一緒に紅茶を飲むそうです。
俺がマティアスを一人残して部屋に戻るとアイリーンが駆け寄って来る。
スカートを持ち上げて走ってくる感じわかるかな?一生懸命ですって感じがしてかわいいと思う。
「ジル様、あの、マティアス様は大丈夫ですの?」
手を胸の前で祈るように組み、眉尻を下げて心配そうに聞いてきた。
「ああ、たぶんな。」
「その、何があったんですの?」
「…原作だ。認められたいのに認めてもらえなくて自分が何のために苦労しているのかわからなくなったらしい。今は一人で心の整理をしてるんじゃないのか?」
そういうとほっと安堵の息を吐くアイリーン。ほんの少し、嫉妬心。
アイリーンが俺以外の男のために心を砕く様子はあまり面白くないな。
心が狭い?知ってる。
「アイリーン、大丈夫だよ。」
ぎゅっとヴィルを間に抱えたままアイリーンを抱きしめる。
「ジル様!?」
「アイリーン、不謹慎だが、今日はいつもより早く会えてうれしい。」
そういうとさっと顔を赤く染めて照れるアイリーンの唇にそっとキスをする。
流石にこれ以上するとマティアスをほったらかしにする展開になるので抑えるが…、でもやっぱり愛しの嫁に会えたらテンション上がるよな?
そこでヴィルに聞こえないようにそっとアイリーンの耳元にそっと口を寄せ、低くささやく。
「アイリーン、続きは今夜な…。」
そうささやくと瞬時に顔を真っ赤に染め上げてぽこぽこ俺を叩いてきた。
「もう!もう!!ヴィルに聞かれたらどうしますの!!」
「かーしゃま?」
「っっ。何でもありませんわ!!」
そういうとさっと俺の腕からヴィルを受け取り、赤い顔のままたぶん紅茶を準備しに部屋の奥へと歩いていく。
俺の嫁が可愛い。ほんとに結婚できてよかった。いや、まじで。
「すみません、ジルベスター。ご迷惑をおかけしました。」
しばらく庭園に面した応接室のソファでまったりしてると庭からマティアスが帰ってきた。
「かまわん、俺も学生時代に世話になったからな。仮を返させてくれ。」
そういうと薄く笑ったマティアスが俺の向かいのソファに座ると、タイミングよくアイリーンが紅茶をもって入ってきた。
「ああ、アイリーンさんありがとうございます…。」
「いえ、ゆっくりしていってくださいね。」
そう微笑んですっと下がる良妻の鑑。じっとアイリーンを見ていると、ちらりと俺を盗み見たアイリーンと目が合う。まさか俺が見ていると思わなかったのか、耳をちょっと赤く染めてさっさと下がっていってしまった。
マティアスがこんな状態じゃなかったらすぐにでも抱き上げてどこにとは言わないが連れ込みたい。
一児の親とはいえ、まだまだ新婚夫婦なんだよ。察してくれ。
「ジルベスター、私の話を聞いてもらえますか…?」
「ん?もちろんだ。」
そう言って語りだしたのは、先ほどガボゼで語った内容と、ゲームで聞いたことのある内容だった。
しかし、それを実際に目の前で語られると心が痛む。悩んでいるのは、ゲームのキャラなんかじゃない。実際の人なんだと実感させられる。
「マティアスは、どうしたいんだ?母親とのわだかまりをなくしたいとか、父親と話したいとか…。どっちにしろ宰相を目指すなら父親と話すのは絶対だとは思うが…。」
そういうとマティアスは顔をゆがめる。
「そう、ですね。正直母とは、話したくないです…。ですが、父とは話さなければならないとは思っています。父が私に興味がなかったと言っても、私にとっては長年の憧れでしたから。宰相は私の夢ですから。」
少し悲しそうに顔をゆがめながらもなんとか笑うマティアスに、こちらも胸が痛くなる。マティアスは心を落ち着けるように紅茶を一口飲んで、ふぅっと息を吐いた。
「なら話は簡単だ。明日デューク宰相の執務室に乗り込むぞ。それで本音で話し合う。いいな?」
まどろっこしいのは面倒くさいし性に合わないので正面から向かおうというとマティアスはぎょっと目を見開いて驚く。
「ちょ、本気ですか!!?ち、父の執務室に乗り込むなんてっ!!」
「なら今晩マティアスの実家に行くぞ。そこで話し合う。」
「ええっっ!!!?」
よほど父親と話すのが緊張するのか、挙動不審になりながらも、いや、でも必要なことだとかなんとか自分を納得させるようにつぶやいている。
「よし、アイリーンに言ってくる。ここで待っていてくれ。」
「くっ!私も、覚悟を決めますっっ!!」
ぶつぶつつぶやいているマティアスを置いて、アイリーンを探すために部屋を出ると、
「あ、」
部屋の扉の前でしゃがみ込み、耳をつけていたアイリーンがいた。
しかも手にはコップをもって、それを耳と扉の間に挟んで聞いていたらしい。
「アイリーン…。」
何なんだ、何でそんな古典的な方法使ってるんだ。かわいいかよ。行動がいちいちかわいい。
「あ、その、これはっ!あぅ………気になったんですの。」
わたわたと手を動かし、最終的に恥じ入るようにそういうアイリーンに我慢ができなくなって正面から肩に担ぐように抱き上げる。
「ひゃあ!?あの、ジル様っ!!?」
アイリーンが抱き上げられた状態で何か言っているがとりあえず無視して俺たちの寝室のソファに下ろす。
「あ、あの。ジル様……?」
「で?俺とマティアスの会話を聞いていた理由は?寂しかった?」
アイリーンを閉じ込めるようにソファの背もたれに腕をつく。
「そ、そんなんじゃ、ありませんわ…。」
赤い顔でそっぽを向くアイリーン。結局は腕の中に閉じ込めてるわけだからせわしなく動く視線も、緊張で震える睫毛も、何か言おうとしては言葉が見つからずにパクパクとさせる瑞々しい口も全部わかる。
「アイリーン。俺は寂しい。キスしてもいいか?」
そういうと恥ずかしさから目を潤ませた瞳をこちらに向け、きゅっと唇を引き結んで俺を睨んでくる。
「…言わせないでください。」
しばらく見つめあっているとついにアイリーンが折れ、そういった。
ゆっくりアイリーンを見つめながらキスをする。
「ん…っ、はぁ…。」
そっと離れる瞬間にちゅっとリップ音を鳴らすと、より一層顔を染めて恥ずかしがるアイリーンが妖艶でかわいらし。
「今日はマティアスの所に泊まるかもしれない。続きは明日の夜でいいか?」
「………ばか。」
ぽすっと俺の胸に力なくこぶしを叩きつける。これ以上は、ヤバいな。何がヤバいって、もう全体的にヤバい。
とりあえず俺の言語中枢と理性がヤバい。
「じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃいませ、ジル様。」
今度はちゅっとアイリーンから軽いキスをされる。
据え膳食えないのってつらすぎるだろ。
改めてテオドールの忍耐力の強さと不憫さを身をもって実感した。




