のりこむそうです。
可愛いアイリーンに見送られてやってきたデューク邸、正直これがマティアスの為じゃなかったら帰ってる。
「あの、ジルベスター。本当に父と話し合いを……?」
「当たり前だ。お前の問題を解決するために来たんだからご飯食べて終わるはずないだろ。」
不安げに聞いてくるマティアスにそう返す。第一アイリーンと泣く泣く離れてここまで来たのに何もやらずに終わったら意味無いだろ。
据え膳我慢したんだぞ?絶対今日で解決させる。
「あら、マーキス侯爵。お久しぶりですわね。」
「デューク夫人、お久しぶりです。」
玄関から入ってすぐにマティアスの母親、デューク夫人が待ち構えていた。
手を取り甲にキスを落とすと、あらまあなんて言いながら顔を赤く染める。
これがアイリーンであればどれだけよかっただろうか……。
「母上、このような所でお待ちとは珍しいですね。なにかあったのですか?」
ぎゅっと拳を握りそう聞くマティアスに夫人は口に手を当て大げさに驚いてみせる。
「まあ!何があったかなんて、あなたが勤務中に体調不良で早退したと聞いたものですからここで待っておりましたのよ。それなのに帰ってこない。全く、体調管理もできないようではお父様のような立派な宰相になれませんわよ。第一、」
「夫人。申し訳ないがマティアスとは話さなければならない事があるんです。後になさっていただいても?」
マティアスに詰め寄り叱責しようとする夫人をとめ、マティアスの肩に手を置く。
夫人の言葉に顔色を悪くしうっすら冷や汗をかいていたマティアスがそれにほっと息を吐く気配がした。
「あら、そう。ではまた食事の後にでもお話しますわ。ではマーキス侯爵様、ごゆっくりなさってくださいね。」
夫人はニコリと微笑みを浮かべると家の奥へと去っていった。
「すみません、ジルベスター。助かりました。」
「構わん。ところでデューク宰相がどこにいるかわかるか?さっさと話し合いを済ませるぞ。」
身体を固くしたマティアスがこくりと僅かに頷く。
「おそらく父は、書斎にいると思います。こちらです。」
そう言って案内をしてくれるマティアスについていき、ついに親子仲の絡まった糸を解くために敵の懐へとのりこんだ。
「父上、今、お時間よろしいでしょうか?」
書斎の扉を二回ノックし、硬い声で喋るマティアス。緊張した表情には怯えがほんの少しだけ混じっている。
「……入りなさい。」
扉の向こうからデューク宰相の低く落ち着いた返事が帰ってきて、マティアスがびくりと身体を震わせた。
背中をぽんっと軽く叩いてマティアスを励ます。
「頑張ってこいよ、マティアス。何かあったら俺が何とかしてやる。ちゃんと本音でぶつかってこい。……まあ、もしこの家にいれなくなったら侯爵位でよければ俺の養子にでもなればいいさ。」
最後にほんの少し冗談を交えて背中を押して書斎側に1歩進ませる。
「……ありがとうございます。…………あなたが、友人でよかった。」
緊張が少しとけたのかまっすぐ前を向いて書斎へと踏み込んでいったマティアスを見送り俺は背を向けて応接室へと向かった。
ゲームの中では、デューク宰相は決して家族に興味がないという訳ではなかった。しかし昔から天才だなんだと持て囃され、国を支えるべく勉強ばかりに時間を費やしてきた彼は、いつしか人との関わり方を忘れてしまったのだ。
ゲームの中でヒロインは面と向かってデューク宰相に文句を言い、その結果誤解が解けるのだが……。正直俺は家族間の問題に他者がむやみに踏み込むべきではないと思っている。
実際ゲーム内ではヒロインがことを大きくしたため夫人と公爵は離縁した。
この世界の公爵が夫人と別れたいのかもわからないのにそんなリスキーな真似できない。
それに俺の仕事はマティアスを勇気づけること。きっとあいつなら自分で自分の思いをぶつけられると信じてる。
そんなことを思いながら俺は空間転移魔法を使った。
どこに飛んだかって?ちょうどうちの天使が寝る時間なんだよ。
「きゃ!?じ、ジル様!!?どうしてここに!?」
飛んだ先は寸分違わずうちの屋敷で、しかもちょうどヴィルを寝かしつけようとアイリーンが準備しているところだった。
「ととしゃま!!」
「おいでヴィル。……ちょうど今マティアスが父親と話をしている。男どうしが腹割って話すのに部外者がいたら不粋だろ?だからあいつが自分で話をつけるまで帰ってきたんだ。」
子供用のベッドから腕を伸ばし俺に抱っこを求めるヴィルを抱き上げゆらゆらと揺らして眠りに誘ってやりながらアイリーンの質問に答える。
「え、でも、原作だとヒロインが話をつけますわよね?」
頬に手を当て困ったように首を傾げるアイリーン。
アイリーンの髪がサラリと一房首元に流れたのでそれをそっとつまむ。
「俺はあくまで攻略キャラであってヒロインじゃないからな。それにマティアスの好感度よりも、アイリーンの好感度をあげたい。」
手に取ったアイリーンの髪を口元に持っていきキスをする。
「で、アイリーンの俺に対する好感度はどのくらい?」
いつの間にかうとうとし始めたヴィルをそっとベッドに下ろし布団をかけてやる。
するとタイミングを図っていたかのようにアイリーンが俺の胸に飛びついてきた。
ふわりとアイリーンの女の子らしい少し甘い、でもくどくない香りが鼻腔をくすぐり、抱きしめた線の細い女性らしい柔らかい身体を堪能する。
まるで俺のためと言っても過言でないほどにピタリと俺の胸に収まるアイリーンに庇護欲と、いっそ俺の好きなようにしてしまいたいという支配欲が首を擡げる。
「好感度なんて、出会ったその時から大好き状態ですわ……。」
アイリーンの抱きつく腕が俺の体1周分回っていないのに、それでもぎゅうっと隙間なくひっつこうとしている姿がいじらしい。
力強く抱きしめてしまえば折れてしまいそうなその細い体を優しく、それでも隙間を作らないように俺も抱きしめ返す。
「アイリーン。可愛い。」
耳から直接流し込むように囁くとピクっと身体を跳ねさせ俺を見上げ睨みつけてくる。
「そう言うジル様はどうですの……?」
そんなのアイリーンに会った時から決まってる。
「好感度は出会った時から愛しいだよ。貴女以外は考えられない。」
嬉しそうに照れ笑いを浮かべるアイリーン。
こんな言葉で喜んでくれるならいくらでもってやろう。
でも今日は、
「ごめん、マティアスから連絡が来た。行かなきゃ。」
俺とギデオンが共同制作で作った懐中時計型の携帯交信機が震える。
まあ携帯電話みたいなものだと思ってくれたらいい。
震えるか一定の光を発することしか出来ないが、合図に使ったりモールス信号でやり取りしたりはできるからかなり重宝してる。
そう言うとアイリーンはさみしそうな表情で俺から身体を離し、名残惜しげに細い指を俺の腕に添わせる。
その姿に我慢ができずぐいっと腕を引いて噛み付くようにキスをして離れ難さを誤魔化すようにすぐさま本日2度目のデューク邸に飛ぶ。
とりあえず、本日2度目の据え膳を我慢した俺を誰か褒めてほしい。切実にっ!!!




