自分の身の丈に合わないような講義を取るなんて何を考えていらっしゃるのかしら?そんなものに時間を取るくらいなら貴方のその無駄に逞しい身体を鍛えた方が良いのではなくって?特異性より相性がいかに大切か考えればわかるでしょう。それで調子でも崩してご覧なさい、笑ってさしあげるわ。」
可愛くない返事なのに貴方が待っていてくださるから、今日も私は自分に言い訳をして返事を書きますの。
そんなだから数日後、
「貴女に会えない日々は時間が長く感じます。貴女に会える夏が待ち遠しい。次の長期休みには必ず会いに行きます。」
なんて手紙が届いたら
「アズーラ!!!すぐにお針子を呼んでちょうだい!!秋色のドレスを1着急ぎで作りますわよ!!!」
赤色のドレスで身を包みたくなってしまうのは仕方の無いことでしょう!!?
「ああもう!会ったらまたジル様のペースに呑まれてしまいますわ!!」
いつかのぬいぐるみを抱きしめてそう怒ってみるけど、やっぱり笑顔は隠せそうにありませんの!!!