自宅で話し合いをするそうです。
あの後すぐに空間転移魔法で俺の自宅の玄関にとんだ。
「アイリーン、今帰った。」
「ジル様!!?と、マティアス様まで!!ど、どうなっさたんですの!?」
ちょうどヴィルと一緒に家の中を歩いていたアイリーンに声をかけると、マティアスが泣いていることもあり非常に驚いたように目を見開いた。
「ととしゃま!ととー!!」
「ヴィル、おいで。」
女神の腕の中の天使がこちらに手を伸ばす。そうかそうか、俺の天使はどうやら飛んでくるのではなく迎えに来させるスタンスらしい。
かわいすぎる。そんなん迎えに行くだろ普通に考えて。
アイリーンの腕からだいぶ大きくなったヴィルを受け取る。
「アイリーン、悪いがマティアスと話がしたい。後で紅茶を準備してくれないか?」
「え、ええ。もちろんですわ。」
ヴィルを抱えたままマティアスを連れたってうちの広い庭に出る。
「さて、何に悩んでるのか話を聞かせてもらおうか。」
庭にある西洋風東屋、ガゼボに座って話を聞く。
ヴィルは俺の膝の上にのせて向かい合う。両手をもって伸ばしたり曲げたりしたりして遊ぶ。
なんかすっげーテンション高く喜んでくれるんだけど、かわいい。
しばらく、俺がヴィルに呼びかける声と、キャッキャッとはしゃぐヴィルの声が響いていたが、ぽつりとマティアスが話し始めた。
「私は、ずっと、父のような宰相になるのが、夢でした。昔から、ずっと母にお前は父のような宰相になりなさいと、言われていたんです。」
あえて何も言わずに聞き流す。たぶんマティアスに必要なのは自分で思考を整理する時間だと思う。
「なので、ずっと父のような宰相になれるようにと、努力を重ねてきたつもりです。でも、どれだけ努力しても母は私がどうしたいかという意思よりも自分の理想を押し付けるだけで私のやりたいことなんて、聞いてくれません。父も、私がどれだけ努力しても私を見てくれないっっ!!」
最後は叫ぶように声を荒らげる。
先ほどまではしゃいでたヴィルもそんなマティアスのことが心配なのかキョトンとした顔でマティアスを眺めている。なあにその顔、超レア。かわいい。
「ととー!」
ヴィルがマティアスのほうに行きたそうに手を伸ばす。
「マティアス、うちの子がお前をご所望だ。抱っこしてやれ。」
「え?あ、ちょっと!じ、ジルベスター!?」
さっとマティアスの膝の上にのせてやるとうちの天使は大変ご満悦のようでまた笑顔を浮かべ、急にマティアスの頭をなで始めた。
「いーこいーこっ!!」
「……は?」
「まてぃあしゅいーこいーこ。」
なおもそういって撫で続けるヴィルにマティアスは驚きに目を見開き、その目から透明な涙を流す。
「たーいの?」
こてんと首をかしげるヴィルをマティアスが抱きしめた。
「そう、ですね。痛いです。私は、ずっと、痛かったんですよ…。」
「たーいのたーいのけー!!」
両手でマティアスの頭をわしゃわしゃしてばっと両手を広げる。
「ヴィル、痛いの痛いのとんでけーだぞ。」
「たーいのたーいのけー?」
「とんでけー。」
「とんけー!」
何度も何度もヴィルがわしゃわしゃばっ!!ってやるからマティアスの髪の毛はもうぼさぼさだ。
しかし、ずっと認めてもらいたかったマティアスにとってヴィルの言葉は心に来るものがあったらしく、しばらくそのまま泣いていた。
どれだけ泣いたのかわからないが、ヴィルは結局マティアスが泣き止むまでなでなでばっ!を繰り返し、ついに泣き止んだ時には褒めろと言わんばかりの表情で俺を見てきた。
マティアスの膝から抱き上げて顔中にキスをするとキャッキャと喜んだ。これを天使と言わずに何を天使というのかっっ!!
「すみません、情けない姿を見せました。」
ずびずびと鼻をすするマティアスにハンカチを渡してやる。
「まあなんだ、ヴィルの二番煎じだけどマティアスはいい子だと思うぞ。」
ちょっと笑ってそう言ってやる。
「ずっと母親とか父親とか人のために頑張ってたんだろ?すごいと思うぞ。俺はまず無理だな。アイリーンやヴィルのためならともかく人のためにそこまで頑張れない。そもそもアイリーンもヴィルも俺がそうしたいからってだけだしな。」
ヴィルを片手で抱え、もう片方の手でマティアスの頭を撫でてやる。
「まあなんだ、使い古された言葉だけどさ、誰もお前の努力を認めないなら俺とヴィルがいつだって認めていーこいーこしてやる。自分のやりたいようにやったらいいさ。誰かがお前の気持ちを否定するなら俺らがその分認めてやる。大変なら手伝ってやるよ、まだ卒業パーティーの時の借りも返せてないしな。」
そういうとまたハンカチに顔をうずめるマティアスの頭を余計ぐしゃぐしゃに撫でまわす。
「ほら、俺の愛しい嫁が紅茶入れて待ってるんだからかえるぞ。」
そう言うと、マティアスは相変わらずアイリーンさん一筋ですねと、やっと笑顔を見せた。
何を当たり前のことを言っているんだといったらさらに笑ってきたのでガボゼに残してヴィルと二人でたぶん紅茶を用意しておろおろしているであろうアイリーンの元に帰る。
後ろからまたすすり泣く声が聞こえてきたのは聞こえないふりをしてやるのが男の友情じゃないか?
「たいたいのとんけー!!」
ちっちゃいヴィルにはまだこの美学がわからないらしかった。
だがまあ後ろからマティアスの吹き出す声が聞こえてきたから良しとしよう。天使の力すごくないか?




